元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ

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現代の常識学

ケモ耳の出会い

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中央の国アーミアの外れにある獣人たちが住むとある村には双子の姉弟きょうだいがいた。

互いに容姿は似ているが、性格は全く違った。

姉であるはスラリと平坦な華奢な身体つきで右が青く、左が赤い髪色だ。

弟は身体つきは私と同じ華奢な身体つきで右が赤く、左が青い髪色だ。

瞳の色は私は両目とも赤で弟は青だ。

私たちは2人ともシバと呼ばれる小犬族こいぬぞくであり、2人とも耳が立っており、サラサラのしなやかな尻尾である。

私も弟も尻尾の色は髪の右側と同じであり、先が白くなっている。

顔は2人とも人間と同じ目と鼻の顔だ。

顔の形だけなら、多分見分けがつかないと思う。

私は本を読むのが好きでよく本を読んでいる。

逆に弟は身体を動かすのが好きで、いつも私を強引に連れ出してはモンスター狩りをしたりする。

ちなみに戦闘能力は私の方が高い。

今日もその弟の修行と言う名のモンスター狩りに付き合わされて、近くの森に居るのだが…


「サティー、知ってっか?」

弟が突然言う。

「知らないわよ。」

「いや、まだなんも言ってねぇし…」

即答する私に呆れた様子で弟が言う。


私の名前はサテラで弟はアスラ。

サティーは私の愛称みたいなものだ。


「そう言えば、最近、面白い噂があるって聞いたわね。」

私が思い出して言うとアスラが嬉しそうに言う。

「そうそう!まさに俺が話そうとしてたやつだよ!王都にAランクモンスターをソロで倒しちゃうやつがいるらしいんだ!しかも、そいつは俺たちくらいの年齢の女なんだってよ!すげぇよな!俺も負けてられねぇ!」

「めんどくさいし、アンタ1人で…は行かせられないわね。アンタ、ものすごく方向音痴だし…」

「そうだな!悔しいけど、俺はサティーがいなきゃ、どこにも行けない自信しか無いからな!だから、サティーにも来てほしくて、とっておきの話を用意したんだ!」

終始自信満々な表情でアスラが言う。

私は「ふわぁ…」と大きな欠伸をする。

「興味が湧いたら、私も付き合ってあげるわ。」

「やったぜ!」

目をキラキラと輝かせながらアスラが話し始める。


ざっくりと要約するとAランクモンスターをソロで倒せるほどの女の子が居て、その子は異例の中の異例で学園に通いながら、冒険者として活動しているのだとか…

その子の仲間たちもとてつもなく強く、Bランク程度なら軽々と倒しちゃう強者が揃っていて、全員王族に雇われている女の子らしい。

さらにAランクモンスターを倒せる女の子は古代文学や魔法学に長けているだけではなく、裁縫や鍛治の腕も凄いものなんだとか。

極めつけには、あのシェテラエンデ様の血筋の人だとまで言われているそうだ。

正直に言います。

めっちゃ興味出ました。

伝説に語られる大賢者様のことをより深く知るきっかけにもなるだろうし、とてもワクワクするよね!

私たち獣人の中でも大賢者様に憧れを持つ者は多いし、私自身もシェテラエンデ様みたいな素敵な女性になりたいと願う1人なの!

