一途な令嬢は悪役になり王子の幸福を望む

紫月

文字の大きさ
3 / 14

本当と念を押されると嘘っぽい

しおりを挟む
1週間に一度、私は手首を切る。
最初に言っておくが、決して自殺願望があるわけではない。
少しづつ血液を採取して、王城まで届けるためだ。
届けられた血液は水で薄められ、セフィル様に薬として提供される。
血生臭くないかって?
それが私の血はどういう訳か果実の様な甘い味がするのだ。
強いていうなら柘榴っぽい味?
柘榴の味は血の味と似ていると聞くが、実際どうなんだろう?
私は普通の人の血を飲んだことないから比べようがない。
そしてここで私の名誉の為に言っておく。
決して喜んでなどいない。
セフィル様が私の血を飲んでるからといって、それを妄想してハアハアなど決してしていない。
ホントダヨ。
それはさておき最近セフィル様の顔色を見るに、赤みがさし、体調も良好なのではないだろうか?
以前は深窓の王子様とばかりに、儚げで、今にも倒れそうな青い顔をしていた。
私の身体に負担がかかるのであまり多量にはお届けできないが、少しづつでもセフィル様が回復の傾向にあるなら嬉しいかぎりだ。
サラ様が届けてくれるという心臓の薬も効いているのだろうか?
いや、どちらかと言えば恋する気持ちがセフィル様を上向きにさせているのかもしれない。

つ、辛くなんかないぞ……。


今日は父の仕事の書類を届けるために、セフィル様の執務室に訪れていた。
直で来られるのは婚約者の特権である。
それはともかく。
皆様、ちょっと聞いてちょうだい!
セフィル様、超絶カッコイイ!!
真剣に書類と向き合うセフィル様は、とても凛々しくてウットリするほど素敵なのだ!
おっと、ヨダレは垂れてないわね?
「おい、そこの侍女。
手を怪我しているのではないか?」
「は、はい。
でも大した怪我ではございませんので、お気になさらず…。」
「無理をするものではない。
茶は後でいいから、今すぐに治療室に行くといい。
俺が許可する。」
皆様、聞きまして?
セフィル様は今日もこんなにお優しい!
侍女にまで心を砕くなど、気位の高いそんじょそこらの貴族ではなかなか出来ないことだ。
そして手ずから私のためにお茶を淹れてくれようとしている。
大切なことなのでもう一度言う。
私のためだ!
この方は地位に奢らず、必要とあらば自らなんでもこなしてしまう方なのだ。
そんなとこも大好きだ!
あぁ、じっくりセフィル様を観察して堪能している場合ではなかった。
「セフィル様、お茶を飲むならわたくしにお貸しくださいませ。
王宮の侍女ほどではございませんが、貴方様よりマシなお茶を入れて差し上げられますわ。」
あぁ…我ながら可愛げがない……。
本当は毎日1日も欠かさずお茶を入れる練習をしている。
セフィル様に美味しいと思ってもらえるお茶を淹れられるようになりたくて、日々努力しているのだ。
セフィル様から強引に茶器を取り上げて、お茶を淹れて差し上げる。
ふとセフィル様の視線が私の手首に止まった。
「……アリア、少し前から気になっていたのだが、手首に怪我でもしているのか?」
しまったと思ったが、後の祭りだ。
袖の長いドレスで誤魔化してはいるが、手首の包帯に気づかれていたようだ。
でも……私のことまで心配してくれるのですね。
嬉しいけど、このことは知られてはいけない。
「あぁ、少し切ってしまいましたの。
大した怪我ではありませんわ。」
貴方の心配、プライスレス。
今夜のディナーはこの思い出をメインに、白パン三つは軽くいただけます!
「そうか、気をつけるんだぞ。」
ジーンと胸が温かくなる。
いけない、セフィル様に嫌われるようにしないといけないのに、上手く言葉が出てこない…。
「では、わたくしはこれで失礼しますわ。」

