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「大丈夫ですか、セーリーヌ様」
侍女が慌てて顔を覗き込んでくる。
セーリーヌは手で顔を覆った。
「大丈夫……。ちょっと驚いただけ……」
信じられない。そんなことがあるのだろうか?
あの堅物で有名なアドニス侯爵が、ドレスをわたしに贈ってくれるなんて……。
きっとなにか裏があるに違いない。
──でも、今はそれでもいいわ! もうなんでもいい!
セーリーヌは、ここにはいない近衛騎士団長の青年のことを想った。
「お体に障ります」
侍女が背中を支えてくれる。
その時だった。
扉が開き、アドニス侯爵が部屋の中に入ってきたのだ。
セーリーヌは心臓が飛び出しそうになるほど驚いた。
「気がついたようだな」
「アドニス様……」
セーリーヌは目を丸くして侯爵を見つめた。
彼は相変わらずの寡黙な表情で、こちらを見下ろしている。
セーリーヌはなぜだか無性に恥ずかしくなって、すぐに顔を背けた。
自分が今どんな格好をしているのかを急に思い出したのだ。
アドニス侯爵のドレスを着ているのだ。
そんなセーリーヌの戸惑いを余所に、アドニス侯爵は落ち着いた様子でベッドサイドの椅子に腰かけると、その大きな手でセーリーヌの頭を撫でた。
「気分はどうだ?」
「あ、はい……。大丈夫です」
セーリーヌはドキドキする鼓動を抑えながら返事をした。
侍女が慌てて顔を覗き込んでくる。
セーリーヌは手で顔を覆った。
「大丈夫……。ちょっと驚いただけ……」
信じられない。そんなことがあるのだろうか?
あの堅物で有名なアドニス侯爵が、ドレスをわたしに贈ってくれるなんて……。
きっとなにか裏があるに違いない。
──でも、今はそれでもいいわ! もうなんでもいい!
セーリーヌは、ここにはいない近衛騎士団長の青年のことを想った。
「お体に障ります」
侍女が背中を支えてくれる。
その時だった。
扉が開き、アドニス侯爵が部屋の中に入ってきたのだ。
セーリーヌは心臓が飛び出しそうになるほど驚いた。
「気がついたようだな」
「アドニス様……」
セーリーヌは目を丸くして侯爵を見つめた。
彼は相変わらずの寡黙な表情で、こちらを見下ろしている。
セーリーヌはなぜだか無性に恥ずかしくなって、すぐに顔を背けた。
自分が今どんな格好をしているのかを急に思い出したのだ。
アドニス侯爵のドレスを着ているのだ。
そんなセーリーヌの戸惑いを余所に、アドニス侯爵は落ち着いた様子でベッドサイドの椅子に腰かけると、その大きな手でセーリーヌの頭を撫でた。
「気分はどうだ?」
「あ、はい……。大丈夫です」
セーリーヌはドキドキする鼓動を抑えながら返事をした。
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