悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

文字の大きさ
28 / 140
二頁 アジサイの涙

27話 答え合わせ①

しおりを挟む
 目の前の令嬢、もとい俺の従兄妹は元公爵夫人そっくりでーー今回の騒動の元凶だ。

「あら、お従兄様……お久しぶりですわ。いきなり飛び出してこないでくださいまし。間違って叩いてしまうところだったではないですか」

 よくもまあ何の悪びれもなくそんな言葉が出てくることで……。シュヴァリエはこの従兄妹を毛嫌いしていたみたいだけど、すっげえ気持ちがわかるよ。

「なぜこんなことになっている?」
「……せっかちですのね。まずは手を離してくださいな。いくらお従兄様でもレディの腕をいつまでも掴んでいるものではありませんわよ?」
「なら私から距離を取れ」
「相変わらずツレないですわね」

 俺は半ば振り払うようにしてアラグリアから手を放す。自分から掴んでおいてアレだけど、いかんせん勢いづいていたからこれ以外に止める手段がなかったんだよ。
 念のため説明すると、今俺の後ろで座り込んでいる男をアラグリアが扇子で打擲されかけたところを俺が割り込み、アラグリアの手首を掴んで強引に止めたところにクラルテサイドの面々が到着した、って流れ。
 俺はその場から少し離れてアラグリアを一瞥したのち、地べたに座り込んでいる男ーーもとい例の小箱の持ち主であり今回の騒動の犯人(?)であるイデアル・オルテンシア子爵令息へと冷めた視線を向ける。そこへエヴェイユが一歩進んで二人に声をかけた。

「オルテンシア公子、リコリス嬢。一体どういうことでしょう」
「まあエヴェイユ殿下ではありませんの! 申し訳ありません。不肖アラグリア・リコリスがエヴェイユ第二王子殿下にご挨拶申し上げます」
「同じくイデアル・オルテンシアがエヴェイユ第二王子殿下にご挨拶申し上げます」

 サッと礼をとったアラグリアに、イデアルも即座に立ち上がってお辞儀をした。エヴェイユは畏まる二人を手で制して言葉を続ける。

「挨拶は結構ですよ。楽にしてください。それよりも説明してはもらえませんか? なぜこんな状況になっているのか。リコリス嬢、いくら怒りの感情があったとはいえ学内で暴力沙汰は誉められた行いではありませんよ」
「お目汚し心より謝罪を申し上げますわ。ですがこの状況の原因はそこの子爵家の男……オルテンシア様にありますの」
「っ……!」

 その場にいた全員から一斉に視線を頂戴したイデアルはビクっと肩を震わせて俯いた。なーにが、オルテンシア様にありますだよ。お前のせいだろ馬鹿女! ……と言いそうになったが、アラグリアがなんかペラペラと口八丁に話し出したので入り込む隙がなくなった。……ああこの光景、ゲームで見たことあるわ。第一の事件の小箱騒動の真相解明される場面もこんな感じだったっけ……。クラルテたちの表情もそのままだし、これはこれでいっそ面白いな。
 アラグリアの言い分を要約するとこうだ。

--------------------
 
 始まりは授業のグループ学習だった。要領の悪いイデアルにアラグリアが声をかけてスムーズに進むようにサポートしたのをきっかけに何かと会話を重ねる機会が増え、次第に恋心へと発展していった。それはイデアルも同じだったらしく、彼から告白を受けたが身分の差からやむなく断るしかない。そう言った後からイデアルの付き纏いが始まったらしい。そこでアラグリアは例の小箱をイデアルに渡してこう言った。

『この小箱の中にはある種が入っています。もうすぐ芽を出すはずだから、その芽が出たらお付き合いします。この箱は特殊な物で芽が出ればこの模様が光るようになっているんです。だからこの箱が光るまで決して開けないように』

 イデアルは一旦聞き入れ引き下がったものの、開けてはいけないという約束を違えて箱を開け、アラグリアの元へやってきた。その時目は血走っており、あまりの恐怖につい扇子を振り上げてしまったーー

