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6章 終わった夢が残した物
第72話 空と海の境界
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今日は新しいロードバイクを購入する為、綾乃と一緒にシゲさんのお店に行く日だ。
購入といっても、購入するロードバイクのメーカーやモデルを決めかねている。
一応、今回はカーボン製のハイエンドモデルを購入しようとは思っている。
これだけレースにはまっているのだ。
一番速いロードバイクを購入したい。
それでも迷っているのは、購入するロードバイクの種類だ。
前の愛車と同じ空力性能重視のエアロロードか、今借りているロードバイクと同じ軽量万能のオールラウンダーのどちらを選ぼうか。
エアロロードを選べば、私のスプリントが最大限生かせるだろう。
カーボン製のハイエンドモデルなら今まで以上に、平地の巡行と下りの速度が速くなる。
だが、重量がある分、ヒルクライムではオールラウンダーに負ける。
オールラウンダーを選べば、私の苦手な上りをサポートしてくれるだろう。
軽量性を売りにしているから、ヒルクライムでの遅れを減らせると思う。
反応性も高いから、コーナー立ち上がりでの加速も得意だ。
この反応性はスプリントでの加速の良さにもつながる。
だが、空力性能はエアロロードより劣るから、スプリントでの最高速は落ちる。
一長一短だから決めかねる。
どちらを選んでも、今までのアルミ製のエントリーモデルより明らかに速いのだが。
伴侶選びに迷わぬ私でも、愛車の選択では即決出来ないのだ。
だから、今日はシゲさんに購入するロードバイクの相談をする事になるだろう。
私は借りていたロードバイクを携えて、綾乃と一緒にシゲさんのお店、ロードバイクショップ『エンシェント・バレー』に入店した。
入店して直ぐに目に入った二つの『青』
アレは……
壁のラックにかけてある一台のロードバイクに目を奪われた。
上側は澄み渡る青空の様な空色。
下側は深海の様な深い海色。
水平に分断するかの様に、2色の青色で塗り分けられたロードバイク。
青色のツートンカラーだ!
「気になるか? 中々良い色だろう? 知り合いの業者に塗装してもらったのさ」
シゲさんが自慢げに言う。
「ねぇ、この色って?」
「あぁ、ソイツの青色と中杉さんの愛車の青色のツートンカラーだよ」
シゲさんが私が返却したロードバイク『Stairs to victory』を指差す。
確かに同じ色だ。
私の破損した愛車と、シゲさんの息子さんの形見のロードバイクの色。
シゲさんの想いが込められた2色の青。
「猛士の好きな青色だから、名前を付けたくなるでしょ? 前みたいに名前を考えてみる?」
綾乃が楽しそうに、目の前のロードバイクに名前を付ける提案をする。
最初に購入した時は、私から空色の天青石と海色の深海の2択で問いかけた。
「残念ながら色の名前は決まってるんだよ」
シゲさんが遠慮がちに言った。
済まなそうな顔をしているが、私はシゲさんの付けた名前に興味を持った。
聞いてみたい……シゲさんがこの色に込めた想いを!
「教えてもらえますか?」
「ホライズンだ。いつまでも深海に沈む様に落ち込むな。ロードバイクってのは、悲しむものではなく楽しむもんだ。上を目指すのはいいが、天にまで昇るな。生きて走ってこそのロードバイクだ。俺達は空と海ではなく、その境界で生きているんだ。大海原を突っ切る様に、俺の目の前を走って欲しい。そういう願いを色に込めた」
シゲさんの想いが重くのしかかる。
落車で愛車を失って悲しみの海に沈んだ私。
病気で天に上ったシゲさんの息子の蓮さん。
どちらにも同じ場所にいて欲しいと願ったシゲさんの想い。
それを表す『ホライズン』という言葉。
このロードバイク以外に、次の愛車に相応しい存在は無いだろう。
「このロードバイクを購入します」
「本当に買うのかい? 欲しいモデルとか考えて来たんじゃないのか? 別にコイツを買わなくたっていいんだ。最新のレース規定で作られたエアロロードだから、放って置いても売れる商品なんだから」
「購入するモデル選びの悩みなんて、一瞬で吹き飛びましたよ。このロードバイク以外は考えられない」
「そうかい、いつもありがとうな」
「こちらこそ」
「あっさり決まって良かったわね」
防犯登録等の購入手続きと支払いを進めながら思う。
シゲさんは嘘が下手だな。
放って置いても売れる商品だって?
フレームサイズが身長175cmの私に合う54サイズではないか。
既に組み付けてあるハンドル・ステムだって私の体型に合わせてある。
後は私の許可を得て、今まで使用していた変速機とホイールを組み付けたら整備が完了する状態だった。
他のお客さんに売るには組付けたパーツ交換が必要になるし、一度部品を組み付けているから中古品扱いになる。
私が購入しなければ大損ではないか。
普通の自転車店ではクレームものだが、私はそんなシゲさんが好きだ。
私はこの『ホライズン』で勝利をつかんで見せる!!
余談だが、私が盛り上がっている傍で、綾乃がこっそりホイール選びをしていた。
そして、彼女が好きなヒルクライム用の軽量ホイールを購入させられるのであった。
婚約指輪の代わりと言っているが、随分大きい指輪だな。
これで……良いのか?!
