60 / 89
四日目
坑内軌道
しおりを挟む
仮面の影が、トロッコ列車の上から、ぶら下がったユウキを見下ろしている。
半分に欠けた仮面から、冷たく、感情の無いその目で、瞬き一つせず見つめている。
木のやぐらで組まれた軌道から、落ちそうになっているトロッコ列車にしがみついたユウキは、その顔から目を離せなかった。
黒い粒子が形造るその顔は、自分の顔にそっくりだった。
軌道車両の先頭に足をかけた仮面の影が、ゆっくり前かがみになってユウキの顔を覗き込み、その顔に手を伸ばして来た。指先がしなって伸びて、見上げるユウキのおでこに近づいていく。車体から落ちないようにしがみ付いているユウキは、近づいてくる指先を眩しそうに見つめ、目を伏せていった。
ガアアアアア!
突然響いた叫び声と共に、仮面の影の体が、首筋からくの字に折れて横殴りに吹き飛んだ。そして、そのシルエットと入れ替わるように巨大な白いランスロットの体が目の前を通り過ぎた。
仮面の影に飛びかかり、その上にのしかかるランスロット。軋みを上げる軌道レールのやぐらに押さえつけ、その鋭い歯を突き立てた。仮面の影は抵抗を試みるかのように暴れるが、ランスロットの力に組み伏せられて次第に動きを止めていった。
ユウキは、頭上で仮面の影を組み伏せ襲いかかるランスロットの姿を、その場所から見上げていた。
「ラ…ランスロット…」
呟くようにユウキが名前を呼んだ。しかしランスロットは、その声が届いていないかのように、仮面の影を貪るように組み伏せて行った。その様子に身をすくませたユウキが、堪らず大声で叫んだ。
「ランスロット!」
ランスロットの動きがビタッと止まった。フーフーと息を上げるランスロットの体がゆらりと起き上がり、体を捻ると、ゆっくりユウキのほうに向いた。
その口には仮面の影の体が咥えられていた。
力を失ったかの様にランスロットの口にぶら下がったその姿は、だらんと両手が垂れ、仮面はくずれて無くなり、その顔は、口も目も見開かれて、表情も無く虚空を見つめている。その目がユウキの方を向いた瞬間、その体は四散して千切れ、ザラザラと崩れて消えて行った。
苦しそうに息を上げるランスロット。背中が呼吸で大きく上下して、食いしばった歯から激しく吐息が漏れていた。左のまぶたの上にも焼け付くような焦げが広がり、満足に目が開いていないようだ。その他にも、のっそりと立ち上がったその体には、以前にも増して、あの、赤黒い染みが広がっていた。焦げたように変色したその場所から黒い粒子がチリチリと微かな音を立てて拡散している。ヨタヨタと体に引きずる様にユウキの方に近づいてくると、グルルルル…と喉を鳴らして、顔を前に出した。
ゆっくり近付いてくるランスロットを怯えたような、泣きそうな目で見つめるユウキ。そんなユウキを潤んだ目で見つめるランスロット。再び喉を鳴らして前に出ようとしたその時、
オオオオーン…
と甲高く響く遠吠えのような声が聞こえた。
ユウキがぶら下がっている坑道裂け目の頭上、遥か高い場所から聞こえてくるその声、トロッコに捕まって、坑道の上のほう見上げているユウキは、組み上げられた木のやぐらの上に、黒く大きな塊が、こちらの方を向いているのが見えた。ユウキを見ていたランスロットが、その視線に気付くと、ユウキが見ている視線の先を伺うように肩越し振り返った。
柱の上にいた黒い影は、のっそりと体を持ち上げると、四つ足で立ち上がってユウキ達の方を伺った。そして、体をしなやかに折り曲げると、ヒラリとジャンプをして、組み上げられた柱と岩棚をスベるように降りて来た。構え直すランスロット。頭上から襲いかかったその影は、体重を乗せて、ランスロットの体にその鋭い牙を突き立てた。
ゴガアアアア!
両者が絡みつき、もんどり打って転げまわる。やぐらの柱が折れて崩れて、ぶら下がったトロッコ列車がガクンと下に落ちていった。
「うわああ!」
トロッコが傾き、ズリ落ちた反動で手を離したユウキが、空中に放り出された。連結から外れたトロッコが、やぐらの下の、坑道の裂け目に、破片とともに落ちていく。
「うききっ!」
落ちて行きそうになったユウキの体を、影猿の手が支えた。その瞬間、ユウキも手を伸ばして、傾いて軋みを上げる軌道レールのやぐらにかろうじて引っかかった。空中にぶら下がるユウキと影猿。やぐらの上では白色と黒色の巨体が転がるように争い合っていたが、やがてランスロットは上空から襲ってきた黒い影に組み伏せられた。
やぐらが大きく傾いで軋みを上げる。ぶら下がったユウキが顔を上げて、ランスロット達の方を見上げた。
ランスロットを組み伏せた影が、鎌首を上げてゆっくりとユウキ達の方に顔を向ける。
その姿は、黒い粒子をまとってはいたが、まるで、ランスロットそのものにユウキには見えた。
半分に欠けた仮面から、冷たく、感情の無いその目で、瞬き一つせず見つめている。
木のやぐらで組まれた軌道から、落ちそうになっているトロッコ列車にしがみついたユウキは、その顔から目を離せなかった。
黒い粒子が形造るその顔は、自分の顔にそっくりだった。
軌道車両の先頭に足をかけた仮面の影が、ゆっくり前かがみになってユウキの顔を覗き込み、その顔に手を伸ばして来た。指先がしなって伸びて、見上げるユウキのおでこに近づいていく。車体から落ちないようにしがみ付いているユウキは、近づいてくる指先を眩しそうに見つめ、目を伏せていった。
ガアアアアア!
