悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

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八頁 愛国のナスタチウム

109話 手掛かりは……

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※人体関連でさらっとグロ描写が入りますのでご注意ください。

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 全身黒づくめの格好をした集団に取り囲まれ剣やら杖やらを向けられている現状に俺はそっとため息をこぼした。シュヴァリエになって短期間の間によくまあここまでハードイベントが頻発するよな。普通はさもっとこう……間を空けるものじゃないの? ただでさえ馬車移動って疲れるのに余計なおまけを寄越すんじゃねえっての!

「殿下! どうしますか?」
「殲滅してください。ああ、できるだけ生け捕りにするように」

 捕縛して情報を吐き出させるってことね。これもゲーム通りで助かったけど……この後の展開はどうなるかな。もっともわざわざ覆面をしているということは顔すら知られるのが面倒だと言っているようなものだ。元々そういう連中かあるいは顔がすでに知れ渡っている連中かのどっちかだろうな。使い捨てならわざわざ覆面をする必要はないんだから。
 とにかく話は目の前の黒子たちをとっ捕まえてからだな。

「制圧ということは剣を抜いてもいいんですよね?」
「ええ、許可します」

 王族であるエヴェイユがいる以上近衛騎士でもない者が帯剣することはできないがマジックバックに入れて持ち歩くことは許可されている。全員が素早く剣を抜き持っていない者は魔法で対抗する。しかし相手も相当手練れのようでなかなか捕まらない。

「面倒だな」

 俺は懐から小瓶を取り出し数人で固まっている黒子に近づき中身をぶちまけた。途端にその場に倒れ込む刺客たち。突然一斉に倒れた仲間を見て一瞬動きを止めた刺客たちの隙を逃さず学生たちは制圧していく。……なるほどね。やけに武闘派な家柄の子息令嬢ばかりだと思っていたけどこういうことも想定されていたってことか。説明会の後に呼び出されて少しばかり話があったけど、まさかあの時からこうなることがわかっていたのか?
 刺客全員が地面に転がり起き上がる様子がなくなったことを確認して武器をしまう俺にアウルが近づいてきた。

「シュヴァリエあれは一体なんだ? 君のことだから何かを使ったんだろ?」
「あれはただの麻痺薬だ。何かあった時のために相手を無力化できる手段は多い方がいいからな。粉だと無関係な者にも被害が及びかねないから液体にした」

 外だとわずかなそよ風でも飛んでいくし室内でも人が動けば空気も動く。そんな状態で粉薬は使わない。周りが全員敵だって言うなら使っただろうが。

「……本当に用意がいいな」

 俺はゲームでこうなることを知っていたからな。そりゃ対処方法は用意しておくさ。それに俺は他の人と違って無属性だから魔法は使えない。

「シュヴァリエ様! 無駄話をしていないで捕縛に協力してください」
「わかっている。いちいち口を挟む」
「全員刺客から離れて伏せろ!」

 俺が言い終える前に突如アウルが切羽詰まった声で叫ぶ。直後、刺客の体が燃え上がり奴らは絶叫を上げた。肉の焦げる匂いがあたりに広がり、俺たちは鼻を覆う。そして奴らの体が完全に黒焦げになる頃。

 バアァンという破裂音と共に刺客たちの体が爆散しあちこちに人の体であったものと血液が飛び散った。その光景に何人かが堪らず嘔吐き地面に座り込む。俺もその場から距離をとった。吐くまではいかないが、これは無理だわ。

「……なんてことだ」
「酷いことをする」
「殿下、大丈夫ですか?」
「……ええ。問題はありませんが……」
「証拠隠滅されたな」

 さて、そいつはどうかな。
 俺は取り出したハンカチで口と鼻を覆い刺客たちがいた場所に近づく。

「シュヴァリエ! 離れろ!」

 そう言われて大人しく引き下がるわけないだろ。それに証拠隠滅と言ったが俺は奴らの体が燃え上がった一瞬、奴らの胸元に影ができたのを見たんだ。
 彼らの灰が残った場所を調べると黒焦げになってはいるものの明らかに宝飾品と思しき物があった。それはとても見覚えのある物で。見間違えるはずはない。ファルカタでヌカヅキを黒焦げにしかけた、あのネックレスだ。ただし今回の炎はヌカヅキの時の比ではない。もっと激しく燃える時間も極端に短かった。前回から改良したのかそれとも……。

「何か見つけたのか?」

 近づいてきたアウルに無言で見せるとそれが何かわかったらしく眉間に皺ができた。

「なるほどな」

 アウル自身もよく見覚えのあった忌々しいネックレスがここにある。つまりヌカヅキを使って俺を殺そうと目論んだ連中の仕業というわけだ。

「それはなんですか?」

 俺たちの様子が気になったのかエヴェイユとリヒトも近づいてきた。クラルテも来るかと思ったが彼は地面にうずくまってしまった人たちの背中をさすって回っていた。ちょうどいい。この話はクラルテが聞く必要はないし聞かないほうがいいだろう。

「……ファルカタで起きた事件の報告を憶えていますか?」
「ええ。それがなにか?」
「その報告で上げた装飾品をこの者たちが身に着けていました」
 
 そう言うとエヴェイユとリヒトの顔色が変わる。

「そういうことですか。ですが前回と違って形は残っているんですね」
「そのようです。このような危険物を持って他国に行くことはできませんし即達(※誤字にあらず)を使って魔塔主のところへ送りましょう」
「それがいいでしょうね。シュヴァリエ公子頼めますか?」
「はい」

 そうして俺は魔塔主の元に送ろうとして手を止める。

「シュヴァリエ?」
「……いや、これを魔塔主の元へ送った直後に爆発、ということにはならないよな?」

 俺の発言に皆が息を飲んだ。黒焦げではあるが形に崩れや欠けは一切見当たらない。本当に証拠隠滅をするなら前回のように塵にしているはずだ。だけど不自然すぎるほど綺麗に形を保っているとなれば何かしら別の意図があると考えたほうがいい。

「……ならばどうするつもりですか?」

 ……俺はしばらく考えた後マジックバックから小さな麻袋を取り出す。ていうか最初からこれを取り出していればよかったな。

「それは……」
「魔術の組み込まれた袋です。内側に魔法無効の陣が組み込まれています。できればここで取り出したくはなかったのですが……」
「よくそんなものを持っていましたね」
「ファルカタでの出来事以降持ち歩くようにしていました」
「なるほど……」

 それ以上は聞いてこなかったエヴェイユだが……なんだろうこの得体のしれない感じは。な~んか思いついたりしたわけじゃないですよね? 
 俺はそんなエヴェイユから視線を外しネックレスを袋にしまって立ち上がった。

「それでこの場はどうするおつもりですか?」
「……そうですね。このままにはしておけませんから土属性と火属性を持っている者たちで埋葬をお願いします」

 まあそうなるよね。いくら襲撃者とはいえ死者となった以上は埋葬し弔いを捧げる。どのような罪人であろうとも罪を犯したのは生者であり死者に罪はない。死は神よりすべての命へ与えられた唯一の平等であり生前の本人の同意なく死者の尊厳を傷つけることはツヴィトークでは重罪だ。死者冒涜罪。こういう世界でこの法律があるのはかなり珍しいんじゃないだろうか。それにこの国では土葬が禁じられており土葬もまた死者冒涜罪に該当するのだ。だから土葬文化を持つ国とは一切交流を持っていないしその国の人間の入国も赦していない。現代日本だと差別だなんだという声があがるかもしれないがむしろこれは相手に配慮した法律だと俺は思っている。だって火葬を死者への冒涜だと思っている人たちにとっては苦痛だろ? だからと言って我が国の法律を変えろ、土葬を認めろなんて余所者に言われるのもご免だ。郷に入っては郷に従え、できないのなら来るな。ただそれだけなんだから。変えろだなんだと言われたってじゃあ自国にお帰りくださいで終了だ。それで差別だって騒いでいる連中はただ自分の我儘を通したいだけ。そんなお子様以下の感性の持ち主なんて相手にする価値はない。
 なんて思考を飛ばしているうちに埋葬が終了する。

『生を終えし御魂に安息をお祈りいたします。どうか汝の背負いし業が汝を満たしし喜びと共に神の祝福を賜り再びこの御世の地にて芽吹かんことを』

 弔いの詞を終えて俺たちは再び馬車に乗り込んだ。ちなみにさっきの言葉はゲーム内でも出てきたもの。言葉が詞なのはシナリオライターさんの趣味らしい……楽しそうで何よりですよ。

「それにしてもアーダに向かう道中でこんなことが起こるなんて……なにか嫌な感じがする」

 さっきよりもどんよりと重くなった馬車の中でクラルテが震えながらそう呟いた。クラルテの顔色は大分悪く先ほどの光景がよほど衝撃的だったらしい。むしろけろっとしている他三名がおかしいのか。つーかリヒトよ。お前も平気そうなのはなんでよ。

「そうだな。俺もどうにも胸騒ぎがする」
「私もです。何も起こらなければいいのですが……」

 クラルテの言葉を聞いたアウルとエヴェイユも同調した。俺はそっと窓の外に目を向ける。向こうの景色は今後を暗示するかのようにどんよりとした雲に覆われていた。

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