【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ

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さらに幽霊が足りません

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イーゼルに乗せられた描きかけの絵を見て知恵熱をだした私は、それから約一週間寝込んでしまったのだった。その間、まめまめしくアニーが面倒を見てくれたが、長期間業務から離れていたのに良くふたり一緒にまとめてクビにならなかったものである。

熱をだして魘されている間、夢を見る。 

蒼白な顔で胸から血を流して恨めしげに私を睨む見覚えのあるふたり。
愛しい男爵令嬢に身を捧げたのだから、彼らにとって本望だと思っていたけれど、不思議なことにそうではないように見えた。
私を逆恨みするより、男爵令嬢の方へ行って祟ってくれと全力で思っていると、ふたりの前に残りの三人の側近候補と男爵令嬢が同じく蒼白な顔で立っていた。男爵令嬢と側近候補の男のひとりは身体中を真っ赤にして、残りの男は頭から泥と水で濡れていた。
彼らは私を見ると、ニタァと笑う。
そのまま、六人は男爵令嬢を真ん中にして、五人はゆっくりとぐるぐる回って踊り始める。

疲れている、私全力で疲れている。

せっかくあいつらから解放されてせいせいしているのに何でこんなの見ているのだろうと、夢の中なのに遠い目をしていると誰かが足首を掴む。慌てて下を見れば、今度は肩から袈裟斬りにされてぱっくりと傷口を見せている王妃様がずるずると床を這っていた。

さすがに驚いて、必死に足を振って手を振り払おうとするけれど、王妃様が私の足首を掴む力は強くてはねのけることができない。

ここで捕まってたまるものかとパニックを起こしたように足を振っていると、耳元で誰かの声がした。低い男の声。聞き覚えがあるような気がしたけれど、誰の声なのか思い出せない。その声は、繰り返し繰り返し私の名を呼ぶ。まるで、このまま目が覚めないと思っているかのように。

名を呼ぶ声に、煩いと威嚇するように唸れば王妃様は霧消する。

王妃様も男爵令嬢も側近候補も全て消えたことに安堵していると、誰かが笑って頭を撫でたような気がした。

それから、それから、それから。

熱が収まり水から浮上するかのように目を開けると、寝台の横で立て膝の姿勢で控えていたアニーが目に入った。いつも朗らかな彼女のいつになく真っ青な顔に、それだけ心配を掛けてしまったのだと反省する。アニーの名を呼ぶと、ほっとしたように緊張で張り詰めていた顔が弛む。お嬢様と今にも泣きそうな声でアニーは呟くと、すぐにいつもの顔に戻る。そして、気を取り直したようにすくっと立ち上がると、「旦那様を呼んで参りますね」と言い残して、彼女は部屋の外へ飛び出して行ったのだった。

もしかして、とうとうお父様が見つけて下さったのだろうか。

脳筋のお兄様やお爺様や伯父様には、その辺りの期待はしていない。そう、全く全然これっぽっちも期待してない。
何で三人とも美女で名高い伯母様やお母様と顔が似ているのに、なぜあんなに脳筋なのだろうか。
彼らに任せたら、王都からしらみつぶしに破壊しながら進軍してくるに違いない。

サイドテーブルに置かれた水を飲んだ後、同じサイドテーブルの上に新聞が束になって置かれていることに気付く。寝込んでいる間に何かあったかしらと思いながら、新聞に手を伸ばす。寝台の上に広げて捲っていると、ひとつの記事に目が止まる。

元婚約者と男爵令嬢の情死の記事。

記事によれば、卒業パーティーで私を糾弾した側近候補と男爵令嬢が同衾している所を目撃した元婚約者がご乱心して側近候補の男と男爵令嬢を斬り殺した挙げ句に、城の塔から堀へ身を投げたと書かれていた。

あの卒業パーティーから急転直下というか、一気に減ったというか、自滅する位なら私に成敗させてくれと思わなくはないけれど。彼らにとって、卒業パーティーが人生のピークだったかと思うと、儚いものだったなと思う。

というか、我が元婚約者は男爵令嬢が他の『助けてくれるお友達』と寝ていたことを知らなかったのだろうか。

今更気がついてご乱心するな顔だけいいボンクラと、心の中で元婚約者を罵倒したのは言うまでもなく。

そういえば、一時期は「男爵令嬢の名誉が穢された」とかで、あの可憐な少女が泣きつく度に手当たり次第決闘を申し込んでは周囲に迷惑を掛けまくってたことを思い出して、うんざりする。ある意味で、元婚約者は世間知らずで夢見がちではあった。

あの時は、最終的に自滅して顔に大怪我をして羽目になった筈で。暫くして復帰した時には、手当たり次第決闘を申し込むようなことはなくなり、少し落ち着きを取り戻したように見えたのに。卒業パーティーの日まで、ずっと男爵令嬢を横に置いてはいたが。

しみじみとしながら、別の日の新聞を捲ると更に驚く記事があった。

王妃様が城内で、忽然と姿を消してしまったらしい。
侍女に軽食を用意させた後、人払いをしていたらしいのだけど、次の朝までお呼びがないことに不審に思ったことで発覚したらしい。しかし、あの王妃が自分から王城から出て行くような人でないことは、十年以上に渡る婚約者の母親として付き合った私が良く知っている。息子が情死した程度で、一番ちやほやされる席を手放す筈がない。

では、王妃様はどこへ行ってしまったのだろうか。

それに王家の醜聞をこう立て続けに、新聞に載せていいのだろうか。わざわざ新聞に載せるのは、意味があるのかもしれない。後、関係ないけれど、タイミング良く夢に出てきた幽霊たちと現実の死体の面子が合わないことに、思わずくすっと笑ってしまう。

そのまま、寝台の上に大の字で伸びる。

そして、せっかく知恵熱から復活したのに、更に次々と解らないことばかり増えてしまうと思っていると、どこからか焦げ臭い匂いがしてきた。何かお屋敷に異変が起きているに違いないと寝てないで廊下へ出ようと思った時、部屋の扉が勢いよく開く。

次の瞬間、抜き身の剣を持って顔を包帯でぐるぐる巻きにした男が押し入ってくる。
どこの誰なのかは、包帯の間から見える瞳で解った。
破落戸のように部屋へ来襲してきたのは、男爵令嬢と情死した筈の元婚約者で。

彼は私の顔を見ると、ニタァと笑ったのだった。

それにしても、旦那様。なんで私は使用人の部屋から、主寝室に移っているのでしょうか。
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