リュッ君と僕と

時波ハルカ

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四日目

黒いランスロット

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 組み伏せられたランスロットが、苦しそうに息を上げる。

 枕木をツメで引っかき、体をよじるランスロットだが、横顔を押さえつける黒い獣の前足はびくともしない。鋭い牙を食いしばり、ランスロットを見下ろす黒い獣。それはまるで、黒い粒子をまとったランスロットのように見えた。

 崩れて傾いた木のやぐらに敷かれたレールからはトロッコ車両が脱線し、はるか下方の坑道の裂け目に落ちていった。ギシギシと軋みをあげて圧壊していくやぐらと、その飛び出した柱に、ユウキと影猿は、辛うじて捕まってぶら下がっていた。

「ランスロット…」

 レールの上に押さえつけられたランスロットの姿を見て、ユウキの顔の顔が絶望的な表情で強張っていく。足元のランスロットを見下ろす黒いランスロットが、ゆっくりと、ぶら下がっているユウキと影猿のほうに向いた。その顔を見て「キキッ!」とおびえたようにユウキにしがみ付く影猿。ユウキも、黒いランスロットの獰猛な表情に声も出てこない。

 組伏せられた白いランスロットは、フーフーと、静かに息を整え、黒いランスロットを見上げていた。

 しかし、ギリッ!っと、白いランスロットが歯を食いしばると、大きく体をひねって身をよじり、その尻尾をやぐらの柱に打ちつけた。その動きを止めようと、黒い獣がその鋭い牙をランスロットの体に突き立てる。

 ゴガアア!

 苦しそうな声を上げる白いランスロットが、再び大きく身をよじりながら、その尻尾をやぐらの柱に打ちつけた。

 バキン!と柱の一部が折れて崩れ、ランスロット達がいるやぐらがメキメキと音をたてて崩れ始めた。足元の柱が崩れ、足が踏み抜けると、体勢を崩した黒い獣が一瞬引いた。その隙を縫って、ランスロットが上体をひねって黒い獣の喉元にその牙をつきたてた。

 ガアアアア!

 黒い獣が苦しそうな鳴き声をその喉元から絞り上げる。その鳴き声とやぐらが崩れる音が大きく重なり、足場がどんどん傾いていくと、ユウキと影猿が掴んでいる柱も崩れ落ち、他の柱と一緒に、下方へ落ちていった。

「うわあああ!」
「キキー!」

 叫び声と共に落ちていくユウキと影猿。黒い獣の喉元に食らい付いていたランスロットが、その声を聞きつけると、身をひねって投げ上げて、黒い獣を後ろ足で蹴り上げた。そしてその反動を使って、落ちていったユウキ達のもとへ向って行った。

 波打って崩れていくやぐらの柱を縫って、落ちていくユウキと影猿に迫ると、黒いランスロットは、ユウキの体を咥えてキャッチした。そして、大きくジャンプすると、岩棚の壁を伝い一気に走り抜けていった。
 
 口元に咥えられたユウキが大きな揺れに目を醒ますと、ランスロットに咥えられて走っている自分に気が付いた。震える影猿が、しっかりユウキに抱きついている。ランスロットのほうを見るユウキ。ランスロットの息は荒く、その荒さは、走っているからだけではない痛々しさが感じられた。

「ラ…ランスロット…」
 そんな様子を辛そうな目で見つめるユウキ。不意に駆け抜けるランスロットが軌道を変えた。

 ドスドスドスッ!

 岩棚に突き刺さっていく黒い槍、ランスロットはそれらをたくみに避けて走っていく。

 見ると、先ほどの黒い獣が岩棚をランスロットを追って走っていた。その背中には、仮面の影が手に槍を携えてまたがっていた。その顔には、金色の4つの目が輝いていた。

 坑道をひた走りに走るランスロット。すでにユウキには何処を走っているのかさっぱり分からなかったが、ユウキの頭の上には、相変わらず三つの☆が浮遊して付いてきている。ユウキはポケットから方位磁石を取り出して、ふたを開けた。激しく揺れるランスロットの口元では、方位磁石の針の先も大きく揺れる。ユウキは必死で磁石の揺れを抑えて、赤い針の先が指し示す方向を見ようとした。

「ランスロット!、次のトンネルを左!」

 ユウキがランスロットの口元で大きく叫ぶ。走るランスロットが体の向きを買え、ユウキの声に応えて左手の坑道の中に入って行った。ユウキの頭に浮いた緑の☆がぴかりと光る。

「そのまままっすぐ!北に向かって!ランスロット」

 叫ぶユウキ。その声に応えて、スピードをぐんぐん上げていくランスロット。咥えた口から、苦しそうな息が上がっていく。目の前に開けた場所は三叉に別れていた。

「一番右のトンネル!」

 ユウキが指差すと、跳ね上がったランスロットが、指差したトンネルに向かって駆け抜けていく。その時、ユウキの頭の赤い☆がぴかりと光った。

「危ない!ランスロット!」

 ランスロットが降りる瞬間、ひらりと体をかわすと、奥からトロッコ列車が走ってきた。その後方から、間髪を入れず、再び黒い槍が飛んできた。

  カギイィィン!と、槍がトロッコを打ち抜ぬくと、その反動で起動車が大きく跳ね上がった。

 後続車両が次々と軌道からはずれ、衝突し、その穴を塞いでいく。坑道内でむちゃくちゃに脱線していく車両を飛び越していくランスロット。ユウキの額の☆は、真っ赤に光ったままだったが、ランスロットが脱輪して転倒していく最後の車両を飛び越すと、その額の青い☆がぴかりと光った。

 ユウキの持つ方位磁石の赤い針は、ランスロットが進む、進行方向のまっすぐ先を指し示している。

「ランスロット!そのまままっすぐ!」

 細い坑道を全速力で駆け抜けるランスロットが、その出口に差し掛かった。

 ユウキの額の☆は青く光っている。ランスロットは坑道に敷かれたレールを突き進んでいく。その向こうは大きな空洞が竪に広がる空間になっていた。高いやぐらが組まれ、レールが向かうその先には、巨大なシリンダー状の建造物が竪に貫いていた。その中心はパイプや柱が複雑に入り組んで組み上げられエレベーターのシャフトが通っていた。そして、そのフロアーに通じる扉が開いていた。

 あそこがエレベーター!

 驚き見つめるユウキの顔が緩んでいく。

 その時、ユウキの頭の赤い☆が輝きを放った。

 ドズッ!と鈍い音と衝撃が体に感じられた瞬間、ランスロットの体が崩れた。ユウキを咥えていたランスロットの体がバランスを崩して、ユウキと影猿共々前方に放り出されていく。

「うわああ!」
「キッキー!」

 大きく体を崩しながらも、地面に倒れていく瞬間、ランスロットは体をひねって、ユウキと影猿をその体に包み込んでいた。

「ランスロット!」

 滑り込んで倒れたランスロットの体は、その至るところに赤黒い染みを作ってた。シュウシュウと、赤黒い粒子を発しながら、ランスロットはその場でうなだれるように倒れた。拡散する黒い粒子は、以前よりも勢いを増しているように見えた。

「あ、ああ」
 そんな様子に驚き、成す術も無くオロオロするユウキ。

 すると、上のほうから唸り声のような声が低く響いてきた。その声に気付いたユウキが、ゆっくりとその声のほうに顔を向ける。

 赤い光が二つ、金色の光が四つ、天井の暗闇にぼんやりと輝いていた。しばらくすると、まるで闇の奥から生まれでるかのように、四足の獣と、その背にまたがった仮面の影の姿が暗がりからゆらりと浮かびあがった。

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