悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

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五頁 孤立したホオズキ

61話 試験前の嵐

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 ……やっとフェイバースパイダーの件が片付いて無事に(?)フェイバースパイダーの糸を手に入れた俺は、早速押し花を利用した小物作りを始め……る間もなく憂鬱すぎるイベントに直面していた。
 もうすぐ学園は長期休暇に入るが、その前に必ず訪れる悲劇——定期試験だ。
 あああっ! 面倒ごとから解放されたと思ったのに、なんでよりにもよってテストなんか来るんだよ! 一応公休になっていた時の授業は要点をまとめたプリントを各教師からもらったけどさ! もうちょっと自由という名のご褒美があってもよくない!? 

「ちっ……!」
 
 怒りに任せて俺は寮の自室の机を拳で叩く。
 今俺は自室で絶賛勉強中であった。この学園筆記だけじゃなくて実技の試験もあるから試験日程は筆記が一日三教科または四教科、実技が一教科を合わせて七日間かけて行われる。ぶっちゃけ筆記も実技も自信がない。全くどうしてシュヴァリエの周囲はこうも騒々しいんだろう。あ~あ、もうバックレたい。

「……そういえばゲームの情報も整理しなきゃじゃん。でも四章はたしか長期休暇の間に起こるはずだからまだ時間はあるはず、なんだよな……?」

 ゲーム内には試験のこともあった。たしか国文の試験問題で出てきたある物語に酷似した事件が起こるのが四章だったはず。しかもかなりシリアスな内容だった気が…………。いややめておこう。俺はもう関わらない絶対に関わらない。それよりも俺は筆記試験をどう乗り切るかのほうが重要だ。

「……図書館で参考書でも借りてくるかな」

 この学園内には無駄にでっかい図書館がある。児童書からコアな専門書、戯曲や小説なんでも揃っていて学園内で唯一外部の人間の立ち入りも許されている場所だ。もちろん許可を取る必要はあるけれど。この学園の図書館は少し特殊で個室がついている。あの辺りの窓から見える景色も綺麗で静かだからシュヴァリエもよく利用していた。授業のない休日は一日中籠っていることもあったほどに。

「図書館とか久しぶりだし行ってみるか」

 勉強のために行くと思うと憂鬱すぎるけど、花に関するものが何かしら見つけられるかもと考えればそこまで苦じゃないし。
 

      ♦♦♦♦♦♦♦


 ……なんて呑気なことにはならないもので。やーっぱみんな考えることは同じだよなぁ。図書館は試験勉強をしている学生で溢れていた。何冊か本を借りて自室に戻るか。シュヴァリエに話しかけてくる奇特な奴らは一部例外を除いていないだろうけど、余計なトラブルは避けたい。
 とりあえず目当ての本を探さないとな。
 ゲームの公式資料には今回の定期考査で出題された問題とどこから出題したのかが書かれていた。その中のいくつかはこの図書館内にある本から出ていたし、その題名も載っていた。何冊かは覚えているからなんとか見つけたいところ。他の人に借りられていないことを祈ろう……。

「アクナイト公子」

 ……なんで俺たちはこう何度も遭遇するんだろうねア・ウ・ルさ~ん?
 俺の背後から声をかけてきたアウルは本を三冊ほど抱えながら近づいてくる。

「わざわざ声をかけて頂く必要はありませんが?」
「いい加減心を開いてくれてもいいだろう。あんなことがあった後なんだから」

 ……あんなことがあった後だから嫌なんですが!? 全然わかってねえなこいつ! それとも何か? わかっていてわざと言っているパターンか!? アウルお前……いつからそんな腹黒キャラになったの!? 腹黒はエヴェイユの担当でしょ! キャラ被りはよくないぞ!

「そんな目で見ないでくれ。別に揶揄っていたわけではない。君と会話をするようになって期間は短いけど接する機会は何かと多かったからちょっと思っただけだ」
「……そんなことよりもなぜ声をかけたのかそろそろ説明してもらっても?」

 アウルから放たれたちょっとよろしくないお言葉をスルーして俺は強引に話を逸らした。

「一緒に勉強しようと思ってな」
「……はあ?」

 なぜそんな発想になったんだこの男。思わずジト目になった俺はきっと悪くない。

「クラルテが編入して来る直前と今回でだいぶ遅れている自覚あるか? 他の科目はともかく算術と魔術基礎はかなり苦戦すると思うぞ」
「…………。大きなお世話ですよ」

 正論です図星です何も言い返せません。実際その科目は現在進行形で苦戦しているし。そもそも俺は理系科目全般苦手なんだよ。
 思わず黙ってしまった俺にアウルは苦笑しながら一冊のノートを差し出してきた。

