一途な令嬢は悪役になり王子の幸福を望む

紫月

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悪役は1日にして成らず

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「セフィル様!ご機嫌いかがですか?」
今日も今日とてやってくる、栗毛で愛らしい顔立ちのサラ様。
お見舞いと称して王城に通い、セフィル様と楽しそうな一時をおくっているユーリシア伯爵家のご令嬢だ。
王宮の中庭にあるガゼボで、セフィル様と逢瀬を重ねている。
ハッキリ言おう。
羨ましい!
側に侍従がいるとはいえガゼボという狭い空間で見つめ合い、2人きりで楽しげに語らい合うシチュエーションなんて、羨ましすぎるに決まってる!!
あぁ、セフィル様の微笑み、プライスレス!
間近で見られないのが残念だけど、よくよく考えたら間近で見たら私が鼻血出して倒れてしまうわ。
奇跡の血、勿体無い。
さて、興奮を抑えて悪者になりに行きますか。

「あら、またいらしてたの?サラ様。
セフィル様も迷惑してらしてよ?」
「アリア様……。」
「人の婚約者を誑かそうだなんて、恥知らずじゃございませんこと?」
「やめないか、アリア。
サラ嬢は俺の病によく効くという薬を持ってきてくれたんだ。」
セフィル様に睨まれて凹みそうになるが、そこはグッと堪える。
「ならばこんな場所で逢い引きなどするものではありませんわ。」
そうですよ!
城の北側にある薔薇園のガゼボなら誰にも見られませんよ!
逢瀬ならそちらをお勧めします。
「こんな人目のある場所で逢い引きするなど、侍女達がお二人を恋仲ではと噂を広めてしまいますわ。
わたくしに不貞を疑えと言っているようなものでしてよ?」
「違う!
不貞ではないから人目のつく場所で話をしているんだ。
勘ぐるのはよせ!」
あぁ、セフィル様!言い訳せずともよろしいのですよ。
私、ちゃんと分かっておりますから!
セフィル様がお好きな方はサラ様。
私、ちゃんと悪者を演じて、婚約破棄してみせますとも!
私が一方的に悪者になれば、王も王妃も奇跡の血の負い目なく婚約破棄が出来るはず。
愛する貴方が他の誰かと結ばれるのは身を切られるほど辛いけど。
愛する貴方に嫌われるのは死ぬほど辛いけど、貴方が幸せになる為なら私は何だって出来る。
「あら、そうですの?
ではわたくしはお邪魔なようなので失礼いたしますわ。」
「アリア!」
背後からセフィル様の嗜めるような声が聞こえてくる。
今日もちゃんと悪役を演じられたかしら?
貴方の笑顔を間近に見ることは叶わないけど、貴方の恋が成就するよう、私、全力で応援いたします!
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