悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

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八頁 愛国のナスタチウム

111話 休む間もなく事件事件(怒)

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 説明会が終わりそのまま会場を移して交流会が始まった。各々自己紹介を終えて食事をとりながらの談笑タイム。こうして話してみると本当に皆さんお上品で静かだ。正直話しかけるなオーラを全開にして会話を回避したいがそうはいかない。部屋に入る前にエヴェイユから「公爵子息なんだからさぼるなよ楽しみましょうね」と言われてしまいましたからねえぇ! 部屋に帰ってさっさと寝たいよぉ……。

「アクナイト公子、お隣よろしいでしょうか?」

 内心で悲鳴を上げていると一人の男子が声をかけてきた。こいつ伯爵家の次男だって言っていたっけ? 名前は確か……

「イグニス・ヴェント殿ですよね」
「憶えていてくださって光栄です。短い間ですがよろしくお願いしますね」
「……ええ」

 お隣よろしいかと聞きながらすでにいるし。俺いいよって言っていないんだけどな。しかもこいつなんか近くね?

「アクナイト公子の噂はかねがね伺っております。この度はお会いできてうれしいです」
「ありがとうございます」
「七日間という短い期間なのが非常に残念でなりません。良き交流ができるといいですね」
「そうですね」
 
 馴れ馴れしいなこいつ。なんか企んでいるんじゃないだろうな? 

「話の途中ですまない。シュヴァリエ向こうでアストラ殿下がお待ちだ」

 鬱陶しいなと思っていたらアウルが間に入ってきた。ちらちらとこちらを見ていたのは知っているけどわざわざ助けてくれたのか。正直ありがたい。

「大丈夫か?」
「ああ。馴れ馴れしいことこの上ない」
「君は全く社交界に出ていなかったからな。気になっているんだろう」
「だからこそ接し方は気を付けるものではないか? どんなことで怒りを買うかわからないのだから」
「それもそうだな」
「おかげで何か企んでいるのではと疑ってしまった」
「はは……それはなんとも。アストラ殿下が待っている」
「私を連れだす言い訳ではなかったのか?」
「それもあるが話したいと言っていたのは事実だ」
「そうか」

 ……なんでちょっとがっかりしているんだ俺は。
 湧き上がった謎の感情に無理やり蓋をした俺はアウルに連れられてアストラの元へ向かった。こちらに気づいたアストラと目が合うが……こいつ本当に男かってくらいに顔が整っている。ユーザーたちの中でも絶大な人気があって攻略対象に加えてくれというメールや電話が運営宛てにいくつも届いたらしい。イケメン爆ぜろこんちくしょう!

「ごきげんようアクナイト公子。お会いできてうれしいです。交流会は楽しんでいらっしゃいますか?」
「不肖シュヴァリエ・アクナイトが聖アーダ教国王太子殿下にご挨拶申し上げます」
「そう固くなる必要はありません。これから同じ学び舎で過ごす者同士ですから」
「寛容なお言葉に感謝申し上げます」
「エヴェイユさんからお話は伺っております。ツヴィトークで起こった事件をいくつも解決に導いているとか。そのような優秀な方と交流を持つ機会を得られてこの幸運に感謝します」

 ……。
 何か今恐ろしい言葉が聞こえた気がする。ちらっとエヴェイユに視線を向けると意味深に微笑まれた。こ~の~や~ろ~う! アウィスの王太子といいアーダの王太子といいどいつもこいつもいったい何を吹き込んでやがる!

「ぜひ貴方のお話をお聞きしたいのでこの後個人的なお茶会にいらしてくれませんか?」

 ……ああ、そうだったな。メインはこっちだ。多分俺だけじゃなくエヴェイユとアウル、リヒトにも同じ話をしたんだろう。ゲームではこのメンバーにクラルテもいたけどどうなるんだろうな? ここで起こる事件はかなり危険で現実だったら捨て駒や囮以外で平民を関わらせることはないんだけど。まあそれはお茶会が始まってから考えればいいか。

「お誘いいただきありがとうございます。ぜひご同席させていただければと思います」

 これは事前にエヴェイユから聞かされていた密会の合図だ。こういう場で王族が他国の高位貴族を個人的な集まりに誘うことは珍しくない。むしろこそこそ誘えば第三者に不信感を与えることにもなりかねないのだ。お茶会は密会を行うときの誘い文句に使われることも多い。


「ではこの後に私所有のサロンへお越しください。この国ならではのお菓子と茶葉を用意しましょう」
「楽しみです」
 
 その後は軽い世間話をして俺たちはアストラから離れて食事をすることに。というかもう当たり前のようにアウルが隣にいるんだが。俺もすっかり慣れてしまっている。

「どうした?」
「いつの間にか君がそばにいることが自然になっていたなと」
「それは光栄だな。君と仲良くなれているという証拠じゃないか」
「何を馬鹿な……」
「あ、あの……」

 アウルと雑談をしていると一人の令嬢が声をかけてきた。例の美女・ティアである。

「私ティアと申します。よろしくお願いしますシュヴァ……アクナイト公子」
「……ええ、よろしくお願いしますティア嬢」

 どこかそわそわしており何を言おうか迷っている様子のティア。まあ無理もないか。

「……なんだか別人みたいね」

 ぼそりと呟いた言葉をばっちり拾った俺は内心で苦笑する。確かにの記憶が蘇ってからは大分変わったと思うよ。まあ表には出していないんだけど。

「あの、この後お話があるのですがよろしいでしょうか?」
「……せっかくのお誘いだがすでに先約があるので無理だ」
「そうですか。わかりました。無理を言って申し訳ありません」

 そこへグラスを持ったイグニスがやってくる。

「ティア喉が渇いていないか? アクナイト公子も先ほどはあまりお話しできませんでしたからね。こちら良ければどうぞ」
「……はい、いただきます」
  
 そう言ってよそよそしくグラスを受け取るティアに俺は違和感を覚えた。ティアが伯爵子息に気を遣うのはわかるが……気を遣うというよりは怯えている? 違和感を抱いたのはアウルも同じだったようでそっと俺と視線を合わせた。この二人なにかあるのか?
 その違和感を探るために俺はグラスを受け取る。

「申し訳ありませんオルニス公子アクナイト公子。ティアはどうも美しい方々を見て緊張されているようで」

 さも自分はティアのことをよく知っているような口ぶりだな。やっぱりなにか不可解だ。なんというかめっちゃ胡散臭い。俺はアウルに視線を向けると意図を察したアウルはどこか複雑そうな顔をしながらも頷いた。それを確認しグラスに口をつける……ふりをして様子を伺う。俺が飲んだことを確認したイグニスとティアもグラスに口を付けた瞬間。

「う゛ぅっ……!」
「ぐあぁっ……」

 二人同時にうめき声をあげてその場に倒れた。……やっぱりか。二人が持っていたグラスは床に落ちた衝撃で割れあたりに甲高い音が響く。一斉にこちらへ視線が向き、何事かと寄ってきた。

「何事です!?」
「二人とも!」

 床に転がる二人を見て次に俺たち……というよりは俺に視線が集まった。

「アクナイト公子、これは一体どういうことでしょう?」
「私が二人に何かを盛ったと思っていらっしゃるのならば心外です。グラスを持ってきたのはヴェント殿ですし私の傍にはアウルがおりました。何かを盛る機会はありません」
「シュヴァリエの言うとおりだ。これはシュヴァリエの仕業ではない」

 淡々と弁明をする俺にすかさずアウルもフォローに入る。グラスを持っていた四人のうち俺とアウルが立っていて俺だけがグラスに口をつけたんだから俺が疑われるのはわかるけどね? ほら漫画や小説なんかで毒は入ってませんよとアピールするために自ら口に含んだりする描写ってあるでしょ? それで主人公が信じちゃって飲んだり食べたりしちゃうやつ。その描写見るたびに主人公に対して純粋じゃなくてただの馬鹿じゃねって思っちゃうんだよね。物語の展開上仕方ないのかもしれないけど現実で通じる事例なんて稀だろ。だって薬物とか毒物なんて仕込む側に影響を及ぼさない方法はいくらでもあるじゃん。事前に中和剤飲んでおくとかシロップや氷に仕込んで溶ける前に飲み干す、みたいな感じでさ。

「むしろ私たちも標的だったと思いますよ」
「それはどういう——」

 アストラが言い終える前に窓の外に一瞬光るものを見て俺は咄嗟にアストラを思い切り突き飛ばす。直後俺の体に一瞬鋭い衝撃が走り猛烈な寒さに襲われた。

「シュヴァリエ!?」
「アクナイト公子!?」

 真冬の水に落ちたような感覚に俺はその場に倒れこむ。霞む視界の中でリヒトに受け止められたアストラを確認し安堵する。周りにいる人たちが何かを言っているが聞こえない。……とりあえず。
 ふざけんなくそったれ!


・・・・・・・・・・・

 
 次回R15描写入ります! お楽しみに♪
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