「授業のところ教えてやる」

 すっごい爽やかな笑顔を向けられた。……イケメン滅びろ。
 しかしアウルの提案はこれ以上ないくらい魅力的なのも事実。……正直関わりたくなかったけど背に腹は代えられない。

「不本意ですが、お願いします」
「ああ。アクナイト公子は何か探しているのか?」
「そうでなかったらこんなところに来ませんよ」
「それもそうか。だがこの人の数だ。急いだほうがいい。どんな本が欲しいんだ?」
「それは——」

「……!」
「~~~!!! ……!」

 ……なんか騒がしいな。誰だ図書館で騒ぐ大馬鹿者は。図書館内で人だかりができているじゃないか。初めて見たよこんな光景。なら今のうちに例の本を探そうっと。

「いい加減にしろよ! 何度も何度も他の生徒の邪魔ばかりして!」
「そうですわ。前回の試験範囲だって貴方が嘘を教えたせいで散々でしたのよ? これ以上私たちに関わらないでくださいまし」
「お~怖い怖い」

 目当ての本棚へ向かう途中、生徒たちの合間からチラッと見えたのは詰め寄る二人の男女とヘラヘラ笑う一人の男子。なんかすげえ面倒なじゃん。しかも会話の内容的に詰め寄られている男のほうに非があるっぽい。……うん、くわばらくわばら。さぁて目的の本棚は……あの人混みの向こうかよ!

「なにか揉めているようだが、どうする?」
「どうする、とは?」
「君の探している本だ。あの向こうじゃないのか? ずっとあちらを見ているだろう」
「随分と観察がお好きなんですね。別に私たちには関係のないことですし無視して進めばいいでしょう」

 わざわざ人混みという障害物を避けなければいけないのは面倒だけど、無駄な争いはするもんじゃないし、あと単純に関わるのがいや。

「それにしてもこんなところで揉めなくてもいいだろうに」
「堪え性のない方々なのでは?」
「本当に君は容赦がないな」
「ところ構わず騒ぐ輩など気にかけるだけ時間の無駄です」
「本当に手厳しい。……ところで君が欲しい本はなんて題名なんだ?」
「『少年と嘘』『魔法と魔術の歴史』『荒野の丘で』あとは参考書を何冊か、ですね」
「『少年と嘘』『荒野の丘で』は読んだことがある。なかなか面白かったぞ」
「そうですか」
「本はよく読むのか?」
「さあ、気分次第ですね」

 騒ぎを見ていた野次馬を避けながら目的の本棚へ向かっていると運悪くあの妙にヘラヘラしている男と目が合ってしまった。すぐさま視線を逸らし、まっすぐ本棚に目を向ける。……? あれ、あの男……どこかで見たことある気がするんだけど、どこだっけ。
 つい首を捻ったとき。

「あ、そこの白髪の人~!」

 と俺を指さしながら大声を上げた。
 …………いや、はああああっ!??? いくら何でもあり得ないだろう。何やってんだあの男は!

「……一応聞くが知り合いか?」

 訝し気に目を細めて俺に尋ねてくるけど、冗談じゃない!

「そんなわけないでしょう」
「まあそうだよな」

 呆れながら俺を呼び止めた男に視線を向けた。俺もアウルの視線を追い笑顔で手を振る男を映す。しかしあの男、俺が誰か知らないのか? 周囲も男が声をかけた相手が俺だと気づくや否や青ざめながら徐々に問題の三人から距離を取り始めた。男に詰め寄っていた男女も気まずげに視線を逸らし男から離れる。
 え~何この空気。明らかに俺がどうにかなきゃいけない流れじゃんこれ。……………………仕方ない。

「君は誰だ? 私が誰かわかっていての振舞だとしたら大したものだが」
 
 あえて不機嫌全開の低い声で言ったらこの辺り一帯の温度が下がった気がした。シュヴァリエの冷酷ボイスはこういう時に役に立つ。しかしそんな周囲の空気に気付いているのかいないのか、男は飄々としながら子首を傾げた。やっぱこいつどこかで見たことある。

「俺ですか~? 俺の名前なんてみ~んな知っていると思うんですけど? だって俺有~名~人ですから」
「君のような下劣な輩の名など覚える価値もない」

「え~ひっど~」

 何がおかしいのかヘラヘラと嗤う男に俺は妙な既視感を覚えた。コランバインの樽野郎とやり合ったときに出会ったあの男に飄々とした感じは似ている。けどあいつのような剣呑さはない。つまり——ただのふざけたクソ野郎ってか。…………ん? ふざけた、嘘つき、男…………ああ! 思い出した! 

「俺はヌカヅキって言います~よろしく!」
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