購入といっても、購入するロードバイクのメーカーやモデルを決めかねている。
一応、今回はカーボン製のハイエンドモデルを購入しようとは思っている。
これだけレースにはまっているのだ。
一番速いロードバイクを購入したい。
それでも迷っているのは、購入するロードバイクの種類だ。
前の愛車と同じ空力性能重視のエアロロードか、今借りているロードバイクと同じ軽量万能のオールラウンダーのどちらを選ぼうか。
エアロロードを選べば、私のスプリントが最大限生かせるだろう。
カーボン製のハイエンドモデルなら今まで以上に、平地の巡行と下りの速度が速くなる。
だが、重量がある分、ヒルクライムではオールラウンダーに負ける。
オールラウンダーを選べば、私の苦手な上りをサポートしてくれるだろう。
軽量性を売りにしているから、ヒルクライムでの遅れを減らせると思う。
反応性も高いから、コーナー立ち上がりでの加速も得意だ。
この反応性はスプリントでの加速の良さにもつながる。
だが、空力性能はエアロロードより劣るから、スプリントでの最高速は落ちる。
一長一短だから決めかねる。
どちらを選んでも、今までのアルミ製のエントリーモデルより明らかに速いのだが。
伴侶選びに迷わぬ私でも、愛車の選択では即決出来ないのだ。
だから、今日はシゲさんに購入するロードバイクの相談をする事になるだろう。
私は借りていたロードバイクを携えて、綾乃と一緒にシゲさんのお店、ロードバイクショップ『エンシェント・バレー』に入店した。
入店して直ぐに目に入った二つの『青』
アレは……
壁のラックにかけてある一台のロードバイクに目を奪われた。
上側は澄み渡る青空の様な空色。
下側は深海の様な深い海色。
水平に分断するかの様に、2色の青色で塗り分けられたロードバイク。
青色のツートンカラーだ!
「気になるか? 中々良い色だろう? 知り合いの業者に塗装してもらったのさ」
シゲさんが自慢げに言う。
「ねぇ、この色って?」
「あぁ、ソイツの青色と中杉さんの愛車の青色のツートンカラーだよ」
シゲさんが私が返却したロードバイク『Stairs to victory』を指差す。
確かに同じ色だ。
私の破損した愛車と、シゲさんの息子さんの形見のロードバイクの色。
シゲさんの想いが込められた2色の青。
「猛士の好きな青色だから、名前を付けたくなるでしょ? 前みたいに名前を考えてみる?」
綾乃が楽しそうに、目の前のロードバイクに名前を付ける提案をする。
最初に購入した時は、私から空色の天青石と海色の深海の2択で問いかけた。
「残念ながら色の名前は決まってるんだよ」
シゲさんが遠慮がちに言った。
済まなそうな顔をしているが、私はシゲさんの付けた名前に興味を持った。
聞いてみたい……シゲさんがこの色に込めた想いを!
「教えてもらえますか?」
「ホライズンだ。いつまでも深海に沈む様に落ち込むな。ロードバイクってのは、悲しむものではなく楽しむもんだ。上を目指すのはいいが、天にまで昇るな。生きて走ってこそのロードバイクだ。俺達は空と海ではなく、その境界で生きているんだ。大海原を突っ切る様に、俺の目の前を走って欲しい。そういう願いを色に込めた」
シゲさんの想いが重くのしかかる。
落車で愛車を失って悲しみの海に沈んだ私。
病気で天に上ったシゲさんの息子の蓮さん。
どちらにも同じ場所にいて欲しいと願ったシゲさんの想い。
それを表す『ホライズン』という言葉。
このロードバイク以外に、次の愛車に相応しい存在は無いだろう。
「このロードバイクを購入します」
「本当に買うのかい? 欲しいモデルとか考えて来たんじゃないのか? 別にコイツを買わなくたっていいんだ。最新のレース規定で作られたエアロロードだから、放って置いても売れる商品なんだから」
「購入するモデル選びの悩みなんて、一瞬で吹き飛びましたよ。このロードバイク以外は考えられない」
「そうかい、いつもありがとうな」
「こちらこそ」
「あっさり決まって良かったわね」
防犯登録等の購入手続きと支払いを進めながら思う。
シゲさんは嘘が下手だな。
放って置いても売れる商品だって?
フレームサイズが身長175cmの私に合う54サイズではないか。
既に組み付けてあるハンドル・ステムだって私の体型に合わせてある。
後は私の許可を得て、今まで使用していた変速機とホイールを組み付けたら整備が完了する状態だった。
他のお客さんに売るには組付けたパーツ交換が必要になるし、一度部品を組み付けているから中古品扱いになる。
私が購入しなければ大損ではないか。
普通の自転車店ではクレームものだが、私はそんなシゲさんが好きだ。
私はこの『ホライズン』で勝利をつかんで見せる!!
余談だが、私が盛り上がっている傍で、綾乃がこっそりホイール選びをしていた。
そして、彼女が好きなヒルクライム用の軽量ホイールを購入させられるのであった。
婚約指輪の代わりと言っているが、随分大きい指輪だな。
これで……良いのか?!
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