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六頁 サンビタリアに染まって
81話 デビュタント舞踏会へ向けて①
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サンビタリアでのパーティーを終えた二日後、この短期間でシュヴァリエ・アクナイトが遂に公の場に顔を出したとの情報が社交界全体に広がっていた。ほんとびっくりするくらい話の回りが早い。人間社会は怖いね。誰が誰に告白したって話が次の日の朝クラス中に広まっていてその日のうちに学校全体に知れ渡っている的なあれ。そして各学年どころかクラスに一人はいるスピーカー人間。当然貴族社会にもそういう奴はいるもので。今アクナイトと繋がりを持ちたい連中やパーティーで俺に惚れたらしい令嬢たちが挙って俺宛ての招待状を送ってきているとサリクスに教えられた。ほんと勘弁してほしい。そもそも近いうちに第四王子の誕生日パーティーがあるんだからそれまで我慢すればいいだろうに、どいつもこいつも気短すぎだろ。暇なんか。
「シュヴァリエ様大丈夫ですか?」
自室の机の上に山と積まれた招待状を一枚一枚開いてはゴミ箱に入れるを無心で繰り返していた俺にサリクスは苦笑しながら声をかけてきた。この招待状のせいで帰ってきてから押し花作りができていない。当然サンビタリアだけに出席して後は無視なんて真似はできないためどっかの誘いにはいかないといけないんだけどさ……派閥とか力関係とか身分なんかを考慮したうえで選ばないといけないっていうのが心底面倒くさい。
「はあ……なんで俺がこんな目に……」
「それはシュヴァリエ様が公爵子息だからです」
正論言われた。容赦ねえなサリクスさんよ。もうちょっとなんかあってもよくない? はあ~……かったるいな。かと言って俺に来たものを誰かに押し付けるわけにはいかないし……なんて憂鬱な夏休みだ。
「シュヴァリエ様の場合はこれまでがおかしかったんです。本来ならとっくの昔に社交界へ顔を出しているはずなんですから」
「そうなんだけどな……」
「それにご自分で仰ったんじゃないですか。アクナイトの姓を名乗らせている以上は相応に扱うべきだって」
「本当に今さらなんだけどな」
俺も考えていたことだし反論のしようがないんだけど。
なんて思っていたらノックが響いた。
「失礼いたしますシュヴァリエ様。サンビタリア侯爵令嬢セレーナ様がお見えになりました」
ああ、そういや今日だったな。
俺は椅子から立ち上がり玄関へ向かうとちょうどセレーナが玄関に入ってきたところだった。うん、だいぶ緊張しているらしい。
「ようこそアクナイト公爵家へ。どうぞよろしくお願い致しますわね」
「は、はい。ほ、本日はお招きくださり、あ、ありがとうございます」
「立ち話も面倒だ。中へどうぞ」
「もう、お兄様ったら。そっけなさすぎですわよ」
「ふん、話す機会などいくらでもあるというのになにをそんなに拘る必要があると?」
それだけ言うとルアルと新しく侍女頭になったエステティカ・カランコエへ目を向ける。
「それにお前たちがいれば私など不要だろう」
「それはそうですけど、お兄様にも手伝っていただくことだってありますわ。その時はちゃんとこき使われてくださいませ」
おい、兄に向かってこき使われろって言ったぞこの妹。シュヴァリエももうちょっと家族と交流を持つ勇気があったらあんな末路は辿らなかったのではないだろうか。多分その前に扇子で引っ叩いてでも引き戻してくれたかもしれないと思うとなんかやるせないな。
「ふん、兄をこき使う妹がどこにいる」
「目の前にいますわよ。というかこれはお兄様が発端なのですからちゃんと動いてもらいませんと」
「……はあ。必要になったら呼べ。エステティカ妹を頼んだぞ」
「お任せくださいシュヴァリエお坊ちゃま」
後のことはあの二人に任せておけば心配ないだろう。なんせ令嬢の模範と言われている妹とかつて社交界を制していた百戦錬磨の猛者である侍女が教育役なのだ。これ以上の存在はいないだろう。きっと最高の淑女に仕上がるに違いない。……俺にもやることがあるし。
さて、セレーナのことはあの二人に任せて支度をしますか。
部屋に戻るとすでにサリクスが準備を終わらせていた。こいつは本当に仕事ができる。
「シュヴァリエ様~! 準備終わっています。あとはシュヴァリエ様が着替えるだけです」
「ああ」
外出用の服に着替えてサリクスと一緒に馬車へ向かった。セレーナが屋敷に来たら俺とサリクスは買い物に行く手はずを整えていた。
「それにしてもよくあんなことを思いつきましたね」
「何の話だ」
「とぼけないでください。デビュタント舞踏会までセレーナ嬢をアクナイト公爵邸で面倒を見るってことですよ」
そう、俺が提案したのはパーティーを無事に迎えるまでアクナイトの屋敷で面倒を見るというもの。理由は簡単、あの三姉妹対策だ。あの三人はセレーナを忌み嫌っているからどんな妨害を受けるかわかったものじゃない。実際ゲームではありきたりな嫌がらせを受けていた。セレーナがちゃんと成功しないと俺の名誉にも傷がつく。だったら最初からあの性悪女たちの手が届かない我が家で匿ってしまえばいい。本来ならあり得ないことだが、実はあの三人、ゲーム内でセレーナのエスコート役に色仕掛けをして略奪するなんてことをやってのけたのだ。普通はありないんだけど、セレーナのパートナー候補になりそうな子息をあの手この手で篭絡して抱き込み、パートナーになった後で手酷く破棄するなんて算段を立て、ものの見事に成功させやがった。だが今回パートナーが俺になったことで筋書きが思い切り狂っている。もうこの時点でストーリーもなにもあったものじゃない。……あとから強制的に修正イベント発生したりして。
「サンビタリアの令嬢たちは信用ならないからな。彼女が失敗すれば俺の名誉に傷がつく」
「とか言って単純に令嬢が心配だっただけじゃないですか?」
「はあ? なんで俺があんな冴えない令嬢を心配するんだ。自分のためだ」
「……そういうことにしておきますよ」
とか言いながらにやにやしているサリクスに一発。アウルとルアルに続いてこいつまで本当に意味がわからない。人をからかってそんなにたのしいのか。
「ところで今日はどちらへ行くんですか?」
「キハダ地区」
♦♦♦♦♦♦♦
キハダ地区は数多の店が立ち並ぶツヴィトーク最大の商業地区だ。キハダ地区は三つの区域に分かれており、第一区は超高級店が軒並みを連ねる上流区域、第二地区は貴族平民だれでも利用できるお値段の中流区域、そして第三地区平民向けのお値段の品々が並ぶ下流区域である。……で俺は今第一区域にいるのだが、さすがは超高級店が並ぶ区域なだけはある。ようするに……店の外観もめちゃくちゃ豪華だということだ。初めて来たけどすごいな。貴族たちがうろうろしているし、いろいろな意味でキラキラしていてぶっちゃけ目が痛い。
「……サリクス」
「なんでしょうか」
「第二地区に行くぞ」
「え? ですがセレーナ嬢への贈り物を買いに来られたんですよね?」
「別にいいだろ。最後に買って帰るんだから」
「もう……まあいいですけどね。じゃあ第二地区に行きましょう」
俺の我が儘で第一地区から第二地区へ移動。せっかく来たんだからいろいろ見て回りたいし、DIYに使える良さげな掘り出し物があるかもしれないじゃん。
馬車置き場に馬車を預けたら散策開始。なんかこう言うの久しぶりだな。
「それにしてもシュヴァリエ様がショッピングなんて初めてじゃないですか?」
「ああ。これまでは学園以外で屋敷の外に出ることは禁止されていたからな、あの女の重荷がなくなって自由に外を出歩けるのがこんなに嬉しいとは。昔友だちとゲーセンだのイベントだのを行きまくっていたころが懐かしい」
「何のことですか?」
「こっちの話だ」
さて、何か面白いものはあるかな。……って、え? おい、なんかものすごく見覚えのある後ろ姿の奴らが三人いるんですけど。嘘でしょ、ここでエンカウントします? ……え、超嫌だ。うん、三十六計逃げるに如かず。
「サリクス、あっちへ行こう」
「え? あ、はい」
即座に踵を返してやや早歩きでその場を去ろうとした直後。
「あれ? アクナイトさん? こんなところでどうしたんですか?」
その無邪気な声はとっても聞いたことのあるもので、そっと後ろを振り返るとそこにいたのはお馴染みのメンバーアウル、リヒト、クラルテだった。……フラグ回収、乙。
「シュヴァリエ様大丈夫ですか?」
自室の机の上に山と積まれた招待状を一枚一枚開いてはゴミ箱に入れるを無心で繰り返していた俺にサリクスは苦笑しながら声をかけてきた。この招待状のせいで帰ってきてから押し花作りができていない。当然サンビタリアだけに出席して後は無視なんて真似はできないためどっかの誘いにはいかないといけないんだけどさ……派閥とか力関係とか身分なんかを考慮したうえで選ばないといけないっていうのが心底面倒くさい。
「はあ……なんで俺がこんな目に……」
「それはシュヴァリエ様が公爵子息だからです」
正論言われた。容赦ねえなサリクスさんよ。もうちょっとなんかあってもよくない? はあ~……かったるいな。かと言って俺に来たものを誰かに押し付けるわけにはいかないし……なんて憂鬱な夏休みだ。
「シュヴァリエ様の場合はこれまでがおかしかったんです。本来ならとっくの昔に社交界へ顔を出しているはずなんですから」
「そうなんだけどな……」
「それにご自分で仰ったんじゃないですか。アクナイトの姓を名乗らせている以上は相応に扱うべきだって」
「本当に今さらなんだけどな」
俺も考えていたことだし反論のしようがないんだけど。
なんて思っていたらノックが響いた。
「失礼いたしますシュヴァリエ様。サンビタリア侯爵令嬢セレーナ様がお見えになりました」
ああ、そういや今日だったな。
俺は椅子から立ち上がり玄関へ向かうとちょうどセレーナが玄関に入ってきたところだった。うん、だいぶ緊張しているらしい。
「ようこそアクナイト公爵家へ。どうぞよろしくお願い致しますわね」
「は、はい。ほ、本日はお招きくださり、あ、ありがとうございます」
「立ち話も面倒だ。中へどうぞ」
「もう、お兄様ったら。そっけなさすぎですわよ」
「ふん、話す機会などいくらでもあるというのになにをそんなに拘る必要があると?」
それだけ言うとルアルと新しく侍女頭になったエステティカ・カランコエへ目を向ける。
「それにお前たちがいれば私など不要だろう」
「それはそうですけど、お兄様にも手伝っていただくことだってありますわ。その時はちゃんとこき使われてくださいませ」
おい、兄に向かってこき使われろって言ったぞこの妹。シュヴァリエももうちょっと家族と交流を持つ勇気があったらあんな末路は辿らなかったのではないだろうか。多分その前に扇子で引っ叩いてでも引き戻してくれたかもしれないと思うとなんかやるせないな。
「ふん、兄をこき使う妹がどこにいる」
「目の前にいますわよ。というかこれはお兄様が発端なのですからちゃんと動いてもらいませんと」
「……はあ。必要になったら呼べ。エステティカ妹を頼んだぞ」
「お任せくださいシュヴァリエお坊ちゃま」
後のことはあの二人に任せておけば心配ないだろう。なんせ令嬢の模範と言われている妹とかつて社交界を制していた百戦錬磨の猛者である侍女が教育役なのだ。これ以上の存在はいないだろう。きっと最高の淑女に仕上がるに違いない。……俺にもやることがあるし。
さて、セレーナのことはあの二人に任せて支度をしますか。
部屋に戻るとすでにサリクスが準備を終わらせていた。こいつは本当に仕事ができる。
「シュヴァリエ様~! 準備終わっています。あとはシュヴァリエ様が着替えるだけです」
「ああ」
外出用の服に着替えてサリクスと一緒に馬車へ向かった。セレーナが屋敷に来たら俺とサリクスは買い物に行く手はずを整えていた。
「それにしてもよくあんなことを思いつきましたね」
「何の話だ」
「とぼけないでください。デビュタント舞踏会までセレーナ嬢をアクナイト公爵邸で面倒を見るってことですよ」
そう、俺が提案したのはパーティーを無事に迎えるまでアクナイトの屋敷で面倒を見るというもの。理由は簡単、あの三姉妹対策だ。あの三人はセレーナを忌み嫌っているからどんな妨害を受けるかわかったものじゃない。実際ゲームではありきたりな嫌がらせを受けていた。セレーナがちゃんと成功しないと俺の名誉にも傷がつく。だったら最初からあの性悪女たちの手が届かない我が家で匿ってしまえばいい。本来ならあり得ないことだが、実はあの三人、ゲーム内でセレーナのエスコート役に色仕掛けをして略奪するなんてことをやってのけたのだ。普通はありないんだけど、セレーナのパートナー候補になりそうな子息をあの手この手で篭絡して抱き込み、パートナーになった後で手酷く破棄するなんて算段を立て、ものの見事に成功させやがった。だが今回パートナーが俺になったことで筋書きが思い切り狂っている。もうこの時点でストーリーもなにもあったものじゃない。……あとから強制的に修正イベント発生したりして。
「サンビタリアの令嬢たちは信用ならないからな。彼女が失敗すれば俺の名誉に傷がつく」
「とか言って単純に令嬢が心配だっただけじゃないですか?」
「はあ? なんで俺があんな冴えない令嬢を心配するんだ。自分のためだ」
「……そういうことにしておきますよ」
とか言いながらにやにやしているサリクスに一発。アウルとルアルに続いてこいつまで本当に意味がわからない。人をからかってそんなにたのしいのか。
「ところで今日はどちらへ行くんですか?」
「キハダ地区」
♦♦♦♦♦♦♦
キハダ地区は数多の店が立ち並ぶツヴィトーク最大の商業地区だ。キハダ地区は三つの区域に分かれており、第一区は超高級店が軒並みを連ねる上流区域、第二地区は貴族平民だれでも利用できるお値段の中流区域、そして第三地区平民向けのお値段の品々が並ぶ下流区域である。……で俺は今第一区域にいるのだが、さすがは超高級店が並ぶ区域なだけはある。ようするに……店の外観もめちゃくちゃ豪華だということだ。初めて来たけどすごいな。貴族たちがうろうろしているし、いろいろな意味でキラキラしていてぶっちゃけ目が痛い。
「……サリクス」
「なんでしょうか」
「第二地区に行くぞ」
「え? ですがセレーナ嬢への贈り物を買いに来られたんですよね?」
「別にいいだろ。最後に買って帰るんだから」
「もう……まあいいですけどね。じゃあ第二地区に行きましょう」
俺の我が儘で第一地区から第二地区へ移動。せっかく来たんだからいろいろ見て回りたいし、DIYに使える良さげな掘り出し物があるかもしれないじゃん。
馬車置き場に馬車を預けたら散策開始。なんかこう言うの久しぶりだな。
「それにしてもシュヴァリエ様がショッピングなんて初めてじゃないですか?」
「ああ。これまでは学園以外で屋敷の外に出ることは禁止されていたからな、あの女の重荷がなくなって自由に外を出歩けるのがこんなに嬉しいとは。昔友だちとゲーセンだのイベントだのを行きまくっていたころが懐かしい」
「何のことですか?」
「こっちの話だ」
さて、何か面白いものはあるかな。……って、え? おい、なんかものすごく見覚えのある後ろ姿の奴らが三人いるんですけど。嘘でしょ、ここでエンカウントします? ……え、超嫌だ。うん、三十六計逃げるに如かず。
「サリクス、あっちへ行こう」
「え? あ、はい」
即座に踵を返してやや早歩きでその場を去ろうとした直後。
「あれ? アクナイトさん? こんなところでどうしたんですか?」
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