47 / 140
三頁 ローダンセの喜劇
45話 二つの喜劇
しおりを挟む
「アクナイトさぁ~んっ!」
樽野郎の屋敷から出るなり、クラルテが大声で駆け寄ってきた。その顔には涙で濡れており、目も充血している。どんだけ泣いたのさ。
その後を追うようにアウル、ルーフ、シャリテ、プレア、イデアルもやってきて一斉に俺を取り囲んだ。よく見るとなんかみんな目が潤んでいるし、イデアルなんか大粒の涙をぼろぼろ溢している。え、そんなに泣くっ!?
「アクナイト公子、無事で何よりだ」
「あの程度でどうにかなる私ではありません」
「それでも皆が君を案じていた。もちろん俺もだ」
それに同意するように他の面々も次々に頷く。樽野郎にとっ捕まってから大して時間経っていないと思うけど、この様子を見ると心配をしていたというのはどうやら本当らしい。まさかシュヴァリエ・アクナイトが同窓から心配される日が来るとは思わなかったな。
「本当にお怪我とかされてませんか!?」
「君に心配されるほどのことは起こっていない」
「ですがコランバイン伯爵は以前からあまり良い噂がありませんでした。王族の皆様方も目をつけていらしたということですし、本当に何もされていないのですわね?」
「先ほどからそう言っている。……それよりもローダンセ公子はどこだ?」
「公子でしたら早々に騎士様に保護され今後カンパニュラ伯爵邸にて療養されることになりました」
オドオドしながらイデアルが報告してくる。ゲームの展開通りだな。それが聞ければあとは正直どうでもいい。
「それならこれ以上私たちが関わる理由はない。センダンへ戻ろう」
「ですが……」
「心配するのは勝手だが私たちに一体何ができる? もうすぐ王室からも人が派遣されてくるだろう。私たちははっきり言って邪魔でしかない。素人が玄人の仕事に割って入っても不要な仕事が増えるだけだ」
自分たちが力不足なのは自覚しているのかクラルテが俯く。ここにリヒトがいたら真っ先に噛みついてきそうだと思いながらまた口を開いた。
「わかったのならセンダンに戻って……」
学外ワークの続きをしようと言い終わる前に馬の鳴き声といっそけたたましいと思うほどの音を立てながら一台の馬車がコランバイン邸の正門に停まり、やや乱暴に扉が開かれる。中から出てきたのはーー
「お兄様っ!!!」
我らがアクナイトの女王様ルアルだった。貴族令嬢が大声を出すのは如何なものかと思ったのも束の間。ものすごい形相でこちらへやってくるなり。
「一体何を考えておりますのこの馬鹿兄っ!」
思い切り罵られた。
……妹よ、人前で馬鹿兄呼びは酷くないかね? 思わずジト目で睨むがルアルはあっさり無視、どころかますます美麗な眉を吊り上げた。
「なんですのあの手紙は! 妹に初めて送る内容がアレだなんて、何をどうしたらこんなことになるんですっ!? アレを見たときの私の気持ちが分かりまして? あまりの内容にお父様やシエルお兄様にも手紙を送ってしまいましたわ!」
げ、まじかこの妹。公爵はわかる。だけどシエルにまで送るなんて。もっともシエルとは全くと言っていいほど接点ないし、ゲームでも名前だけでモブにすらカウントされないような人物だったから俺もどんな性格なのかは知らない。だからルアルの手紙を読んでどんな行動をとるかさ~っぱり検討つかんのよね。……まあエヴェイユの一番の親友っていう時点である程度察せられそうだけど。ほら類は友を呼ぶって言うし?
「兄上と交流がないのは知っているだろう。なぜわざわざ送った?」
「はい? 何を寝ぼけたことを言っていますの? 家族なのですから当然ではありませんか。近々シエルお兄様から何かしら連絡があるはずですわ」
「……なぜ兄上にも?」
「何を言っていますの? シエルお兄様はアクナイトの後継者ですわよ? それ以前に家族なのですから身内の危機を知らせて当然でしょう!」
当たり前のことを言わせるなとばかりの視線を寄越され思わず半目になった。ええ、ええ確かに家族でしょうよ。ただ……シュヴァリエはびっくりするほどその家族と交流を持っていないから正直ルアルのこともシエルのことも知らないの一言なんだよな。家族なのに趣味とか好物とか普段どんな風に過ごしているかなど多分、というか絶対にお互い知らない。そんな油も凍りそうな関係しか築いていない存在だ。しかもシエルは現在絶賛留学中。交流など皆無である。
その相手にいきなりシュヴァリエにこんなことがあったと言う報告をしたところでどんな反応が返ってくるのやら。自分がどう思われているか全くの未知数で行動も読めない。ゲームではシエルもルアルも名前しか出てこないモブ以下だったし。
「聞いていますの? 心ここに在らずとは妹である私を前にいい度胸ですわ! ようやくお話できるようになったんですもの。遠慮はしませんわよ?」
……なんかルアルが不穏なことを言い出した。一体どうした?
内心困惑する俺など知ったことかとばかりに俺を取り囲んでいた面々に向き直ると綺麗に礼をとり、
「皆様申し訳ありませんが、我が兄を少々借りていきますがよろしいでしょうか?」
有無を言わさぬお上品なお言葉に皆は揃って頷く。
「センダンの町にお戻りになるのでしたらその前に一息入れてはいかがでしょう? 道中宿もありますしここしばらくは落ち着くことはできなかったでしょうから」
「……そうさせてもらおう。それにまだ学外ワークの期間は余っているから不測の事態があったとはいえきっちりこなすべきだ。だが騎士たちの事情聴取もある。今日はこの町の宿に泊まろう」
それで構わないだろうか? とアウルに目で問われれば皆否やはないようで、賛同の意を示す。もちろん俺もだ。……が、妹の対話はちょーっと考えもの。
「ルアルも期間が残ってるはずだ。戻れ」
「それならばグループの皆に了承はとっていますし、連絡もなんら問題ありません。むしろ皆様がこぞって送り出してくださいましたのよ」
皆の気遣いを無駄にするわけにはいきませんから、というルアルの笑みのなんと麗しいことだろうか。……その背が紅蓮の焔に包まれていなければ。
……。
……俺、無事に生還できるんだろうか。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
あれから。
特に何事もなく学外ワークを終えた。あのあとルアルに自分がどれだけ心配したか、シエルがシュヴァリエをどう思っているのかを懇々と語られ、その後今度はアウルたちが口々に文句と心配とお叱りの言葉をもらった俺は正直学外ワークどころではなかった。ルアルに俺が無茶をしないようしっかり監視をするよう頼まれたらしく、いつどこに行くにも誰かしらがそばにいたのである。常に人がいるというのも非常に疲れると嬉しくない知識を得てようやく学園へと戻ってきた。
それから数日して俺たちはエヴェイユから話があると言われ、奴の執務室へと向かった。
「お久しぶりですシュヴァリエ公子」
「エヴェイユ第二王子殿下にご挨拶申し上げます」
「堅苦しくしなくて結構ですよ。どうぞおかけください」
言われるままに着席すると早速エヴェイユが話を切り出した。
「この度はローダンセ伯爵親子を救ってくれたこと、王家の者として心からお礼を言わせてください」
「そのようなお言葉を言われるようなことはしていませんのでお気遣いなく」
「まあまあそう言わずに。王国の膿も出せましたし、王家としてはこの上なくありがたいことなのですよ」
「そうですか。それでコランバイン伯爵にはどのような沙汰が下ったのです?」
「領地と財産を没収した上で、十年間の強制労働の後に国外追放となりました」
「それはまた……」
なんだろう……ゲーム通りなのにその程度では足りないと思ってしまっている。被害者になりかけたからか?
