悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

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四頁 カンパニュラの恩恵

50話 祠の考察と突然の異変

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更新が遅れてすみません!

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「なぜこの村にいる?」
「なんです? 私たちがいたらあなたになにか不都合なことでも?」
「そんなものはないが殿下至上主義の子犬が主の元を離れて大丈夫かと心配になっただけだ」
「お気遣いいただきありがとうございます。シュヴァリエ様にもそのような思いやりがあったとは知りませんでしたけど」
「思いやりでいうのなら君には勝てないだろう。平民に付き合ってわざわざここまでやってくるのだから。殿下の側近殿も思いのほか自由で羨ましい」
「シュヴァリエ様にはそのように映っているんですね。世の中には不思議な感性を持つ者もいるのだと、よい学びが得られましたよ」

 エヴェイユの命令でホープレイズ村へとやってきた俺はなぜか前倒しでやってきたクラルテとそのお供としてやってきたリヒトと舌戦を繰り広げていた。ほんと顔を合わせれば喧嘩しかしないな俺たち。
 ……で、完全に放置されてしまったクラルテとアウルは、揃って頭を抱えていた。

「アウル……どうしてあの二人は喧嘩ばかりなんだろう」
「……殿下とアクナイト公子とリヒトは昔いざこざがあったという話はうっすら聞いたけれど、その内容までは知らないんだ」
「つまり過去に起こったことのせいでずっと揉めているってこと?」
「そうなる。まああの二人に関して言えば単純に馬が合わないということもあるんだろうが」
「ああ……なんか、わかる。……あれ、止めなくていいの?」
「……はあ」
 
 エヴェイユの友人であるアウルはリヒトとも交流をすることが多いためその性格もシュヴァリエへの感情もよく知っているつもりだったが、二人のやり取りを実際に見ると何とも言えない気分になる。とりあえずこれ以上付き合えないという思いと、仮にも眷属を祀る祠の前で言い合いをするという罰当たりな行いをしている二人の公子を止めるべくアウルが一歩踏み出したとき。

「……いったい何をしているんだ?」

 救世主が現れた。ついさっき村長とともにクラージュのもとへ報告に行ったクオーレが戻ってきたのである。

「いいところに帰ってきた。悪いがあの二人を止めるのに手を貸してくれ」

 あの二人と言われてアウルの視線を追ったクオーレは深いため息をついた。

「なぜこの二人は毎度こうなんだ」
「それだけ確執が深いということだろう」
「まったく……」

 そんなやり取りなど知らんとばかりにリヒトと貶し合っていたところに割り込んでくる影が二つ。

「そこまでだ」
「二人とも場所を考えろ」

 俺の前にはアウルが、リヒトの前にはクオーレがそれぞれ向かい合うように立ちはだかった。……随分と夢中になってしまっていたらしく俺とリヒトはそろって気まずくなり明後日のほうへと視線を向ける。

「お互いに思うところはあるだろうが今は争っている時ではないだろ」
「アクナイト公子は殿下の命を受けてここにいるんだ。そのことを忘れてはいけない」

 身分が上の者に対しても臆することなく諫める。なるほど王族の友人に選ばれるだけはある。画面上で見るのと実際に言葉を交わすのとでは相手への理解度が全く違うな。

「申し訳ありません」
「……言われずともわかっていますよ」

 素直にごめんなさいが言えない……。シュヴァリエを演じるのってかなり心に来るな……。だいぶ崩壊している気がしないでもないけど。シュヴァリエだったら間違ってもこんな面倒事に首突っ込んだりしないし。あ~あ、俺の平穏はやってくるのだろうか。

「……それでカンパニュラ第二公子。参拝者は?」
「兄上に了承をいただいた」
「どうする? 俺たちも向かうか?」
「わざわざ大勢で聞き出す必要はありません。聴取は任せて私たちは不審な点がないか村を見て回るほうがよいかと」
「それはカンパニュラの騎士がやってくれるでしょう。私たちのような素人が余計な手出しはしないほうが無難だと思いますが? それともシュヴァリエ様には何かあるという確信でもあるのですか?」
「その前に私は何故いるのかという問いの答えを聞いていない」
「そっ……!」
「ああ、えっと僕が行きたいと殿下に頼んだんです!」

 さっきの二の舞になると思ったのかクラルテが即座に会話に入ってくる。確かにリヒトに説明させるよりクラルテに言わせたほうが効率的だな。リヒトに言わせたらまた嫌味合戦だ。
 クラルテ曰く、十日くらい前から不思議な夢を見るようになったという。巨大な蜘蛛がすすり泣く声とともに助けてという訴えから始まるその夢は最初は気にしなかったもののだんだんと鮮明になっていき、最後は必ず血と瘴気が溢れて悲惨な状態になるとのこと。夢が鮮明になるにつれ起きている間も助けてという声がずっと聞こえている。ここまでくると気にせずにいることはできず、エヴェイユに夢の詳細を話したところ夢に出てきた蜘蛛の特徴からフェイバースパイダーだと断定。クラルテの必死の説得を聞き入れリヒト共々ホープレイズ村に送り込まれた、とのことだった。ゲーム通りの理由で安心しました。
 