そして、何よりも王族に雇われるほどの人がどんな人なのか興味がある。


「それとおっぱいもデカいらしいぜ!サティーもデカくなりたいってよく言ってるし、秘訣を聞きに行くのも面白そうだろ?」

「うっさい!ぶっ飛ばすわよ!!」

「わー!ごめんって!」

私がアスラに拳を振り上げた瞬間だった。

「ガサッ」と背後の草むらから音がした。

「サティー」

「わかってる」

私は気配を探る。

「…数は少ないからなんとかなりそうね。」

「そうだな。ケモノの臭いと少数のニンゲンの臭いもする。」

アスラはクンクンと鼻を動かして言う。

私たちが背中合わせで警戒していると周囲の茂みの中からオオカミ型のEクラスモンスターのウルフと共に数人の男たちが現れる。

「おっしゃ!獣人を見つけるとは運がいいねぇ!」

デブの男が汚い声で言う。

「しかも、女が2匹だぜ?」

アスラが剣を構える。

私も拳を構える。

「こんな子犬ごときに発情してんじゃねぇぞ。」

一際ガラの悪そうな大男が呆れたようにデブに言う。

「お前ら!まずはガキどもの動きを止めな!」

ハゲの男がウルフに命令する。

「アオーン!」と雄叫びをあげたウルフがまとめて飛びかかってくる。

「せやぁ!」

私の突き出した拳が一番前にいたウルフの顔面にヒットする。

「せいっ!」

アスラの振り払った剣が二匹のウルフを斬り落とす。

「そらっ!よっ!」

私は続けざまにワン・ツーで二匹倒す。

「それっ!」

最後にアスラが残ったウルフを一掃する。

「チッ…使えねぇ犬っころどもだぜ。」

命令を出したハゲが吐き捨てるように言う。

「へっ!この程度で俺たちを倒せると思ったら大間違いだぜ!」

アスラが挑発するように言う。

「なら、直接ぶちかますしかねぇなあ!」

デブの男が私に殴りかかってくる。

「ヒャッハー!俺様の拳で潰れなあ!」

私はデブの拳を避ける。

「オメェは俺が相手だ!」

大斧を持ったハゲがアスラに斧で切りかかる。

アスラもそれを軽く避ける。

「任せた!」

「おう!」

私の声にアスラが短く返す。

私は獣化の力を使って両腕を強靭な獣の腕に変化させる。

健脚直拳けんきゃくちょくけん!」

私は一気に距離を詰めて、そのままデブの腹に右の拳を突きさす。

しかし、デブの腹の肉を揺らしたに過ぎなかった。

「あん?弱っちぃなあ!」

デブの太腕から繰り出される右ストレートが私の身体を吹き飛ばす。

「…ッ!」

一瞬、何が起きたか分からなかった。

「サティー!」

アスラが私の元に駆け寄ろうとする。

「よそ見してる場合かよ!」

「グアッ!?」

大斧の刃がない部分でアスラが吹き飛ばされたのが横目にもわかった。

アスラが私の隣まで飛ばされて、地面に叩きつけられたのがわかる。

「ア…スラ…」

私は痛む身体にムチを打って立ち上がる。

口の中が血の味がするし、身体の中も外も全部痛い。

直感で内蔵がやられたのを理解する。

アスラの方は頭から血を流したまま倒れており、動けない様子だった。

私は目を閉じて、あるをする。

「サティー…ダメだ…その力は…」

私の身体の内側からが駆け上がる。

「アスラは…私が…護る…!」

サテラの髪色が毒々しい紫色に変わる。

サテラが目を開けると右眼がまるでアメジストのような紫の瞳に変化していた。

左眼は大きな変化はないが、僅かに輝きが強くなっていた。

尻尾はまっすぐ伸びており、神々しささえ感じるほどの真っ白な毛色になっていた。

獣化していた腕は毒々しい紫色の毛に覆われ、紫色の鋭い爪が生えている。

「我は毒を極めし、毒の王…我は神すら蝕む毒の獣…獣化アニムス:神殺毒狼ヒュドラウルフ!」

サテラはそう言うと一瞬でデブを切り裂く。

「アガガガガガガガガガガ!」

デブは痙攣したような動きをして爆散する。

飛び散った肉片が周囲の地面を溶かす。

「ほう?雷毒らいどくか…だが、俺には効かねぇな!」

ハゲが大斧を振るう。

「アオーン!」

サテラは雄叫びをあげて大斧を受け止める。

ゼロ!」

サテラが毒でぐちゃぐちゃの声で言うとハゲが一瞬で距離をとる。

その瞬間、サテラの爪が爆発する。

強力な酸性の毒が飛び散り、周囲の木々や地面を一瞬で溶かす。

「だから、効かねぇって言ってんだろ!」

ハゲはそう言うと大斧を振りあげて叩きつけるように振り下ろす。

「ガルウ!?」

サテラはガードしようとしたが、身体が思うように動かず、そのまま大斧の一撃をモロに受けてしまう。

かなりの出血を伴う怪我を負った。

「ア…グッ…アスラ…ゴメン…」

出血により毒気も抜けて、サテラの髪の毛の色が徐々に元のサテラの毛色に戻り始める。

私はもうダメだと膝を着いた。

身体が限界を迎えたことを理解する。

元々体への負担が大きい獣化形態アニマライズだ。

血を毒に変化させることで限界を超えた力が発揮出来るが、その代償も大きく、身体中が痛い。

加えて、しばらくは獣化アニムスを行えなくなる。

さらには失血による息苦しさに加えて、内蔵の破裂が響いている。

これ以上は動くことが出来ない。

「へっ!犬っころごときが俺様に勝てるわけがねぇんだよ!」

ハゲが嫌な匂いのする液体の入った瓶をポーチから取り出す。

「欠損してちゃ、売り物にならねぇし、こいつで手っ取り早く補えば、なんとかなるか。」

ハゲがそう言って瓶の蓋を開ける。

「うっ…この臭いは…」

よりいっそう強くなった臭いの正体はCクラスモンスターのパラサイトスライムだ。

パラサイトスライムは弱った個体や死んだ個体の身体の穴から体内に侵入し、酸性毒を使って体の中身を溶かした後に内蔵などを模倣して、身体を乗っ取ってしまう危険な寄生種である。

パラサイトスライムが何故身体を乗っ取るのかはわかってないが、パラサイトスライム自体は乾燥に弱いことから乾燥から身を守る手段として死体の体を利用し始めたのがきっかけではないかと言われている。

特徴として僅かにだが、魚の死体が腐ったような臭いがする。

ただし、私たちは鼻がとても良い。

そのため、この僅かな臭いでも強烈に感じ取ってしまう。

「そうさ。お察しの通り、パラサイトスライムだ。ま、こいつは改造されてるから、死んだ部分が再生するだけだがな。」

ハゲがそう言ってニチャアと笑いながらゆっくりと迫ってくる。

「うぅ…」

身体が動かない。

本能が逃げろと警告を発しているが、身体が言うことを聞かない。

「くっ…動け…」

必死に動かそうとするが、やはり動けない。

その間にもゆっくりとハゲが近づいてくるのがわかる。

ハゲが目の前まで来て、もうダメだと思った瞬間だった。

「ジェットスパイク!」

凄まじい勢いでハゲが吹き飛んだのが見えた。

同時に私の目の前にハゲから奪った便を持った白い髪の少女が着地する。

「あん?」

ハゲが一瞬で気絶したことに気がついたガラの悪い大男が面倒くさそうな顔をして言う。

「バーデストを一撃で沈めるとはな…テメェ、何者だ?」

少女は別の瓶を取り出して動けない私の口にポーションのような液体を飲ませながら言う。

「ん…人の名前を聞くなら…まずは自分から名乗るべき…」

少女が言うと大男がニヤリと笑う。

「女のくせに生意気だな。俺はここいら一帯の賊どもを占めるかしらのベンデヴァだ。」

少女は首を傾げる。

「えっと…ボスってこと?」

「そうだ。」

ベンデヴァが言うと少女が言う。

「ふーん…ボクはカリヤ…」

カリヤと名乗った少女はそう言うとゆっくりと立ち上がって大男の方を向く。

「お前をぶっ倒す…それだけ…」

カリヤはそう言うと一瞬でベンデヴァの目の前に現れる。

「んなっ!?」

「ふん!」

ベンデヴァの驚いた顔にカリヤの右ストレートがめり込み、数秒後に吹き飛ぶ。

「メリィ!」ととてもじゃないが、人がぶたれただけで出てはいけない音が響く。

ベンデヴァは白目を向いて倒れていた。

「ゴミはちゃんと片付けないとね。」

カリヤはそう言って「パンパン」と埃を落とすような仕草で手を叩く。

その目にはどこか闇を感じた気がしたが、気の所為と言うことにしておこう。

「サティー…どうなって…」

アスラがフラフラと歩いてくる。

「…?1人じゃなかったんだ…」

カリヤはアスラに気がついた様子でポーチの中を探りながら、アスラの方へ近寄る。

アスラは一瞬身構えようとしたが、私の表情を見て大丈夫だと判断した様子で目の前でカリヤが差し出したポーションのような液体を飲む。

「危ないところを助けてくれてありがとう!」

私が頭を下げるとカリヤは大きな欠伸をして言う。

「別に…依頼のついでだし…」

カリヤはそう言って立ち去ろうとする。

「待ってくれよ。」

アスラの声にカリヤが足を止める。

「アンタの名前を教えてくれ!恩人の名も聞かずに行かせるなんて出来ねぇ!」

カリヤはアスラに向き直ると少しだけ自慢げに胸を張って言う。

「カリヤ…それがボクの名前だよ…」

「カリヤだな!俺はアスラ!こっちは姉貴のサテラだ!」

「ん…」

カリヤはそう言って再び立ち去ろうとする。

「待ってください!」

私はカリヤの前に出る。

「今度は何?」

カリヤはほんの少しだけめんどくさそうな顔をする。

「あの…弟子入りしたいです!」

「弟子入り…?」

私が頭を下げるとカリヤが首を傾げていた。

「はい!」

私は元気よく返事をする。

「待ってくれよ!それなら、俺もアンタに弟子入りしたい!俺、サティーよりも強くなって皆を守れるようになりたいんだ!だから、頼む!」

アスラも私の隣に来て頭を下げる。

カリヤは少し考えるような様子を見せて言う。

「ん…ボクよりシェラさんの方が強いし、そっちの方が良いと思う…」

私はカリヤの両手を握ってカリヤの目を見る。