--------------------

 話を終えたアラグリアは涙を浮かべて、今にも倒れそうなほど震えていた。取り巻きの令嬢たちは必死に慰めるように寄り添っている。よっぽど怖かったんだな………………なんて思うわけねえだろ馬鹿。
 ストーリーを知っている俺にはわかる。そしてシュヴァリエの記憶を有しているからこそ確信ができる。この女の涙は真っ赤な嘘だと。俺とアラグリアの間にある凄まじい温度差に気を抜くとすぐさま笑い出しかねない。こんなところで笑ってはダメだ、堪えろ俺! 
 こっそりと様子を伺えば、貴族階級に属する人たちは皆冷めた目でアラグリアを見つめていた。唯一クラルテだけは辛そうな表情をしている。こんな茶番を信じるなんて君純粋だねぇ。知っていたけど。

「……リコリス嬢はこう言っているけれどオルテンシア公子はどうですか?」
「……っ! え、と……ぼ、私は……」

 王族であるエヴェイユの問いに沈黙も虚偽も許されない。イデアルは震えながらも口を開き、アラグリア同様に己の言い分を述べた。
 ことの発端はアラグリアと同じく授業中のグループ学習で次第に話すようになり恋心へと発展した。
 ……ここまでは同じだが、この先はアラグリアの話とは全く違うものだった。
 曰くーー

--------------------

 確かに恋心は抱いていた。しかし身分の差は重々承知していたため、遠くから想うだけにした。
 けれどある日、偶然アラグリアが落とし物をしたという話を聞き、探し出して彼女に届けた。アラグリアにとって大切な物だったらしいその落とし物を見つけたことによって、アラグリアから毎日アジサイを送られるようになった。叶わない恋だとわかってはいたがやはり嬉しくて、アラグリアのそばにいたいと思うようになった。
 しかし、自分も貴方が好きですと言った直後に例の小箱を渡され蓋の模様が光るまで絶対に開けないようにと言われた。それ以来交流がなかったが、数日前にうっかり落として箱が開いてしまったらしい。種が入っていると言われた箱は空で、騙されたと悟ったイデアルはもらったアジサイを払いのけ悲しみに暮れて勢いで箱を捨ててしばらく部屋に閉じこもった。
 数日経って少しばかり元気の出てきたイデアルはアラグリアの真意を知りたくて彼女の元を訪ねたが、顔を合わせた途端に嘲笑い罵倒し打擲されかけたーー

--------------------

 ……ということらしい。
 話をしている間もイデアルは今にも卒倒しそうなほどに青ざめ震えていた。
 まあ自分の周りを高位貴族に囲まれ罪人よろしく吊し上げ状態になれば怖いわな。この中でイデアルより下の身分はクラルテのみ。リコリス家の身分は侯爵だし。いくら弁明しても普通なら身分の高い者の言い分が聞き入れられてしまう。だがたとえそうであったとしても自分に質問を投げてきたのは王族。だんまりで通せる相手ではないし周りには俺を筆頭とする高位貴族がズラリ。ビビるなという方が無理だ。
 双方の話を聞いたエヴェイユはしばし考え込む素振りを見せた後、唐突に視線を動かし笑顔で俺を見つめてきた。

「せっかくシュヴァリエ公子が目の前にいるのですから、ご意見を伺いましょうか。きっとうまくまとめてくださると思いますし」
 
 ーーどうでしょう? と疑問形にしているが、これはやれという命令だ。しかも『うまくまとめてくださるでしょう』ということはつまり、『自分が生徒会長という立場で対応できる範疇に事を収めろ』ってことだよね。
 ……。
 ……うん、正直ごめん被りたいけど命令であれば逃亡不可です。しっかり逃げ道を塞ぎますねあんた。……そんなに俺が嫌いか腹黒優男め。
 あ~~~もうっ! こうなったら速攻片付けて逃げてやる! そんでこの件は終わりだ二度と関わってなるものか!!!!!
 密かに呼吸を整えた俺はクラルテへと視線を向ける。

「編入生、例の箱を出せ」
「……あ、はいっ!」

 クラルテが持ち歩いていた件の箱を見せるとイデアルは目を見開いてガン見し、アラグリアは鬱陶しそうに見つめた。

「先程私がやって見せたように箱の蓋の裏と縁の部分を合わせろ」
「こうですね」

 俺の指示に素直に従うクラルテ。その様子が気に入らないらしいリヒトは俺を射殺さんばかりに睨みつけてきた。元気な男だ。
 
「……合わさったところを読んでみろ」
「え? ……あ! はいっ!」

 一瞬俺の言葉にきょとんとしたものの、模様を見て即座に理解したクラルテは指示通り、合わさった模様が作り出す文字を読み始めたーー

しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。 一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。 補習課題のペアとして出会った二人。 セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。 身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。 期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。 これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...