「何か言いたそうですねシュヴァリエ公子?」
「いえまさか。王家が決めたのでしたら私に否やはありませんよ」
「そうですか? 私はてっきりもう少し重い罰でもいいと思っているのかと」
「此度の件は陛下が直々に沙汰を下されたのでしょう?」
「ええ、事が事ですからね」
「であれば心配も指摘も不要です」
「なるほど……シュヴァリエ公子は父上を信頼してくださっているんですね。嬉しい限りですよ」
「……ローダンセ伯爵家はどうなるのですか?」
「彼らは現在カンパニュラ伯爵家にて療養されています。コランバイン伯爵が強奪したローダンセ伯爵家の財産を返還し、売られてしまったものは買い戻している最中です。もっとも民のためにお金に換えたものもあるようです。そちらに関しては買い戻しは不要とローダンセ伯爵から言われてしまいましたが」
「『民のために売った』?」
思わずと言った感じでイデアルが口に出し直後に慌てて口を閉じた。ああやっぱりね。
「ローダンセの屋敷に不自然なほど物がなかったのはローダンセ公子が民のためにお金に換えていたのですよ。あらかじめ屋敷にあったという隠し部屋に保管。定期的に外部へと流し換金して民に分け与えていたようです。……そうでしたよねパフィオペディラム公子?」
えっ!? という声と共に知らなかった面々はルーフへと視線を向けた。これもゲームの内容であった事だ。なんてことはない。ルーフはフェリキタスの協力者だったというだけである。だったらなぜ家の力を使って助けなかったのかという話だが、証拠がない上に下手に動けば夫妻の命が失われてしまうからである。そこは貴族だろと思わないでもないが、いかんせん向こうにはあいつがいた。結果として下手に動かないことは正解だったのである。
「……殿下は咎めないのですか?」
「なにをですか? 貴方は民のために尽くしただけでしょう。咎める理由などありませんよ」
「しかし……!」
「真面目な人ですね。けれど本当に不要ですよ? 父上も気にしていませんし」
寛大な国王だな。いかなる理由であれ、長年ローダンセ伯爵一家のことを知っていたのにも関わらず黙っていたルーフを見逃すとは。
「むしろ貴方はこれからが大変なのですから、対面的にはそれが罰になるでしょう。もっとも貴方にとってはご褒美になってしまうかもしれませんが?」
「……! 殿下それはっ……!」
「成就、おめでとうございます」
意味がわからず首を傾げる面々を横目に俺は内心頭を抱えた。絶っ対に楽しんでやがるわこのエセ紳士!
「エヴェイユ殿下お戯れがすぎます。何もこの場で遊ぶ必要はないかと。せめて私の前でやらないでいただけますか?」
「おや……シュヴァリエ公子はお気づきだったんですね。せっかくですし応援して差し上げては?」
「ご用がお済みでしたら失礼します」
そう言うなり俺はやや乱暴に執務室を出た。無礼とかそんなものは知らない。これ以上あいつの遊戯に巻き込まれてはたまらん。今回思い通りに動いてやったんだからむしろ感謝しやがれ!
……それにどうせ狭い社交界なんだからすぐ噂になるだろ。
ーールーフ・パフィオペディラムとシャリテ・サフィニアの婚約が解消され、新たにルーフ・パフィオペディラムとフェリキタス・ローダンセが婚約した、という話は。
樽野郎の屋敷から出るなり、クラルテが大声で駆け寄ってきた。その顔には涙で濡れており、目も充血している。どんだけ泣いたのさ。
その後を追うようにアウル、ルーフ、シャリテ、プレア、イデアルもやってきて一斉に俺を取り囲んだ。よく見るとなんかみんな目が潤んでいるし、イデアルなんか大粒の涙をぼろぼろ溢している。え、そんなに泣くっ!?
「アクナイト公子、無事で何よりだ」
「あの程度でどうにかなる私ではありません」
「それでも皆が君を案じていた。もちろん俺もだ」
それに同意するように他の面々も次々に頷く。樽野郎にとっ捕まってから大して時間経っていないと思うけど、この様子を見ると心配をしていたというのはどうやら本当らしい。まさかシュヴァリエ・アクナイトが同窓から心配される日が来るとは思わなかったな。
「本当にお怪我とかされてませんか!?」
「君に心配されるほどのことは起こっていない」
「ですがコランバイン伯爵は以前からあまり良い噂がありませんでした。王族の皆様方も目をつけていらしたということですし、本当に何もされていないのですわね?」
「先ほどからそう言っている。……それよりもローダンセ公子はどこだ?」
「公子でしたら早々に騎士様に保護され今後カンパニュラ伯爵邸にて療養されることになりました」
オドオドしながらイデアルが報告してくる。ゲームの展開通りだな。それが聞ければあとは正直どうでもいい。
「それならこれ以上私たちが関わる理由はない。センダンへ戻ろう」
「ですが……」
「心配するのは勝手だが私たちに一体何ができる? もうすぐ王室からも人が派遣されてくるだろう。私たちははっきり言って邪魔でしかない。素人が玄人の仕事に割って入っても不要な仕事が増えるだけだ」
自分たちが力不足なのは自覚しているのかクラルテが俯く。ここにリヒトがいたら真っ先に噛みついてきそうだと思いながらまた口を開いた。
「わかったのならセンダンに戻って……」
学外ワークの続きをしようと言い終わる前に馬の鳴き声といっそけたたましいと思うほどの音を立てながら一台の馬車がコランバイン邸の正門に停まり、やや乱暴に扉が開かれる。中から出てきたのはーー
「お兄様っ!!!」
我らがアクナイトの女王様ルアルだった。貴族令嬢が大声を出すのは如何なものかと思ったのも束の間。ものすごい形相でこちらへやってくるなり。
「一体何を考えておりますのこの馬鹿兄っ!」
思い切り罵られた。
……妹よ、人前で馬鹿兄呼びは酷くないかね? 思わずジト目で睨むがルアルはあっさり無視、どころかますます美麗な眉を吊り上げた。
「なんですのあの手紙は! 妹に初めて送る内容がアレだなんて、何をどうしたらこんなことになるんですっ!? アレを見たときの私の気持ちが分かりまして? あまりの内容にお父様やシエルお兄様にも手紙を送ってしまいましたわ!」
げ、まじかこの妹。公爵はわかる。だけどシエルにまで送るなんて。もっともシエルとは全くと言っていいほど接点ないし、ゲームでも名前だけでモブにすらカウントされないような人物だったから俺もどんな性格なのかは知らない。だからルアルの手紙を読んでどんな行動をとるかさ~っぱり検討つかんのよね。……まあエヴェイユの一番の親友っていう時点である程度察せられそうだけど。ほら類は友を呼ぶって言うし?
