ホビーレーサー!~最強中年はロードレースで敗北を満喫する~

大場里桜

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6章 終わった夢が残した物

第73話 予想外のファン?!

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 新しい愛車を購入したらやる事は決まっている。
 レースエントリーだ!
 復帰して最初に参加するレースは決めている。
 初めて参加した思い出のレース、クリテリウム周回レースだ。
 私にとってのホームレースだから当然だ。
 平地のオーバルコースだから、レースの感覚を取り戻すのに丁度良いし、空力性能に秀でた新しい愛車の性能だって活かせるだろう。
 早速仲間にレース参加する事を伝えたら、木野さんと利男の二人も参加予定だった。
 更に綾乃、南原さん、ひまりちゃんの3人と北見さんが応援に来てくれる事になった。
 北見さんが応援に来るのは予想外だった。
 クリテリウムみたいな高速の周回レースは普段参加しないからな。
 しかも会って欲しい人がいるって言ってたけど誰だろう?
 いつもと調子が違ったのも気になる。
 なんというか、歯切れが悪いような感じで、少し困った様子だった。
 まぁ、週末のレース会場で会えば、彼の事情も分かるだろう。

 *

 レース当日、綾乃と一緒に会場に向かった。
 会場に到着して、ロードバイクを車から降ろして、いつもチームメンバーが集まる空きスペースで仲間の到着を待つ。
 久しぶりのレース会場だ。なつかしさで辺りを見回す。
 初めて見る人もチラホラいるけど、相変わらず同じようなメンバーで賑わっている。
 話しかけた事は無いけど、同じ趣味の仲間に出会うと安心する。
 感慨にふけていたら、声をかけられる。

「おはようございます。今日は猛士さんの雄姿をカメラに収めさせて頂きますよ」
「おはようございます。本当に堅物さんと結婚するの?」

 最初に来たのは南原さんとひまりちゃんか。

「そうよ。それに堅物じゃない所もあるのよ。お腹とか」
「なにそれ~。それでいいんですかぁ。じっくり聞かせて下さいよぉ」

 ひまりちゃんは私達の結婚に興味があるのだろう。
 綾乃とひまりちゃんが二人で話始める。

「おはよう南原さん。期待に応えられる様に頑張ってみるよ」
「なんだか申し訳ないです」

 南原さんが申し訳なさそうな顔をしている。
 ひまりちゃんと綾乃の会話の事だろう。
 うーん、始めた頃より大分痩せたのだが……まだ不十分か。

「気にする事はないさ。見ての通り、昔よりは痩せてるだろ」
「お気遣いありがとうございます。それでは最高の写真が撮れるよう、準備してきます」

 南原さんが撮影場所の確保に向かった。
 そして、南原さんと入れ違いで利男と木野さんが到着した。

「おはよう。クールな新車じゃないか。これは目立つぜ」
「おはようです。凄いですよ。新型じゃないですか」
「おはよう、利男、木野さん。思い切ってシゲさんお勧めの新車を購入したんだ」
「思い切ってで買える財力が羨ましいよ」
「利男だって稼いでいるだろ?」
「俺の稼ぎはバンド機材優先だからな」
「そんな事言ってるけど、利男が乗ってるの3年前のハイエンドモデルじゃないですかぁ」
「しょっちゅう買い替えられないけど、俺には一番凄いのしか似合わないんだよ」
「ハイエンドモデルじゃないの僕だけじゃないですか~」
「木野さんのフレームはセカンドグレードだけど、ホイールはハイエンドじゃないか。しかも、この前出たばかりの新型じゃないか。風洞実験で最速だって評判のモデルだろう?」
「バレちゃいましたかぁ~。どうしても勝ちたくて買っちゃいましたよ」
「うちのチームは金持ちだな。機材だけならトップレベルだ」
「楽しさもトップクラスさ!」
「あっ、北見さんが来てますよ。入口の方です」

 木野さんに促されて、会場入り口方向を見る。
 北見さんと……子供?!
 北見さんが10才くらいの男の子を連れてきている。
 彼が合わせたいと言っていたのは、この子の事か?

「おはようございます。猛士さん! お会いできて嬉しいです!!」
「あ、あぁ、おはよう。えっと……」
「北見勇也です。実は猛士さんに憧れてロードバイクに乗り始めたんです!」

 北見勇也……という事は、北見さんのお子さんか!
 しかし、私に憧れてロードバイクに乗り始めたとは、どういう事だ?
 私は憧れるような凄い有名レーサーではない。

「あー、えー、そういう事だから頼む」
「北見さん、どういう事ですか?」
「前にサーキットエンデューロ参加しただろ。その時の中杉君のゴールスプリントの動画を見て憧れちゃったって事だよ。俺の勝利動画を見ても興味もたなかったのにさ!」

 サーキットエンデューロか……仲間が頑張ってアドバンテージを稼いでくれて、私はゴールスプリントだけ頑張ったレースだったな。
 あの時の東尾師匠とのスプリント対決は熱かったな。

「握手してもらっていいですか?」

 勇也くん上目遣いでお願いされる。
 皆にアシストしてもらって一瞬頑張っただけだったのだが。
 なんだか申し訳ない気分になるが、断る理由はない。

「チームリーダーの中杉猛士です。宜しく、勇也くん」

 握手をしながら自己紹介をした。
 勇也くんが握手後、北見さんに飛びついた。

「パパ連れてきてくれて、ありがとう」
「お、おう」

 北見さんが狼狽える。
 私達の結婚報告といい、最近の北見さんは狼狽え続きだな。

「人気者の座を奪われちゃったかな。うらやましいな」
「猛士さんのスプリントは凄いですからねぇ。僕のスプリントの師匠ですから」

 まさか、レース復帰の最初に可愛らしい仲間が増えるとは思わなかった。
 突然の可愛らしいファンの登場で、むず痒い気持ちになった。
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