「なるほど……話を聞く限りただの夢と決めつけるには奇妙な点が多すぎるな」
「……」

 言いようのない何かを感じているのか眉間に筋を浮かべたクオーレたちだが、ふと何かを思い立ったようにアウルは俺に視線を向けた。

「……アクナイト公子は何か気になることがあったはず。クラルテの夢は何か関係していると思うか?」

 あ~……まあそうくるよね。もともとその話をしていたんだし。やっと原点に戻ってきました。アウルの言葉を受けてその場にいた全員の視線が俺に集中する。……一斉に大量の目がこっち向くのって結構怖いな。

「オルニス公子にはお話ししましたが推察にも満たない予想ですが」
「話してほしい」
「その前に……そこの平民、ここに立ってみろ」
「え、あ、はいっ!」
「シュヴァリエ様きちんと名前を呼んでいただけますか?」

 リヒトがかみついてきたけど今はそれどころではない。第一俺がいきなりクラルテなんて呼んだら不自然極まりないだろうが。
 クラルテは俺の言うとおりに祠の前に立つ。

「うっ……!?」
「クラルテっ!?」

 祠の前に立つや否やよろめき慌ててリヒトが支える。

「どうしたの?」
「ご、ごめんリヒト。なんか……」
「なんかよくわからないけど気持ち悪い、そうだな?」
「は、はい……」

 クラルテを支えながらリヒトは俺に視線を向ける。

「……どういうことです?」
「ちょっとした検証だ。私もこの祠の前に立った時言いようのない気持ち悪さに襲われた。今でもそれは継続中だ。だがオルニス公子とカンパニュラ第二公子はなにも感じないと言っている。君は何か感じているか?」
「いいえなにも」
「だがその平民は気持ち悪さを感じている」
「何か法則性でもあるのか?」
「私と同じような感覚を覚えた者がいないかこれから聴取が行われるからその結果次第だが大方の予想はついている」
「どんな法則性があると?」
「魔法の属性だ」

 そう、ゲーム内で言われていた理由は魔法属性。この謎を解明しているとき側にシュヴァリエはいなかったけど、俺はここにいて自分も実体験で感じている。一見俺とクラルテに共通点はないと思われるが、ひとつだけある。

「オルニス公子カンパニュラ第二公子そしてクレマチス公子にはなく私と平民が持っている属性ーー無属性を持つ者だけが祠の違和感を感知できるのではないかと」

 俺の発言にその場にいた全員が息をのんだ。

「なぜクラルテが無属性を持っていると?」
「この状況から推察したまで。無属性を持っているだけで誓約があるのだから問題ないだろう」
「……そうですね。それではなぜ無属性の者だけが違和感を感じるんです?」
「その質問に答えるには情報が足りない。一度この村全体を見てみる必要がある」

 ゲームでこの後どうなるのか知っているとはいえ、全部が全部同じではないことはすでに経験済みだし、そもそも事態が早く動きすぎている以上、呑気にしていられない。

「ふむ……わかった。ひとまず他の監視要員にも指示を出して村を見て回り、夜に情報共有をしたいと思う。兄上には話を通しておく。皆はどうする?」
「私はもう少し祠の周囲を見て回る」
「では俺もアクナイト公子とともに。この祠、やはりなにかありそうだ」
「……なら私はクラルテとともに夢の内容を詳しく精査し、村長殿からもこの村の情報を集めておきます。クラルテもそれでいい?」
「……」
「? クラルテ? どうしたの?」

 リヒトの呼びかけに返答のないクラルテを不審に思ったリヒトが腕の中にいるクラルテに声をかける。しかしクラルテはリヒトの腕の中で微動だにしない。

「クラルテ?」

 クオーレとアウルもクラルテへと声をかけるがやはり返答がない。どうしたんだこいつ。祠の前に立ってふらつくまでは想定内だけど、リヒトの呼びかけにも応じないなんて……ん? …………まずいっ!!!

「シュヴァリエ様いきなり何を!?」
「黙れっ!」

 吞気に説明している場合じゃない。なんでももっと早く思い出さなかったんだちくしょう!
 俺はうずくまるクラルテの腕を掴んで強引にひっぱり祠の前から離す。と当時に祠から不気味な煙が沸き上がり一直線にクラルテへと向かってきた。

「ちっ!」

 咄嗟にクラルテを後ろへ引っ張った俺は煙をもろに食らう。
 あ、やべ。
 そう思ったときにはすでに遅く周囲の声が聞こえなくなっていたーー
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