「私はカリヤさんに弟子入りしたいんです!カリヤさんなら、同じ戦闘スタイルですし、私の戦い方の欠点も指摘しやすいと思いますし…ダメでしょうか?」

私の目を見たカリヤが諦めた様子で言う。

「そこまで言うなら…君はボクが鍛えるよ…ここまでされたら断れないし…」

『クククッ…面白いことになってきたのじゃ!』

そんな声が聞こえたかと思ったら、目の前に背の高い魔族の女性が出てくる。

「シャタルア、なんで出てきたの…?」

シャタルアの名を聞いて私は思わず身構える。

アスラはよくわかってない様子で首を傾げていた。

「なんでって…お主の弟子に挨拶しないのは魔王の名が廃るってもんじゃろ…」

シャタルアは後ろ頭を掻きながら言う。

「むぅ…物事には順番があるって、シャタルアが言ったのに…」

「じゃから、我も話が終わるまで待ったじゃろ?」

「まだ終わってないよ…」

カリヤが呆れた様子で答えながら、アスラの方を見る。

「ん?こやつはシェラのところに行くんじゃろ?」

シャタルアは首を傾げていた。

「あ、えっと…俺もカリヤさんに弟子入りしたいんだけど…」

アスラが言うとシャタルアがジッとアスラを見る。

そして、シャタルアが言う。

「ふむ…お主とカリヤでは相性が悪い。カリヤは天才タイプじゃし、特殊個体ギフテッドなのもあるから、お主とは相性が悪い。逆にサテラはカリヤに近いタイプじゃから、相性は悪くないというわけじゃな。これらを踏まえるとメイリーンが最適じゃろうな。まあ、アヤツはアヤツで癖のある性格をしておるが、一応Aランクのケンセイじゃからな。」


複数ある特殊個体の一つであるギフテッドは生まれつき何らかの能力が異常に高い個体のことを指す。

カリヤの場合は身体能力が非常に高く、まだ眠っている力も強いのだ。

そのうえで、天性の戦闘センスがあり、一度見た攻撃は瞬時に原理を含めて全て理解することが出来る能力もあり、一度見た攻撃なら当たらなくなるかほとんど無力化させるほどの適応力もある。

さらに生身での戦いなら、現時点で既に本気のシェラを凌駕するほどの実力を持っているため、実はカリヤもかなり規格外な能力を持っているのだ。

速さに関しては現時点で既にシェラを優に超える能力を持っている。

ただし、カリヤ自身は魔法も獣化アニムスも使えない体質となっている。

カリヤから魔法が放たれる場合、それはシャタルアによるものだ。


「そうなのか…だったら、そのメイリーンって人に会うまでは俺は1人だな…」

アスラは寂しげに言う。

「何を言っておる。お主には我が秘術を教えるから、一人でいる暇など無いのじゃ。お主の体質ならば扱えるはずじゃからのう。」

シャタルアは楽しげに言う。


シャタルアの言う秘術とは、魔族の特徴である、魔素を魔力に変換する体質を後付けする術であり、これがあれば元々持っている魔力を増加させることが出来るうえに、魔法が使えるようになり、極めれば魔法をことも出来るようになるとんでもない術なのだ。

本来は魔族にとって生命線と言える魔素を魔力に変換する能力が弱い魔族に教えるような秘術であり、大気中の魔素を魔力に変換して蓄える手助けをするものなのだ。

この秘術の使い方自体はシェラも知っているが、シェラには魔素の適応能力が無いので使えない。

単純に魔素に対する適応能力が高ければ使えるのだが、魔族以外だと魔素の影響を受けない程度の適応能力が必要となる。

ちなみにハラミもこの秘術が使える程度には魔素への適応能力が高いが、ハラミはこの秘術を使っていない。

シェラの場合はこの秘術とは関係ない魔素変換の魔法で魔素対策をしているが、こちらは魔素の変換にしか対応しておらず、魔法が使えない者が魔法を使えるようになったりはしない。


「そうなのか!?秘術がなんなのかは知らねぇけど、俺もシャタルアさんみたいな強いやつになれるのか!」

アスラがとても嬉しそうに言う。

「もちろん、お主が鍛錬を怠らなければの話ではあるが、我ほどとは言わずとも魔王に匹敵する力が手に入ることは約束しよう!潜在能力次第では今の我と肩を並べられるかもしれぬぞ。」

シャタルアは楽しげに笑って言う。

「ほんとか!?よーし!俺、頑張って鍛えまくるぞ!そんで、誰よりも強くなってやるんだ!」

アスラがとても嬉しそうに尻尾を振りながら気合いを入れる。

「クックックッ…可愛いやつじゃな。それじゃ、秘術を教えるから我の手に触れるのじゃ。」

シャタルアが不思議な光を纏った左手を出す。

「おう!」

アスラがそれに応えてシャタルアの左手に右手でグータッチをする。

「おお?!」

シャタルアの左手の光がアスラの右手に移り、不思議な紋章に変化する。

「秘術自体はこれで終わりじゃ。後はそいつを使って理解すればするほど成長して、お主だけの特別な力になるのじゃ。初めは簡単な魔法しか使えぬが、その術が成長すれば高位の魔法も使えるようになる。そうなった時は我のとっておきの魔法を教えてやろう。」

そう言うとシャタルアは少しだけ魔力で浮遊する。

「すげぇ!俺もそれが出来るのか?!」

アスラは嬉しそうに期待の眼差しで言う。

「うむ。これは魔力を使った浮遊じゃからな。魔法では無いから、すぐに使えるようになるぞ。」

「やったぜ!じゃあ、早速教えてくれよ!」

二人のやり取りをカリヤは眠そうな表情で見ていた。

…いや、すっごく寝てるような気がする。

私はカリヤに言う。

「カリヤさん、私にも何か教えてください!」

カリヤは「ハッ」としたように目を見開く。

「半分寝てた…」

カリヤはそう言うと静かに森の中へと歩き始める。

「待ってください!」

私も慌てて追いかける。

カリヤの歩く速度が速すぎてついて行くのがやっとだ。

私は小走りのような状態でカリヤについて行く。





しばらく、その状態で歩き続けて体力が限界を迎えそうになった頃だった。

「こっち…」

カリヤに呼ばれて傍に行って視線の先を確認する。

少し先には暗い青色の毛皮の小さめのクマのような生物がのんびりと昼寝をしていた。

「あれは…確かDランクのグリズリーですね…って、石を持ってどうしたんですか?」

カリヤは小石を構えて言う。

「戦う準備は良い?」

「え?」

カリヤが小石を投げるとグリズリーの頭に当たり、グリズリーが起きて周りをキョロキョロと見回して警戒する。

「ええー?!な、何をやってるんですか!?」

私の声に反応してグリズリーがこちらを向く。

「グルオオオオオー!」

「来るよ…」

グリズリーの雄叫びが聞こえたと同時にカリヤが言う。

そう言って、眠そうなまま構えもしないカリヤに違和感を感じつつも突撃してくるグリズリーを避ける。

「グルオオ!」

グリズリーが爪を振り上げて1番近くにいたカリヤに襲いかかる。

「カリヤさん!」

私が助けに入ろうとした瞬間だった。

「せい」

「グルオオオ?!」

「どごぉ!」と凄まじい音とともにグリズリーが吹き飛ぶ。

一瞬、何が起こったのか分からなかったが、カリヤが真っ直ぐに伸ばした右足を上げていた事から、右足を横に振って吹き飛ばしたのだと理解した。

グリズリーは吹き飛んだ先で口から血を出して死んでいた。

「す、すごい…あのグリズリーを一撃で…」

私がそう言ってカリヤを見るとカリヤが静かに淡々と言う。

「サテラ、今のははっきり言ってダメ…もし襲われるのがサテラだったら、対処出来なかったよね?」

「あ…はい…その通りですね…反省します…」

サテラが落ち込んで肩を落としている間にカリヤはグリズリーの解体をして言う。

「次、行くよ…」

そう言って、カリヤがまた歩き始める。

とは言っても、相変わらず私は小走りのような状態だったわけだが…

「こっち…」

カリヤの視線の先にはグリズリーがいた。

今度は無防備な姿で果物を食べていた。

カリヤが石を持って投げると今度はすぐにグリズリーに居場所が気づかれる。

「グルル!」

グリズリーが突進してくる。

私は獣化で腕を狼の腕に変化させてグリズリーの突進を受け止める。

「グッ…負けるかぁ!」

グリズリーの牙が刺さって痛む腕を振ってグリズリーを後退させる。

「今度は私の番よ!スピニングストライク!」

一気に距離を詰めながら、爪を捩じ込むようにして左ストレートを放つ。

「グルアアア!」

グリズリーが右の爪を振り下ろして私の爪を弾き飛ばす。

「きゃあ!」

衝撃で体が吹っ飛び、爪が欠けてしまったことに気がつく。

「爪が…」

私が欠けた爪に気を取られた隙にグリズリーの大きな右の前足が振り上げられていた。

「あっ…」

私は咄嗟に目を閉じて腕をクロスさせて防御体勢をとる。

しかし、いつまで経っても衝撃が来ることはなかった。

恐る恐る目を開けてみるとカリヤがいた。

その目の前にはグリズリーの右前足の無い死体があった。