突然響いた叫び声と共に、仮面の影の体が、首筋からくの字に折れて横殴りに吹き飛んだ。そして、そのシルエットと入れ替わるように巨大な白いランスロットの体が目の前を通り過ぎた。
仮面の影に飛びかかり、その上にのしかかるランスロット。軋みを上げる軌道レールのやぐらに押さえつけ、その鋭い歯を突き立てた。仮面の影は抵抗を試みるかのように暴れるが、ランスロットの力に組み伏せられて次第に動きを止めていった。
ユウキは、頭上で仮面の影を組み伏せ襲いかかるランスロットの姿を、その場所から見上げていた。
「ラ…ランスロット…」
呟くようにユウキが名前を呼んだ。しかしランスロットは、その声が届いていないかのように、仮面の影を貪るように組み伏せて行った。その様子に身をすくませたユウキが、堪らず大声で叫んだ。
「ランスロット!」
ランスロットの動きがビタッと止まった。フーフーと息を上げるランスロットの体がゆらりと起き上がり、体を捻ると、ゆっくりユウキのほうに向いた。
その口には仮面の影の体が咥えられていた。
力を失ったかの様にランスロットの口にぶら下がったその姿は、だらんと両手が垂れ、仮面はくずれて無くなり、その顔は、口も目も見開かれて、表情も無く虚空を見つめている。その目がユウキの方を向いた瞬間、その体は四散して千切れ、ザラザラと崩れて消えて行った。
苦しそうに息を上げるランスロット。背中が呼吸で大きく上下して、食いしばった歯から激しく吐息が漏れていた。左のまぶたの上にも焼け付くような焦げが広がり、満足に目が開いていないようだ。その他にも、のっそりと立ち上がったその体には、以前にも増して、あの、赤黒い染みが広がっていた。焦げたように変色したその場所から黒い粒子がチリチリと微かな音を立てて拡散している。ヨタヨタと体に引きずる様にユウキの方に近づいてくると、グルルルル…と喉を鳴らして、顔を前に出した。
ゆっくり近付いてくるランスロットを怯えたような、泣きそうな目で見つめるユウキ。そんなユウキを潤んだ目で見つめるランスロット。再び喉を鳴らして前に出ようとしたその時、
オオオオーン…
と甲高く響く遠吠えのような声が聞こえた。
ユウキがぶら下がっている坑道裂け目の頭上、遥か高い場所から聞こえてくるその声、トロッコに捕まって、坑道の上のほう見上げているユウキは、組み上げられた木のやぐらの上に、黒く大きな塊が、こちらの方を向いているのが見えた。ユウキを見ていたランスロットが、その視線に気付くと、ユウキが見ている視線の先を伺うように肩越し振り返った。
柱の上にいた黒い影は、のっそりと体を持ち上げると、四つ足で立ち上がってユウキ達の方を伺った。そして、体をしなやかに折り曲げると、ヒラリとジャンプをして、組み上げられた柱と岩棚をスベるように降りて来た。構え直すランスロット。頭上から襲いかかったその影は、体重を乗せて、ランスロットの体にその鋭い牙を突き立てた。
ゴガアアアア!
両者が絡みつき、もんどり打って転げまわる。やぐらの柱が折れて崩れて、ぶら下がったトロッコ列車がガクンと下に落ちていった。
「うわああ!」
トロッコが傾き、ズリ落ちた反動で手を離したユウキが、空中に放り出された。連結から外れたトロッコが、やぐらの下の、坑道の裂け目に、破片とともに落ちていく。
「うききっ!」
落ちて行きそうになったユウキの体を、影猿の手が支えた。その瞬間、ユウキも手を伸ばして、傾いて軋みを上げる軌道レールのやぐらにかろうじて引っかかった。空中にぶら下がるユウキと影猿。やぐらの上では白色と黒色の巨体が転がるように争い合っていたが、やがてランスロットは上空から襲ってきた黒い影に組み伏せられた。
やぐらが大きく傾いで軋みを上げる。ぶら下がったユウキが顔を上げて、ランスロット達の方を見上げた。
ランスロットを組み伏せた影が、鎌首を上げてゆっくりとユウキ達の方に顔を向ける。
その姿は、黒い粒子をまとってはいたが、まるで、ランスロットそのものにユウキには見えた。
0
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる