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一頁 覚醒のロベリア
12話 罪人の末路
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翌日、夫人の部屋から押収されたロベリアが俺の元へ届けられた。公爵が来るまでそれなりに時間があったから片付けられている可能性の方が高かったけど無事に確保できてよかった。せっかくだし学園に持っていきたい。こうしているとつい忘れるが、俺は学生。普通は学園にいるのであってこんなところでごろごろしていてはいけない身分なんだけど。サボりというには贅沢すぎるよなぁ。前世でもこんなに長く学校を休んだことない、というか休んだことがない。その代わり遅刻が結構あったけど。
それにしても身内に命を狙われるとか前世じゃまずあり得ない状況だったいうのに、何故か怖いって感情がカケラも湧いてこないんだよな。シュヴァリエの時も、柊紅夏の記憶が戻った今も思うところは特になし。俺って実は人間的な心がどこか欠如しているんじゃなかろうか。端的に言えば性格が悪いってなるんだけど。……そういや前世でゲームをプレイしていた時シュヴァリエにも同じこと思ったな。あれは確かチュートリアルで……。チュートリアル……で………………。
「ああっ!!!」
俺は思わず声を上げ、慌てて口を塞ぐ。サリクスが席外していて良かった。……よりにもよって今かよ! 畜生っ!
たった今俺は思い出した。思い出してしまった。俺の計画を根本から覆す事実を。
ゲームのチュートリアルではシュヴァリエとクラルテの出会いのシーンもある。そこでシュヴァリエと迷子になっていたクラルテがエンカウントするんだよな……。と言っても言葉を交わすわけじゃない。キョロキョロしていたクラルテがシュヴァリエとぶつかり、不機嫌全開で睨まれるというだけだ。
……で、問題はここから。クラルテに無言の睨みを送ったシュヴァリエが立ち去った直後にリヒトとの出会いのシーンになるんだけど、そこでリヒトの口から『シュヴァリエが実家の都合で短期休学から今日復学した、あの人には気をつけろ』的な内容が語られるんだよ。……そして。
只今の俺の現状は実家に呼び出し食らって毒にやられたため短期休学中。リヒトのセリフの『実家の都合云々で短期休学、今日から復帰』の前半部分と合致する。つまり、俺の復学=チュートリアル開始ということだ。
……。どうすんのよこれ。もしゲームの強制力とやらが現実に存在するのだとしたら俺の復学に合わせてクラルテが~的な展開になる可能性・大! ……せっかく公爵との取引が上手くいったのに喜びに浸ることもできないとは。神様って意地悪だね。信じていないんだけど。
俺は押し花のためにクラルテとは是が非でも関わりたくない。まあエンカウントが嫌なら屋敷にいろって話だが、実家にいればいるだけ授業が遅れるんだよな。シュヴァリエには休んだところでノートを取ってくれる友人もパシリで点数稼ぎしたい取り巻き連中もいないから、長期的に休むと授業の遅れがとんでもないことになる。
……俺の今世、なんかいろいろ悲しいな。両親には愛されず友だちもおらず、悪事を働いて挙句にざまぁされるという誰得人生お疲れ様って感じ。
……。
うん、主人公以下攻略対象連中と関わなければいいんだ。俺には趣味がある。押し花がある。ぶっちゃけそっちが最重要! よって俺のことは虫だと思って無視してください。そして愛だの恋だの友情だのどうぞご自由に!
「シュヴァリエ様、如何なさいましたか?」
あ、サリクス戻ってきたんだ。さっきの叫び声聞かれなくてマジ良かった。
「いや、なんでもない」
「そうですか。あ、お茶お注ぎしますね」
と言って準備してくれているけど、さすがに昨日の今日で俺が飲むはずだったものを口のない物にあげないよな?
「なんですかその目は。昨日は特別です。ちゃんとすべてシュヴァリエ様のお飲み物ですよ」
「……どうだか」
「私がシュヴァリエ様の前で失敗したことがありましたか?」
「自分で覚えていないのか」
「過去にはこだわらない主義ですから」
「お前な……まあいいや。それよりもお前に頼みが」
俺が最後まで言い終わる前にノックが響いた。
「なんだ」
「失礼いたします。シュヴァリエ坊っちゃま、ダズルでございます」
「あ?」
ダズルがやってくるなんて、なんかあったのか? 俺はサリクスと顔を見合わせ、ひとまず室内へと入れることに。
「入れ」
「失礼いたします。おくつろぎのところ申し訳ありませんが、旦那様がお呼びでございます」
「公爵が?」
「はい。奥様と使用人二人の処罰が決定したから話したい、とのことにございます」
へえ? もう確認が済んだってことか。仮にも公爵ってことね。
「……わかった。すぐ行く。サリクス、公爵と話をしている間に水をよく吸う薄い紙と厚紙、あとは園芸用のハサミと重版の本のような重い物、それから手の縦幅くらいの長さの棒を二本用意しておけ」
「かしこまりました」
それだけ言い残し、俺はダズルの後に続いて公爵の元へ向かった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
というわけで俺はまた公爵の執務室へとやってきた。正直こんなことでもなかったら来たくない場所だけど。
「お呼びでしょうか公爵」
声をかけるも俺を見る公爵の目は依然冷たいままだ。少しは何かあるかと思ったんだけど、やっぱ夢は見るなってことですかね。
「来たかシュヴァリエ。話が長くなるだろうからひとまず座りなさい」
「はい、失礼します」
ほう? 公爵がわざわざ着席を促すなんてSSR並みのレア度だな。というか今まで着席して何かを話すほどの関係も話題もなかったから、まともに会話するのはこれが初めてになる。あ、昨日のことはノーカウントで。あれは俺が一方的に脅……畳みかけ……交渉しただけだから数には入らない。
「あれは処分したか?」
「はい、(俺の分は)処分しました」
腰を下ろして最初に言うことがそれかい。処分なんかしていないけど、今は俺の手元にないのは事実だ。それにたとえ処分したとしてもカルに頼めばまた手に入るから、実はほとんど意味のない条件なんだよな。
「ところで三人の処遇が決まったとのことですが」
「ああ、裏が取れたからな。……お前が暴いたのだ。結末を知る義務があるだろう」
「お気遣いありがとうございます」
形ばかりの感謝を言うと公爵から微妙な視線を頂戴した。なんだよ、別によくね? 本気で有り難がられるようなことをしたわけでもないのにそんな目をされましても、って感じなんだが。
俺の想いが伝わったのか、公爵は深くため息をついた。
「まずアマラだが、離縁し実家に帰す。その際向こうから送られた金に多少の上乗せをして返すことで話がついた」
「昨日も仰っていましたが離縁の方でいいのですか?」
「ああ。異例中の異例だがな。裏付けが完了した段階で向こうに書を出して、ついさっき了承の返事が届いたところだ」
「よく納得してくださいましたね。嫁入りであれ婿入りであれ、他家に嫁いだ人間がその家に危害を加えた場合は、両家当主合意の下密かに表舞台から消すのが一般的なはずですが」
これはゲームにない情報で、学園に入る前に礼儀作法と共に学んでおく最低限の知識の一つだ。
というか転生した以上ここは俺にとって現実になる。だからプレイヤー視点では絶対に得られない情報というのは無数に存在しているのはある意味当然のこと。仮に俺があのゲームを知らないでここに転生していたら、気にもしなかったと思う。だからゲームでは起きない事態が発生してもなんらおかしくはない。
……まあだからこそ強制力とやらに俺の邪魔をされたくないわけで。無知だった時も怖いけど知っているってこともそれはそれで怖いんだな。現実だと理解して受け入れていれば何かあってもそれなりに対処できるでしょ。
だからと言ってクラルテと関わりたくないって気持ちはかけらも変わらないがな!!!
……話が逸れた。
今言った通り、貴族が嫁入りまたは婿入りした先でその家に大きく影響を与えるような問題を起こした場合、秘密裏に消すという措置が行われる。もっとも表向きは病死や事故死として公表されるから、どんなことをやったのかは明らかにされないことが多い。
だから公爵が離縁って言った時は正直びっくりだったわ。しかも相手も了承するとか。
なーんて思っていたら、公爵が苦虫を潰したような顔で思いきりため息をついた。……どうしたよ。
「現当主はアマラの実弟でな。少しばかり姉に懐きすぎている節がある。だから此度の件も離縁の旨を伝えたら二つ返事で了承した」
あ~なるほどね。公爵的には一般の措置を検討したが、向こうは絶対に首を縦に振らず話が平行線になる可能性が高かった。何度も面倒なやり取りをするくらいなら初めから離縁という方法にすれば時間を無駄にしないで済む、ってことか。え、それをあの一瞬で考えたの? マジで? ……この人実は頭良かったのか?
……まあいいや、とりあえず理由は理解したわ。
「向こうは今回の件をこれ幸いと喜んでいそうですね。大好きな姉が帰ってくると」
「……」
黙った。だけど公爵も同じことを考えたらしく嫌っそうな顔になる。
「まあ、夫人については私も異論はありません。それで残りの使用人二人は……」
「両方とも昨日のうちに屋敷から追い出している。シエンナの方はこれまでの実績を鑑みて退職金は出した」
「ファボルの方はどのように?」
「平民が貴族に毒を盛ったのだ。利用されていただけとはいえ重罪になる。それに言い訳を聞いても、過去の行いと合わせて情をかける理由はない」
「それはそうでしょうね」
「よって鞭打ち二十回の後にそのまま追放した」
「退職金は……」
「ない。そもそも勤務態度もあまりよくなかったみたいだからな」
「そうでしたか。まあファボルはいいとしてシエンナと夫人は放っておいてよろしいのですか?」
自分で言っておいてなんだけどフラグだったりしてね。くれぐれも俺が回収役にならないことを祈ろう。
「仕掛けてくるようなら潰せばいいだけだ。お前が案じられるまでもない」
「そうですか。余計な心配を失礼しました」
夫人は離縁で実家送り、シエンナは退職金ありで解雇、そんでもってファボルは鞭打ちありで退職金も出ずに解雇……ね。ひとまず三人ともお先真っ暗って感じの罰にはなったのかな。夫人は離縁されたということで社交界から爪弾き確定だろうし、シエンナも公爵家から犯罪の共犯という理由での解雇だから年齢的にも再就職は厳しいと思う。だけどシエンナもどっかの貴族の三女だった気がするから夫人同様実家に帰ることになるのかな? そしてファボルは一番悲惨だ。短期で解雇された上に退職金もなしとくれば今後の生活は絶望的な気がする。運良く拾ってくるところがあればいいけど。まあ給料は高いからちゃんと貯めていれば少しは凌げるだろ。
……うん、俺は特に文句はないな。というか完全に事後報告なのでどうしようもないんだけど。
「わかりました。教えていただきありがとうございます」
「ああ……」
「ところで夫人には何か別れの品などは贈られたのですか?」
「……アマラには赤い靴を贈った」
うわっ! ひどいわこの男。きっとあれだな。この人の辞書は情け、慈悲、優しさの文字が載っていない欠陥品だよ絶対。今絶対に顔引き攣っていると思う。
「他に何かあったでしょうに」
「ふん……お前はいつ学園に戻るつもりだ」
……復学ねえ。もし俺の予想通りだった場合は遅かれ早かれクラルテと遭遇するんだし、あんまり怯えて先延ばしにすれば授業の遅れが怖いしな。だったらもういっそ腹を括ってさっさと出会いイベントを過ぎた方がいいような気がしてきた。最悪クラルテとは極力関わらないという方針さえ揺らがなければなんとかなる……はず。
「罪人の処罰も聞けましたし、明日には戻りますよ」
「そうか。……話は終いだ。戻れ」
あっさりと追い出すねえ。まあ俺もあんたと雑談する気はかけらもないからいいんだけど。じゃあ退室を促されましたし、さっさとおさらばしますか。
「はい、私はこれで失礼します」
一礼をして部屋から出る直前、いきなり後ろから声がかかった。
「今回の手腕はなかなかだった」
「……そうですか」
それだけ言って扉を閉めた。
「……最後の、なに?」
………………幻聴が聞こえた。無意識に気を張っていたのかなきっとそうだ。よし急いで部屋に戻ろう!
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
部屋に戻るとサリクスが俺の要望通りのものを用意して待っていた。よっしゃあ!!!
「シュヴァリエ様! ご所望のものご準備できていますよ」
「どうも。……ふーん、結構いいな」
「これで何をなさるんです?」
「ん? できてからのお楽しみだ」
「え~」
「それよりも集中したいからお前はもう休んでいいぞ」
「見ていたらダメですか?」
「誰かに見られながらやるのは気が散るんだよ」
「わかりました。ではお先に休ませていただきます」
そう言ってサリクスは部屋を後にする。……よし、それじゃあ誰もいなくなったところで。
「押し花作り、始めますか!」
それにしても身内に命を狙われるとか前世じゃまずあり得ない状況だったいうのに、何故か怖いって感情がカケラも湧いてこないんだよな。シュヴァリエの時も、柊紅夏の記憶が戻った今も思うところは特になし。俺って実は人間的な心がどこか欠如しているんじゃなかろうか。端的に言えば性格が悪いってなるんだけど。……そういや前世でゲームをプレイしていた時シュヴァリエにも同じこと思ったな。あれは確かチュートリアルで……。チュートリアル……で………………。
「ああっ!!!」
俺は思わず声を上げ、慌てて口を塞ぐ。サリクスが席外していて良かった。……よりにもよって今かよ! 畜生っ!
たった今俺は思い出した。思い出してしまった。俺の計画を根本から覆す事実を。
ゲームのチュートリアルではシュヴァリエとクラルテの出会いのシーンもある。そこでシュヴァリエと迷子になっていたクラルテがエンカウントするんだよな……。と言っても言葉を交わすわけじゃない。キョロキョロしていたクラルテがシュヴァリエとぶつかり、不機嫌全開で睨まれるというだけだ。
……で、問題はここから。クラルテに無言の睨みを送ったシュヴァリエが立ち去った直後にリヒトとの出会いのシーンになるんだけど、そこでリヒトの口から『シュヴァリエが実家の都合で短期休学から今日復学した、あの人には気をつけろ』的な内容が語られるんだよ。……そして。
只今の俺の現状は実家に呼び出し食らって毒にやられたため短期休学中。リヒトのセリフの『実家の都合云々で短期休学、今日から復帰』の前半部分と合致する。つまり、俺の復学=チュートリアル開始ということだ。
……。どうすんのよこれ。もしゲームの強制力とやらが現実に存在するのだとしたら俺の復学に合わせてクラルテが~的な展開になる可能性・大! ……せっかく公爵との取引が上手くいったのに喜びに浸ることもできないとは。神様って意地悪だね。信じていないんだけど。
俺は押し花のためにクラルテとは是が非でも関わりたくない。まあエンカウントが嫌なら屋敷にいろって話だが、実家にいればいるだけ授業が遅れるんだよな。シュヴァリエには休んだところでノートを取ってくれる友人もパシリで点数稼ぎしたい取り巻き連中もいないから、長期的に休むと授業の遅れがとんでもないことになる。
……俺の今世、なんかいろいろ悲しいな。両親には愛されず友だちもおらず、悪事を働いて挙句にざまぁされるという誰得人生お疲れ様って感じ。
……。
うん、主人公以下攻略対象連中と関わなければいいんだ。俺には趣味がある。押し花がある。ぶっちゃけそっちが最重要! よって俺のことは虫だと思って無視してください。そして愛だの恋だの友情だのどうぞご自由に!
「シュヴァリエ様、如何なさいましたか?」
あ、サリクス戻ってきたんだ。さっきの叫び声聞かれなくてマジ良かった。
「いや、なんでもない」
「そうですか。あ、お茶お注ぎしますね」
と言って準備してくれているけど、さすがに昨日の今日で俺が飲むはずだったものを口のない物にあげないよな?
「なんですかその目は。昨日は特別です。ちゃんとすべてシュヴァリエ様のお飲み物ですよ」
「……どうだか」
「私がシュヴァリエ様の前で失敗したことがありましたか?」
「自分で覚えていないのか」
「過去にはこだわらない主義ですから」
「お前な……まあいいや。それよりもお前に頼みが」
俺が最後まで言い終わる前にノックが響いた。
「なんだ」
「失礼いたします。シュヴァリエ坊っちゃま、ダズルでございます」
「あ?」
ダズルがやってくるなんて、なんかあったのか? 俺はサリクスと顔を見合わせ、ひとまず室内へと入れることに。
「入れ」
「失礼いたします。おくつろぎのところ申し訳ありませんが、旦那様がお呼びでございます」
「公爵が?」
「はい。奥様と使用人二人の処罰が決定したから話したい、とのことにございます」
へえ? もう確認が済んだってことか。仮にも公爵ってことね。
「……わかった。すぐ行く。サリクス、公爵と話をしている間に水をよく吸う薄い紙と厚紙、あとは園芸用のハサミと重版の本のような重い物、それから手の縦幅くらいの長さの棒を二本用意しておけ」
「かしこまりました」
それだけ言い残し、俺はダズルの後に続いて公爵の元へ向かった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
というわけで俺はまた公爵の執務室へとやってきた。正直こんなことでもなかったら来たくない場所だけど。
「お呼びでしょうか公爵」
声をかけるも俺を見る公爵の目は依然冷たいままだ。少しは何かあるかと思ったんだけど、やっぱ夢は見るなってことですかね。
「来たかシュヴァリエ。話が長くなるだろうからひとまず座りなさい」
「はい、失礼します」
ほう? 公爵がわざわざ着席を促すなんてSSR並みのレア度だな。というか今まで着席して何かを話すほどの関係も話題もなかったから、まともに会話するのはこれが初めてになる。あ、昨日のことはノーカウントで。あれは俺が一方的に脅……畳みかけ……交渉しただけだから数には入らない。
「あれは処分したか?」
「はい、(俺の分は)処分しました」
腰を下ろして最初に言うことがそれかい。処分なんかしていないけど、今は俺の手元にないのは事実だ。それにたとえ処分したとしてもカルに頼めばまた手に入るから、実はほとんど意味のない条件なんだよな。
「ところで三人の処遇が決まったとのことですが」
「ああ、裏が取れたからな。……お前が暴いたのだ。結末を知る義務があるだろう」
「お気遣いありがとうございます」
形ばかりの感謝を言うと公爵から微妙な視線を頂戴した。なんだよ、別によくね? 本気で有り難がられるようなことをしたわけでもないのにそんな目をされましても、って感じなんだが。
俺の想いが伝わったのか、公爵は深くため息をついた。
「まずアマラだが、離縁し実家に帰す。その際向こうから送られた金に多少の上乗せをして返すことで話がついた」
「昨日も仰っていましたが離縁の方でいいのですか?」
「ああ。異例中の異例だがな。裏付けが完了した段階で向こうに書を出して、ついさっき了承の返事が届いたところだ」
「よく納得してくださいましたね。嫁入りであれ婿入りであれ、他家に嫁いだ人間がその家に危害を加えた場合は、両家当主合意の下密かに表舞台から消すのが一般的なはずですが」
これはゲームにない情報で、学園に入る前に礼儀作法と共に学んでおく最低限の知識の一つだ。
というか転生した以上ここは俺にとって現実になる。だからプレイヤー視点では絶対に得られない情報というのは無数に存在しているのはある意味当然のこと。仮に俺があのゲームを知らないでここに転生していたら、気にもしなかったと思う。だからゲームでは起きない事態が発生してもなんらおかしくはない。
……まあだからこそ強制力とやらに俺の邪魔をされたくないわけで。無知だった時も怖いけど知っているってこともそれはそれで怖いんだな。現実だと理解して受け入れていれば何かあってもそれなりに対処できるでしょ。
だからと言ってクラルテと関わりたくないって気持ちはかけらも変わらないがな!!!
……話が逸れた。
今言った通り、貴族が嫁入りまたは婿入りした先でその家に大きく影響を与えるような問題を起こした場合、秘密裏に消すという措置が行われる。もっとも表向きは病死や事故死として公表されるから、どんなことをやったのかは明らかにされないことが多い。
だから公爵が離縁って言った時は正直びっくりだったわ。しかも相手も了承するとか。
なーんて思っていたら、公爵が苦虫を潰したような顔で思いきりため息をついた。……どうしたよ。
「現当主はアマラの実弟でな。少しばかり姉に懐きすぎている節がある。だから此度の件も離縁の旨を伝えたら二つ返事で了承した」
あ~なるほどね。公爵的には一般の措置を検討したが、向こうは絶対に首を縦に振らず話が平行線になる可能性が高かった。何度も面倒なやり取りをするくらいなら初めから離縁という方法にすれば時間を無駄にしないで済む、ってことか。え、それをあの一瞬で考えたの? マジで? ……この人実は頭良かったのか?
……まあいいや、とりあえず理由は理解したわ。
「向こうは今回の件をこれ幸いと喜んでいそうですね。大好きな姉が帰ってくると」
「……」
黙った。だけど公爵も同じことを考えたらしく嫌っそうな顔になる。
「まあ、夫人については私も異論はありません。それで残りの使用人二人は……」
「両方とも昨日のうちに屋敷から追い出している。シエンナの方はこれまでの実績を鑑みて退職金は出した」
「ファボルの方はどのように?」
「平民が貴族に毒を盛ったのだ。利用されていただけとはいえ重罪になる。それに言い訳を聞いても、過去の行いと合わせて情をかける理由はない」
「それはそうでしょうね」
「よって鞭打ち二十回の後にそのまま追放した」
「退職金は……」
「ない。そもそも勤務態度もあまりよくなかったみたいだからな」
「そうでしたか。まあファボルはいいとしてシエンナと夫人は放っておいてよろしいのですか?」
自分で言っておいてなんだけどフラグだったりしてね。くれぐれも俺が回収役にならないことを祈ろう。
「仕掛けてくるようなら潰せばいいだけだ。お前が案じられるまでもない」
「そうですか。余計な心配を失礼しました」
夫人は離縁で実家送り、シエンナは退職金ありで解雇、そんでもってファボルは鞭打ちありで退職金も出ずに解雇……ね。ひとまず三人ともお先真っ暗って感じの罰にはなったのかな。夫人は離縁されたということで社交界から爪弾き確定だろうし、シエンナも公爵家から犯罪の共犯という理由での解雇だから年齢的にも再就職は厳しいと思う。だけどシエンナもどっかの貴族の三女だった気がするから夫人同様実家に帰ることになるのかな? そしてファボルは一番悲惨だ。短期で解雇された上に退職金もなしとくれば今後の生活は絶望的な気がする。運良く拾ってくるところがあればいいけど。まあ給料は高いからちゃんと貯めていれば少しは凌げるだろ。
……うん、俺は特に文句はないな。というか完全に事後報告なのでどうしようもないんだけど。
「わかりました。教えていただきありがとうございます」
「ああ……」
「ところで夫人には何か別れの品などは贈られたのですか?」
「……アマラには赤い靴を贈った」
うわっ! ひどいわこの男。きっとあれだな。この人の辞書は情け、慈悲、優しさの文字が載っていない欠陥品だよ絶対。今絶対に顔引き攣っていると思う。
「他に何かあったでしょうに」
「ふん……お前はいつ学園に戻るつもりだ」
……復学ねえ。もし俺の予想通りだった場合は遅かれ早かれクラルテと遭遇するんだし、あんまり怯えて先延ばしにすれば授業の遅れが怖いしな。だったらもういっそ腹を括ってさっさと出会いイベントを過ぎた方がいいような気がしてきた。最悪クラルテとは極力関わらないという方針さえ揺らがなければなんとかなる……はず。
「罪人の処罰も聞けましたし、明日には戻りますよ」
「そうか。……話は終いだ。戻れ」
あっさりと追い出すねえ。まあ俺もあんたと雑談する気はかけらもないからいいんだけど。じゃあ退室を促されましたし、さっさとおさらばしますか。
「はい、私はこれで失礼します」
一礼をして部屋から出る直前、いきなり後ろから声がかかった。
「今回の手腕はなかなかだった」
「……そうですか」
それだけ言って扉を閉めた。
「……最後の、なに?」
………………幻聴が聞こえた。無意識に気を張っていたのかなきっとそうだ。よし急いで部屋に戻ろう!
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
部屋に戻るとサリクスが俺の要望通りのものを用意して待っていた。よっしゃあ!!!
「シュヴァリエ様! ご所望のものご準備できていますよ」
「どうも。……ふーん、結構いいな」
「これで何をなさるんです?」
「ん? できてからのお楽しみだ」
「え~」
「それよりも集中したいからお前はもう休んでいいぞ」
「見ていたらダメですか?」
「誰かに見られながらやるのは気が散るんだよ」
「わかりました。ではお先に休ませていただきます」
そう言ってサリクスは部屋を後にする。……よし、それじゃあ誰もいなくなったところで。
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※別名義で連載していた作品になります。
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