「すみません…」

私が謝るとカリヤが言う。

「サテラ…相手をよく見ること…体は武器のように簡単に替えが効く物じゃない…だから、相手をよく見る…どう動くか…しっかりと考えてどう立ち回るべきか考える…」

カリヤがグリズリーを解体し終わって、立ち上がる。

私はカリヤに言う。

「カリヤさん」

「ん?」

カリヤが気の抜けたような声で返事をする。

「私、弱いですね。こんなダメダメな状態では弟子入りとか考えるべきじゃなかったかもしれません。」

私は下を向く。

悔しさと悲しさが入り交じって目から大粒の涙が零れ落ちてしまう。

「サテラ」

カリヤが私の顔を両手で挟んで目を見る。

「今のサテラには経験が足りないんだと思う…だから、サテラは弱くなんかない…普通はこんなにも早く戦えたりしない…と思う。シャタルアが言ってたみたいにボクは元々能力は高かった…だけど、ボクは自分を弱いと思っていたから戦えないと思ってた…でも、シェラさんが強い敵の倒し方を教えてくれた。それが相手をよく見て、相手がどうするか予測すること。」

カリヤは静かに立ち上がる。

「それから、自分の強みの把握もしないといけない…これはボクが今まで戦ってきて学んだこと…自分の強みを相手の弱みにどう押しつけるか、自分の強みを活かすために相手をどう動かすか、作戦を立てるのも相手をよく見て知ることでより強固なものに出来る…」

カリヤが拳を突きだす。

「誰かを守るのにも力が必要…もっと強く…誰よりも強く…だから…頑張る…それだけ…」

カリヤはそう言うと森の奥へと歩き始める。

カリヤについて行きながら、出会ったモンスターを討伐する。

それを繰り返しているうちに街っぽい場所に出る。

気がつけば、空は真っ暗闇で夜になっていた。

「カリヤさん!」

白い小さな妖狐が駆け寄ってくる。

小さな妖狐は飛びつくようにギュッとカリヤに抱きつく。

「心配したんですよ!急に何処かに行って、そのまま行方不明になっちゃうんですから!ほんっとに!何かあったのではないかと心配で…心配で…」

小さな妖狐が泣き出してしまう。

「ユキ…ごめんね。」

カリヤが申し訳なさそうに泣いているユキの頭を撫でる。

騒ぎを聞きつけたとても大きな中犬族(?)の女性がゆっくりと歩いてくる。

「メイリーンさん」

メイリーンと呼ばれた女性が言う。

「カリヤちゃん、まずはおかえりなさい。」

「ただいま」

ユキが離れるとカリヤも応える。

メイリーンの放つ重々しい雰囲気に体が動かない。

「話はシャタルアさんから聞きました。貴方はパーティで行動しているにも関わらず、無断で単独行動をしたそうですね?」

「あってる。」

カリヤが冷たい石畳の上に正座する。

そして、深々と頭を下げて土下座をする。

「勝手な行動をして…ごめんなさい。」

私もカリヤの横で正座して頭を下げる。

「ごめんなさい!カリヤさんは私たちを助けに来てくれたんです!どうか、カリヤさんのことはお許しください!」

「はぁ…」と大きなため息をついてメイリーンは優しい声で言う

「わかってますよ。カリヤさんはサテラさんたちが奴隷商に襲われているのを察知して向かったとシャタルアさんからお伺いしてますし、今回は不問と言う扱いにします。ですが、連絡が取れる状態であるなら連絡をしてください。何かあってからでは遅いのです。そのことだけは忘れないでください。」

カリヤは頭を上げてしっかりとメイリーンの目を見て言う。

「次は気をつける。シェラさんを…皆を…悲しませたくないから…」

メイリーンが静かに腰を下ろして、カリヤの頭を撫でる。

「わかればいいのです。」

そして、メイリーンは私の頭も撫でる。

大きくて暖かな優しい手だ。

「貴方も顔をあげてください。可愛いお顔が汚れてしまいますよ。」

私は顔をあげる。

すると、メイリーンが急に猫なで声で言う。

「はぁん!可愛過ぎるぅ!初めて見た時からわかっていたけれど、カリヤちゃんに負けず劣らずのこの可愛さはまさに天使っ!こんな可愛いちゃんが王都に来てくれるなんて!はぁ…はぁ…最っ高に興奮してきましたわ~!」

そう言いながら、メイリーンは鼻血を垂らして体をくねくねと動かしていた。

あまりの急変っぷりに私が戸惑っていると…

「…始まってしまいましたね。」

ユキが呆れたように目を閉じて言う。

ユキがカリヤの手を引いて立たせる。

「行きましょう。今日はユキが作った野菜炒めとポーク汁ですよ!」

「野菜…苦手…」

「好き嫌いはいけませんよ!それにちゃんとカリヤさんでも食べられるように美味しいレシピを考えて作ったんですからね?仲間の健康を守るのもシェフであるユキの勤め、残さず食べてもらいます。」

「うぅ…頑張る。」

どことなくしょんぼりしたカリヤが私の手を引く。

「行くよ」

立ち上がった私の顔を見てユキが言う。

「あ、初めまして!ユキはユキって名前です。種族は銀狐族ぎんこぞくですよ。」

「銀狐…族?」

私が首を傾げるとユキは言う。

「そうですよ~!とは言っても、私が銀狐だとは思えないような獣に近い姿をしてるのは自覚はしてますので…まあ、そう言うものだと受け入れてくだされば幸いです。」

「わ、わかったわ。」

私がそう言うとユキは嬉しそうな表情をする。

そして、私は家と言うには大き過ぎる屋敷に案内された。

「ここがユキたちのお家ですよ~」

ユキがそう言って入って行くとカリヤもついて行く。

「えっ…デカ過ぎない?」

私がそんなことを呟くとユキが言う。

「貴方も早く入ってくださ~い!晩御飯が冷めてしまいますよ!」

「あ…はい!」

私はユキに促されるがままに手を洗って食卓につく。


私とアスラを除いて4人の少女たちがいた。

そのうち、2人はカリヤとユキだ。

もう2人はユキと同じ銀狐族のハラミと種族不明のディアだ。

シャタルアはどうしてるのかと言うと今はカリヤの中で寝てるらしい。

シャタルアは普段はあまり外に出ずに寝てることが多いそうだ。


「うめぇ!このスープ?も野菜もうめぇ!」

アスラが大喜びしながらあっと言う間に食べ終わる。

「ユキさん、おかわり!」

「はーい!」

アスラが元気よく手を上げるとユキが慣れた手つきで盛りつけをする。

「アスラ君のおかわりですよ」

ユキがそう言いながら、アスラの目の前に野菜炒めを置く。

「ウッヒョー!」

アスラは嬉しそうに…と言うか、めっちゃ満面の笑みで食べていた。

「貴方も遠慮しないでたくさん食べてくださいね!」

ユキが嬉しそうに微笑む。

「ありがとうございます。でも、私はあまり食べる方ではないのでこれくらいで大丈夫です。」

こんなに美味しい料理は初めて食べたが、私は普段から少食なのであまり食べられなかった。

今日ほど、この食の細さを恨んだ事はないと断言出来る。

カリヤは山のようになっている料理を黙々と食べていた。

ディアも私と同じであまり食べないようで、空になった食器を台所のユキに渡していた。

私もディアがやっていたのを真似してユキの元へ食器を持っていく。

「ごちそうさまでした」

「はーい!そこのシンクの中に置いててくださいな。」

ユキは嬉しそうになにかの生地を作っていた。

「ごちそうさま!美味しかったよ!」

「お口にあって良かったです。お皿はそちらに置いていただければ、後はユキが片付けますので空いてる部屋でゆっくりしててくださいな。」

「わかった!」

アスラはユキの指示通りにお皿を置くと元気よく奥の部屋へと入って行く。

私はユキに聞いてみることにした。

「ユキさん、ちょっと聞いてもいい…かな?」

「はい、なんでしょう?」

ユキは四角く切った生地をオーブンに入れながら言う。

「この辺りでAランクのモンスターをソロで討伐したって言う冒険者を探してるんだけど、なにか知らない?」

ユキの動きがピタッと止まる。

「ユキさん?」

ユキが「ハッ」とした様子で言う。

「はい!なんでしょう?」

「あ、えっと…Aランクをソロで討伐した冒険者を探してて…」

私がもう一度言うとユキは少しだけ悩んだような素振りを見せて言う。

「…多分ですけど、この屋敷の持ち主でもあるシェラさんのことですね。」

ユキはそう言うと焼きあがったカステラをテーブルに並べる。

「そうなんだ。教えてくれてありがとう!」

「いえ、お役に立ったなら、良いのですけど…」

ユキがほんの少しだけ身構えたような気がした。

「美味しそう…」

カリヤがヨダレを垂らしながら見ている。

「これは明日のおやつ用ですけど、味見してみますか?」

ユキは満面の笑みでカリヤを見て言う。

「なら、1つだけ…」

カリヤはそう言うとカステラを一切れ食べる。

「美味しい…!」

カリヤの目がキラキラと輝く。

「ふっふーん!今回のは自信作なんですよ!多めに作ったので良かったら、サテラさんもお1つどうぞ!」

嬉しそうに胸を張ってるユキの姿は年相応の子供らしい可愛らしさを感じた。

まるで親に褒められて喜ぶ小さな子供みたいで母性本能がくすぐられる。

「じゃあ、私も一つだけ…」

そう言って一口目を食べた瞬間だった。

「こ、これは…!」

一瞬で口の中いっぱいに広がるミルクと砂糖の優しい甘み、まるで雲を食べているかのようなフワフワの食感に卵の風味がほんのりと香ってくる。

口から広がった幸せが脳を支配し、全身に駆け巡る。

今日一日の疲れやらなんやらの全てが吹き飛んだようにさえ感じ、あまりの幸せに身体が飛びそうな感じになる。

「あ、あの…」

黙って固まった私を見てユキが不安そうに覗き込む。

「ハッ!す、すみません…あまりの美味しさに意識が飛びそうになってました。」

「そ、そんなにですか!?」

私の言葉にユキが驚いた様子で目を丸くしていた。

ブンブンと千切れそうな勢いで振られている尻尾を見れば、とても喜んでいるのがわかる。

「あ、あまり見ないでください…」

私の視線に気がついたユキが恥ずかしそうに尻尾を抑える。

「はぁ…可愛過ぎる…」

思わず口からこぼれた言葉に自分でも驚いたが、嘘は言っていない。

こんなにちっちゃな子供がそんなに可愛い仕草をしちゃうとモフモフの可愛い見た目も相まって、可愛いが殺しにきてると言っても過言ではないだろう。

「あ、そうだ!」

ユキは思い出した様子で残りのカステラを持って、冷蔵庫の方へと向かう。

「ふわぁ…眠いですね…」

ハラミが半分目が虚ろになった状態で大あくびをして自室に帰って行った。

「あ、自己紹介しそびれちゃった…」

私がそんなことを言っているとディアが言う。

「痛い目に合いたくなければ、ハラミを追いかけるのは止めたほうが良いですよ。あの人は眠い時はものすごく不機嫌でシェラとユキ以外には誰にでも噛みつくくらいには凶暴になります。シャタルアが何度か噛まれたのを見たことがあります…物理的に。」

「そ、そうなんだ。」

私はハラミにはまた後日改めて自己紹介することにした。

「では、自己紹介しますね。私はディアです。よろしくお願いします。」

ディアは丁寧にお辞儀をする。

ユキと口調は同じだが、雰囲気が全く違った。

ユキは温かみを感じる喋り方なのだが、ディアはどちらかと言えば冷たく聞こえる喋り方をしているように感じる。

もっとわかりやすく言うなら、ディアの声は機械的な感じがする。

私の気のせいだとは思うけど、ディアは普通のヒトではないのかもしれない…

「私はサテラ。こちらこそよろしくね。ディアさん。」

私は握手を求めて左手を差し出す。

「…?」

ディアが首を傾げていたが、すぐに理解した様子で手をぽんと叩いていた。

「あ、握手ですか」

ディアが握手に応じる。

そこに美味しそうなプリンを片手にユキがやってくる。

「プップップップ~リン♪出来たてプ~リン♪お砂糖タップ~リン♪ほろ苦カラメルプ~リン♪ん~!あま~い!」

ユキはとても嬉しそうに歌いながら、そのプリンを食べていた。

「あれはユキが大好きな王都の産地直送コッコケーの卵を使用したお手製プリンですね。ユキが作るプリンは王都のどのデザートよりも美味しいです。もちろん、他の料理も美味しいですけどね。」

ディアがどことなくヨダレを垂らしてるような気がした。

気がしただけで、実際には無表情だったが、ヨダレを垂らしながら尻尾を振る犬みたいと言う表現がピッタリすぎるような雰囲気を出していた。

ふと、カリヤが居る場所を見るとカリヤが既に居ないことに気がついた。

「欲しかったら、冷蔵庫に入ってますよ。ただし、それは明日の分なので食べるなら、明日はカステラだけになりますけど…」

そんなことを言いながら、幸せそうにプリンを食べるユキの姿に我慢が出来なかったのか、ディアは冷蔵庫からプリンを出してユキの隣で食べ始める。

そんな姿を見て、可愛い人たちだななんて思っていた私は知らなかった。

ユキちゃんは実は私よりも年上のお姉さんであること…

この少女たちのほとんどが王都の冒険者たちの中でも実力が上澄みレベルであること、サポートの腕前も最高クラスであると言うことを…

そして、この平和がそう長く続くものでは無いことも…






賑やかな屋敷の前を通り過ぎた黒いフードを深く被った人が静かに言う。

「ここがターゲットの居る街か…」

黒いフードはそのまま夜の街に消えて行った。
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