悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

文字の大きさ
1 / 140
一頁 覚醒のロベリア

1話 悪役令息の目覚め

しおりを挟む
「うっ……」

 瞼を開けると同時に全身に痺れと痛みが走った。頭がぐらぐらする。なんだこれ。

「坊っちゃま! お目覚めになられましたか!?」
「すぐに医者を! 旦那様と奥様にも知らせて!」
「は、はい!」

 なんかぼやけている視界の向こうで数人がバタバタ動いているんだが、これはどういう状況だ?

「シュヴァリエ様! お分かりになりますか?サリクスです」

 サリクスって……そんな奴は知らんぞ。誰だよ。というかシュヴァリエとか聞こえたがもっと誰? 俺はそんな名前じゃねえ。俺の名前はーー。

「ーーっ!!!!!」

 突如頭が割れるような痛みが起こった。サリクスとか言っていた奴がなんか叫んでいるがそれどころではない。尋常ではない激痛のなか、俺の頭に何かの映像が流れてくる。

…………

……



 思い出した。
 俺の名前は柊紅夏ひいらぎこうか。どこにでもいる専門学生だ。……中学の途中から高校の途中までそこそこいろいろやりすぎてめっちゃ補導された記憶があるが、先に言っておく。俺はそこまで不真面目ってわけではない。断じて。ただちょっとあることに夢中になりすぎただけだ。
 さて、そんな俺には5つ上の兄がいる。これがまた変わった兄で俺よりも両親が頭を抱えていた。まあ子どもの頃は親父もお袋も忙しくてほとんど兄貴といた記憶しかない。その影響か俺もバッチリ兄貴の影響を受けた変人になってしまったと両親に嘆かれた。……全力で否定したいところだが自覚があるので何にも言えん。
 ……そんな俺はある日、兄貴に頼まれて少し離れた町にある書店へ向かった。そこで売っている限定品を買ってきてくれだと。兄貴も社会人になって忙しいし、ちょっとしたご褒美も用意してくれたので了承したんだが、この選択で俺の運命は決まった。
 向かった書店の隣のビルが突然火を吹いて俺がいた書店に燃え移ってしまった。で、俺は逃げ遅れて煙に巻かれてご臨終。意識がなくなる途中で三途の川らしきものが見えたから死んだのは間違いないと思う。

…………

……


 
 ……で、俺は多分転生というものを果たしたんだろう。そうじゃなきゃこんな豪勢な部屋で寝ていない。
 ここでの俺はシュヴァリエ・アクナイト。アクナイト公爵家の次男らしい。しかしこの次男いかんせん冷酷な性格で、慈悲とか思いやりとかそうものは母親の胎の中に置いてきましたと言わんばかりの性格をしていた。記憶が眠っていたとはいえ今の俺とはどうにも相容れない。冷酷すぎる性格のため高位貴族にありがちの取り巻きすらいないという状況だ。……まあ冷酷になってしまうのはある意味仕方ないのかもしれないんだが。
 ……それにしてもシュヴァリエ・アクナイトか。なんか聞き覚えのある名前なんだよな。
 俺が思考を飛ばしてぼうっとしていると、威厳のある中年の男性と冷たい印象を受ける女性が入ってきた。……この世界での俺の両親だ。

「目覚めたようだな」
「はい。ご心配をおかけしてーー」
「あの程度の毒で倒れるなど情けない。お前はアクナイトなんだぞ。我が家にはこんな軟弱な人間は必要ない」

 ……。
 おい、もっと他に言うことあるだろ。仮にも息子だぞ? 人の心ねえのかお前は。

「そのとおりですよ。まったく何故こんなに出来損ないなのかしら? お前の兄はあの程度の毒で倒れたりしませんよ。この恥晒し」

 …………そう。これが両親だ。アクナイト公爵夫妻は揃ってシュヴァリエに対して当たりがきつい。理由はわかりきっているがそれは俺が悪いわけではない。むしろ公爵の責任だと思う。というかそんなこと言うんならいっそ部屋に来んなよウザいな。
 扉のところで医者が気まずそうに立っているのが見えてちょっと申し訳なくなった。いつからいたかは知らないがこんな殺伐とした言葉が平然と飛び出るところになんかいたくねえよな。俺だって嫌だわ。……とりあえず。

「申し訳ありません、父上、義母上」
「ふん」

 それだけ言うと2人は踵を返してさっさと部屋を出て行った。入れ替わりにおずおずと顔を覗かせた医者はどことなく顔色が悪い。

「えーっと、お坊ちゃま。目覚めて何よりです。意識が戻ったばかりですから安静にしてくださいね」

 少し気の弱そうな初老の先生が俺のそばに寄ってきて診察を始めた。

「俺どのくらい寝ていた?」
「5日です」
「5日ねえ……」
「スティルペース学園の方には既に連絡を回しているそうですのでお坊ちゃまはお身体を治す方に専念してください」
「ああ。わかった」

 スティルペース学園はシュヴァリエが通っている全寮制の王立学園で12歳から18歳までの令息令嬢、そして試験に合格した平民が通っている。今のシュヴァリエは15歳なのであと3年通う必要があるわけだが。
 ……それにしてもシュヴァリエ・アクナイトといいスティルペース学園といい、やっぱり聞き覚えのある単語だ。もちろんこの世界での俺の名前で俺の通う学園だから知っているのは当たり前なんだが、それよりも以前に俺はこの名前を知っている気がするんだよな。多分、柊紅夏の時に聞いたことがあるんだ。なんだろう、もう少しで思い出せそうなんだが、ぼうっとする頭のせいか出てこない。

「悪いんだけど、ちょっと1人にしてくれ」
「わかりました。ゆっくりお休みください」
「ああ」

 久しぶりの目覚めで疲れたと判断したのか、医者は頷き一礼してすぐに部屋を出て行った。
 1人になった部屋で俺は蘇ったばかりの記憶を整理することに。やっぱ考え事する時は1人で静かな空間にいるに限る。
 そういや倒れたのって確か夕飯食った後だったよな? 食事はさすが金持ちというべきか元庶民の俺からはやたらと豪華だったっけ。いや、シュヴァリエになってからは日常だったんだけど、記憶が戻った今となっては豪華すぎるほどだ。確かサラダを食べていた息苦しくなったんだよな……。
 ……毒でも入っていたんだろうか。というか絶対それしか思いつかねえんだけど。
 あーあ、せっかく記憶が戻ったっつーのに最悪な気分なんだが。
 
「兄貴……心配してるよな……」

 兄はあれでも情に厚い上長兄として責任感もあるから、俺が死んだのは自分のせいとか思ってそうなんだよな。こんなことになった以上なにを言っても意味ねえんだけど。せっかく兄貴と一緒にプレイしていたゲームの新作も発売間近だったんだがな……。

「……ん?」

 今なんか引っかかったぞ? ……ゲーム? 
 そういや兄貴から借りてプレイしていたゲームの中に学園ものがあったはずだ。確かジャンルはBL×謎解き×学園アドベンチャーで学園で起こる様々な事件を解きながらキャラクターと恋を育む18禁のBLゲームだったはず。
 ……何故そんなものをやっていたかって? 兄貴の気まぐれに決まっているだろ。中学の同窓会に行ったら女子たちがやっていたのを聞いて、興味本位で自分も始めたら、エロのところはともかくストーリー自体はなかなか楽しかったって言って俺に押し付けてきたんだよ。
 恋愛ゲームなんて普段はやらないからお試しでやってみたんだよな。やるからには本編番外イベント含めて全部回収しないと気が済まない性分なもので、とりあえず全キャラ一周は済ませたんだっけ。……まあ兄貴が横で盛大にネタバレしまくったから面白さ半減だったが。
 ……で、だ。そのゲームの主要舞台となる学園の名前はスティルペース学園という全寮制の王立学園。そして、恋愛ゲームあるあるの悪役令嬢令息も登場。その人物の名前は………………シュヴァリエ・アクナイト。

「……………………はっ!」

 うん、今の俺と同姓同名だね。なんという奇遇、しかも通っている学園の名前も同じとはなんとも素敵な偶然じゃねえか。
 ……なんて呑気なこと考えている場合じゃねえじゃん。なにが悲しくてゲームの悪役に転生せにゃならんのだ! 嫌がらせかっつーの! 
 ……待てよ? このゲームのシュヴァリエの末路って……。
 そこまで思い出した俺は天井をしばし見つめ、そして叫んだ。

「やってられっかクソッタレ!!!!!」






しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。 一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。 補習課題のペアとして出会った二人。 セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。 身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。 期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。 これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...