「兄上と交流がないのは知っているだろう。なぜわざわざ送った?」
「はい? 何を寝ぼけたことを言っていますの? 家族なのですから当然ではありませんか。近々シエルお兄様から何かしら連絡があるはずですわ」
「……なぜ兄上にも?」
「何を言っていますの? シエルお兄様はアクナイトの後継者ですわよ? それ以前に家族なのですから身内の危機を知らせて当然でしょう!」
当たり前のことを言わせるなとばかりの視線を寄越され思わず半目になった。ええ、ええ確かに家族でしょうよ。ただ……シュヴァリエはびっくりするほどその家族と交流を持っていないから正直ルアルのこともシエルのことも知らないの一言なんだよな。家族なのに趣味とか好物とか普段どんな風に過ごしているかなど多分、というか絶対にお互い知らない。そんな油も凍りそうな関係しか築いていない存在だ。しかもシエルは現在絶賛留学中。交流など皆無である。
その相手にいきなりシュヴァリエにこんなことがあったと言う報告をしたところでどんな反応が返ってくるのやら。自分がどう思われているか全くの未知数で行動も読めない。ゲームではシエルもルアルも名前しか出てこないモブ以下だったし。
「聞いていますの? 心ここに在らずとは妹である私を前にいい度胸ですわ! ようやくお話できるようになったんですもの。遠慮はしませんわよ?」
……なんかルアルが不穏なことを言い出した。一体どうした?
内心困惑する俺など知ったことかとばかりに俺を取り囲んでいた面々に向き直ると綺麗に礼をとり、
「皆様申し訳ありませんが、我が兄を少々借りていきますがよろしいでしょうか?」
有無を言わさぬお上品なお言葉に皆は揃って頷く。
「センダンの町にお戻りになるのでしたらその前に一息入れてはいかがでしょう? 道中宿もありますしここしばらくは落ち着くことはできなかったでしょうから」
「……そうさせてもらおう。それにまだ学外ワークの期間は余っているから不測の事態があったとはいえきっちりこなすべきだ。だが騎士たちの事情聴取もある。今日はこの町の宿に泊まろう」
それで構わないだろうか? とアウルに目で問われれば皆否やはないようで、賛同の意を示す。もちろん俺もだ。……が、妹の対話はちょーっと考えもの。
「ルアルも期間が残ってるはずだ。戻れ」
「それならばグループの皆に了承はとっていますし、連絡もなんら問題ありません。むしろ皆様がこぞって送り出してくださいましたのよ」
皆の気遣いを無駄にするわけにはいきませんから、というルアルの笑みのなんと麗しいことだろうか。……その背が紅蓮の焔に包まれていなければ。
……。
……俺、無事に生還できるんだろうか。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
あれから。
特に何事もなく学外ワークを終えた。あのあとルアルに自分がどれだけ心配したか、シエルがシュヴァリエをどう思っているのかを懇々と語られ、その後今度はアウルたちが口々に文句と心配とお叱りの言葉をもらった俺は正直学外ワークどころではなかった。ルアルに俺が無茶をしないようしっかり監視をするよう頼まれたらしく、いつどこに行くにも誰かしらがそばにいたのである。常に人がいるというのも非常に疲れると嬉しくない知識を得てようやく学園へと戻ってきた。
それから数日して俺たちはエヴェイユから話があると言われ、奴の執務室へと向かった。
「お久しぶりですシュヴァリエ公子」
「エヴェイユ第二王子殿下にご挨拶申し上げます」
「堅苦しくしなくて結構ですよ。どうぞおかけください」
言われるままに着席すると早速エヴェイユが話を切り出した。
「この度はローダンセ伯爵親子を救ってくれたこと、王家の者として心からお礼を言わせてください」
「そのようなお言葉を言われるようなことはしていませんのでお気遣いなく」
「まあまあそう言わずに。王国の膿も出せましたし、王家としてはこの上なくありがたいことなのですよ」
「そうですか。それでコランバイン伯爵にはどのような沙汰が下ったのです?」
「領地と財産を没収した上で、十年間の強制労働の後に国外追放となりました」
「それはまた……」
なんだろう……ゲーム通りなのにその程度では足りないと思ってしまっている。被害者になりかけたからか?