1人執務室に残されたセフィルは、部屋を去って行くアリアの背中を見つめていた。
彼女は何が気に入らないのか、いつも突っかかってくる。
サラ嬢は自分の為に心臓の病によく効くという薬を持ってきてくれる。
そのお陰か、日に日に体調が良くなってきている。
優しい少女だとは思うが、自分は婚約者のいる身だ。
サラ嬢を蔑ろにはできないが、ちゃんと線引きはしているつもりだ。
アリアに対して誠実でありたい。
なのに上手くいかない。

俺は彼女に嫌われているのかもしれないなと、セフィルはひとりごちたのだった。










※※※


よく言う柘榴の味は血の味に似ているという話の由来について。
昔500人もの自分の子供を養う為に、他所の子供を攫って食べていたという鬼子母神。お釈迦様が鬼子母神の子供を攫って、お前も子供を攫われたら辛いだろうと諭す。そしてどうしても子供を食べたくなったら、子供の代わりに食べるよう柘榴を渡すのです。
のちに柘榴は鬼子母神像の象徴となります。
つまり柘榴の味と血の味は、イコールではないらしいですョ。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

醜くなった私をあっさり捨てた王太子と彼と婚約するために一番美しくなろうとした双子の妹と頼りない両親に復讐します

珠宮さくら
恋愛
アデライン・マルティネスは、エイベル国でも、他の国でも美しい令嬢として有名になっていた。その噂には色々と尾ひれがついていたが、美しさを利用して、子息を誘惑しては婚約を台無しにするとある一定の人たちに思われていた。 でも、実際の彼女はそんな令嬢ではなかった。そのことを一番理解してくれていて、想いあっていると思っていた相手が、実は一番酷かったことを思い知ることになった。 それを知ることになったきっかけは、妹によって美しい顔を台無しにされたことから始まるとは思いもしなかった。

月の光はやがて仄かに輝く

白ノ猫
恋愛
 私より妹が愛されたこの世界で、唯一私を見てくれた人がいた。婚約者であるその人は私を「愛している」と、そう言ってくれたが、ある日突然事故に遭い、記憶に異常が出た。  人間関係について混乱してしまった彼に、妹を可愛がる両親は嘘を伝える。妹が貴方の婚約者なのだと。  なら、もう、いい。妹が愛されたこの世界で、私ばかり見ていた彼が変だったのだ。それならば私はこの現実を受け入れよう。  そうすることで家族がシアワセでいてくれるなら。 ※小説家になろう様でも掲載しております。改稿している部分がございます。内容に変更はありません ※全八話で本編完結致します。その後四話番外編更新

〘完結〛ずっと引きこもってた悪役令嬢が出てきた

桜井ことり
恋愛
そもそものはじまりは、 婚約破棄から逃げてきた悪役令嬢が 部屋に閉じこもってしまう話からです。 自分と向き合った悪役令嬢は聖女(優しさの理想)として生まれ変わります。 ※爽快恋愛コメディで、本来ならそうはならない描写もあります。

婚約破棄を宣告した王子は慌てる?~公爵令嬢マリアの思惑~

岡暁舟
恋愛
第一王子ポワソンから不意に婚約破棄を宣告されることになった公爵令嬢のマリア。でも、彼女はなにも心配していなかった。ポワソンの本当の狙いはマリアの属するランドン家を破滅させることだった。 王家に成り代わって社会を牛耳っているランドン家を潰す……でも、マリアはただでは転ばなかった。

私は婚約破棄をされ好い人と巡り会いました。

SHIN
恋愛
忙しい年末年始に現れたのはめったに顔を遭わせない男でした。 来た内容はえっ、婚約破棄ですか? 別に良いですよ。貴方のことは好きではありませんでしたし。 では手続きをしましょう。 あら、お父様。私が欲しいと言う殿方が居ますの?欲しがられるなんて良いですわね。 この話は婚約破棄を快く受け入れた王女が隣国の男に愛される話。 隣国の方はなんと『悪役令嬢をもらい受けます』のあの方と関わりがある人物だったりじゃなかったりの方です。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

処理中です...