リュッ君と僕と

時波ハルカ

文字の大きさ
50 / 89
四日目

ランスロットと僕と

しおりを挟む
 時計の針は6時を差していた。

 クーラーボックスは昨日のあの騒ぎでなくなってしまったが、幸い水筒だけは体に引っかかってくれていた。水筒の中を洗うと、手水舎の水を入れて、しっかり斜め掛けにして持ち直した。残念ながら、落書き地図は、リュッ君の中にあるため確認できない。

 ユウキは地図に描かれていた絵を思い浮かべて、最後の一個、緑の☆が描いてあった場所を思い出そうとした。

 たしか、神社のマークが描かれていたすぐ下に、電車と線路のようなものが描かれていたっけ。その右脇のごちゃごちゃしたところに、緑の☆が描いてあったように記憶している。

 太陽の位置を確認した後、方位磁石をポケットから取り出して、ふたを開き、針が指している方角を確認した。

 リュッ君は赤いほうが北って憶えれば良いって言っていたっけ?

 見ると、赤い矢印の指しているのはダム湖がある方角だ。緑の☆は、ダム湖の反対側、神社のマークの右側に描かれていたような気がするから、東側だ、と考えたユウキが、赤い針が指す垂直の方向に目を向けた。そこには、岩が削れたような高い山がそびえ立っていた。とても登って越えられそうには見えない。

 緑の☆があるのは、あの崖の向こうなのだろうか?

 ユウキは一度迂回して向こう側にまわることにした。
「行こう!ランスロット!」
「ファン!」
 ユウキの声に応えるようにランスロットが大きく吠えた。

 ユウキは、鳥居が並んで建っている、南の方角へ向かって行った。参道の石畳を歩いていくユウキの後ろをランスロットがちょこちょこと付いていく。

 参道の先は下り坂になっていた。道に沿って、比較的赤い塗料が残っている鳥居が、一定の間隔で並んで建っている。しかし、幾つかの鳥居は傾いていたり、足場から崩れていたりで、見た目にはいつ頭上から崩れたり倒れたりしても不思議じゃないほど荒れ果てていた。ユウキは、あまり鳥居に近づかないように、やや空間が空いた隙間を狙って、慎重に進んで行った。

 林を抜けると、石畳とブロックでできた通路があり、脇にそれるとフェンスが続いていた。錆びたフェンスの向こう側には、駅のホームが伸びていた。ほとんど骨組みだけになってしまった陸橋がホーム同士を繋いでいるのが見える。ホームの周りには、背の高さも様々な草原が広がっていた。そして、その草原と砂利の合間に幾重にも線路が敷かれて、ポツリポツリと列車の車両が停車しているのが見えた。

「電車だ!」

 フェンスの向こう側に続くホームの先を見ると、それらは切り替えポイントの先で収束して、山間の木々の向こうに続いているように見えた。しかし、ユウキの見つめるその線路の先は、急勾配の谷間と、鬱蒼と茂っている森に阻まれ、その先がどのようになっているのかは良く見えなかった。

 反対側をみると、枝分かれした線路の多くは停車用の標識や枕木によって阻まれ、そこで途切れていた。それらのうちの一本が、円形状のターンテーブルに繋がっており、そこから放射状に線路が続いていた。そして、その向こう側には、半月状の車輌基地が佇んでいて、その中にも幾つかの車輌が草原の向こうに止まっているのが見えた。

 フェンスに取り付いて、思わず覗き込むユウキ。この高さなら登って乗り越えることもできそうだったが、今は小さなランスロットがいる。一旦、フェンスの向こう側に行ける場所を探すユウキは、ホームの先にある駅舎のほうに向かって行った。

「おいで!ランスロット!」
「ファン!」

 走るユウキを追いかけるランスロット。そのランスロットを見て、「お前、なんでそんなに小さくなっちゃったの?」と走りながら聞いたが、ランスロットはそんなユウキの言葉には反応せず、ひたすら、はっははっは、とユウキの横を走っていた。

 駐車場跡地らしき場所を横切って、駅舎の入り口に向かうユウキ。入り口に着くと、その駅舎の外観を見上げた。

 駅舎は、木製の古い建物だった。

 そのまま中に入ると、そこには幾つかのベンチがあるだけでがらんとしていて、人の気配は感じられなかった。

 窓ガラスはほとんど外れるか割れるかしてなくなっていた。壁も柱も風雨に晒され汚れ、コンクリートの床もひび割れ、その隙間から雑草が飛び出し顔を出している。ホームに繋がる改札のパイプは塗料が剥げ、錆びて茶色に変色していた。その上にある路線図はあらかた表面が汚れて崩れ落ち、ここがなんという駅なのかは判別できる看板も表札もなにも見当たらなかった。

 駅舎の中には目ぼしいものは見あたらなさそうなので、そのままスルーしてホームを通り過ぎていくユウキは、引き込み線の方向に向かって行った。

 緑の☆は、引き込み線のある車輌基地の東側の裏手に描いてあった気がする。ユウキの記憶だと、そこにはごちゃごちゃした何かわからないものが描かれていて、それが何であるのかは、リュッ君も何も言ってなかったように思える。

 ホームの端に来たユウキは、そのヘリに立ち止まって、車輌基地の方を見つめた。ランスロットも、ユウキの側で舌を出して座っている。改めて車両基地を見つめていると、その向こう側には、それ以外にも様々な施設が建てられているのが見えた。

 車輌基地の向こう側。そこには、三~四階建てくらいのビルのようなものが連なって建っており、そのさらに奥には、パイプや鉄骨がむき出しになった大きな建屋が続いていた。それら構造物が複雑に組みあがっていく先に、大きな煙突が立っているのが見える。そして、その向こうには神社からも見えた岩場の崖がぐるっと回りこみ、建屋の裏側をさらに塞ぐ様にそびえ立っていた。まるでピラミッドのように切り立った山の斜面には、へばりつくように建屋の群れが連なって、階段状に並んでおり、まるで山の半分を人口の建物で埋めつくしているかのように見えた。

 草原の向こうに佇む巨大な建築物の外側は、錆と汚れで茶色く染め上げられ、はがれた壁がいたるところに穴を開けて、その内部の複雑な建造物をその隙間から覗いていた。

 手前に見える車輌基地も、その脇のビルも草葉や蔦に覆われ、中のフロアーが入り組んでいるせいか、影が落ち窪んで、夏の昼間でも、やや暗そうな雰囲気に見えた。

 巨大で奇怪な建物を前に、ユウキは胸に拳を当てて少し後ずさった。

 脇で座っているランスロットに向かって、「本当にあそこにあるのかな?」と聞いてみる。ランスロットは、つぶらな黒い瞳で見つめ返すだけで何も答えてくれない。途方にくれるユウキ。すると、「ファン!」とランスロットがユウキに向かって吠えた。ユウキがランスロットの方を見ると、ランスロットはユウキの方見て、相変わらず、舌を出してはっははっは!と息をして座っていた。

「あと一個だ!頑張れい!」
 昨日の夜に濁流にのまれながら叫んでいたリュッ君の言葉が脳裏をよぎる。

 ターンテーブルの向こう側にある車両基地が、地上からの熱気でゆらゆら揺らいで見える。ユウキが見つめていると、その陽炎の向こうでなにやら、人の形をしたような影がひっそりと立っているのが見えた。

 はっ!として、目を細めて良く見ると、車両基地の屋内で、しばらくゆらゆらとその体を揺らしていたその影は、くるりとユウキ達に背を向けて、体をクネクネと揺らして、車両基地の奥へと消えていった。

 その様子を見つめ、ホームの端に立ち尽くすユウキ。大きく深呼吸をして、胸に手を当て呼吸を整えていくと、意を決したように一歩前に踏み出してしゃがみ、ホームから線路の上に降りていった。

「おいで!ランスロット!」

 振り返ってホームにいるランスロットに手を伸ばすユウキ。

「ファン!」と鳴いて寄って来たランスロットを抱きかかえて地上に降ろすと、車両基地に向かって走り出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

処理中です...