「何か言いたそうですねシュヴァリエ公子?」
「いえまさか。王家が決めたのでしたら私に否やはありませんよ」
「そうですか? 私はてっきりもう少し重い罰でもいいと思っているのかと」
「此度の件は陛下が直々に沙汰を下されたのでしょう?」
「ええ、事が事ですからね」
「であれば心配も指摘も不要です」
「なるほど……シュヴァリエ公子は父上を信頼してくださっているんですね。嬉しい限りですよ」
「……ローダンセ伯爵家はどうなるのですか?」
「彼らは現在カンパニュラ伯爵家にて療養されています。コランバイン伯爵が強奪したローダンセ伯爵家の財産を返還し、売られてしまったものは買い戻している最中です。もっとも民のためにお金に換えたものもあるようです。そちらに関しては買い戻しは不要とローダンセ伯爵から言われてしまいましたが」
「『民のために売った』?」
思わずと言った感じでイデアルが口に出し直後に慌てて口を閉じた。ああやっぱりね。
「ローダンセの屋敷に不自然なほど物がなかったのはローダンセ公子が民のためにお金に換えていたのですよ。あらかじめ屋敷にあったという隠し部屋に保管。定期的に外部へと流し換金して民に分け与えていたようです。……そうでしたよねパフィオペディラム公子?」
えっ!? という声と共に知らなかった面々はルーフへと視線を向けた。これもゲームの内容であった事だ。なんてことはない。ルーフはフェリキタスの協力者だったというだけである。だったらなぜ家の力を使って助けなかったのかという話だが、証拠がない上に下手に動けば夫妻の命が失われてしまうからである。そこは貴族だろと思わないでもないが、いかんせん向こうにはあいつがいた。結果として下手に動かないことは正解だったのである。
「……殿下は咎めないのですか?」
「なにをですか? 貴方は民のために尽くしただけでしょう。咎める理由などありませんよ」
「しかし……!」
「真面目な人ですね。けれど本当に不要ですよ? 父上も気にしていませんし」
寛大な国王だな。いかなる理由であれ、長年ローダンセ伯爵一家のことを知っていたのにも関わらず黙っていたルーフを見逃すとは。
「むしろ貴方はこれからが大変なのですから、対面的にはそれが罰になるでしょう。もっとも貴方にとってはご褒美になってしまうかもしれませんが?」
「……! 殿下それはっ……!」
「成就、おめでとうございます」
意味がわからず首を傾げる面々を横目に俺は内心頭を抱えた。絶っ対に楽しんでやがるわこのエセ紳士!
「エヴェイユ殿下お戯れがすぎます。何もこの場で遊ぶ必要はないかと。せめて私の前でやらないでいただけますか?」
「おや……シュヴァリエ公子はお気づきだったんですね。せっかくですし応援して差し上げては?」
「ご用がお済みでしたら失礼します」
そう言うなり俺はやや乱暴に執務室を出た。無礼とかそんなものは知らない。これ以上あいつの遊戯に巻き込まれてはたまらん。今回思い通りに動いてやったんだからむしろ感謝しやがれ!
……それにどうせ狭い社交界なんだからすぐ噂になるだろ。
ーールーフ・パフィオペディラムとシャリテ・サフィニアの婚約が解消され、新たにルーフ・パフィオペディラムとフェリキタス・ローダンセが婚約した、という話は。
742
あなたにおすすめの小説
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
拗らせ問題児は癒しの君を独占したい
結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。
一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。
補習課題のペアとして出会った二人。
セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。
身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。
期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。
これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる