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72.願い。
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相澤和真がまだ初療室で治療を受けている時、初療室の前の長椅子に宮田太一と三峰汐音の姿があった。両手を強く握りしめて俯いたまま身動ぎさえしない汐音を労わるように、宮田がその背中を優しく撫でる。
「宮田」
緊張を孕んだ低い声が通路に響いた。宮田はハッとしたように立ち上がる。
「社長……」
「和真の容態は?」
一秒でも待てないとでもいうように、大股で歩み寄りながら問うてくる。場所が病院でなければ、きっと全力で駆け寄って来たに違いない。
「今、和真様は検査中ですが、腹腔内に出血があるそうです」
「出血……?」
蓮の顔が青ざめる。
その時、初療室の扉が開き、医師が姿を現した。
「先生、和真は……」
いつになく焦った様子で蓮が詰め寄る。
「腹腔内に出血が見られましたが、手術するほどではありません。安心してください。ですが、しばらくは安静にする必要があります。今、点滴に痛み止めも入れているので、眠っています」
「ありがとうございます」
蓮は担当医に向かって心からの感謝を述べ頭を下げる。その背後で、汐音が呼吸をすることを思い出したかのように深く息を吐いた。
医師が初療室に戻って行くと、蓮は宮田に向き合う。
「入院の手続きをしておいてくれ。部屋は最上階の個室だ。それから、今のマンションからすぐに転居させる。手配を」
「分かりました。すぐに手配致します」
宮田は一礼すると風のように立ち去った。
蓮は振り返る。
「三峰君、だったね?」
「……はい」
汐音は疲れ切った顔をして、うつむき気味に立っていた。その姿に生気は無く、まるで幽霊のようだった。先日のパーティーで和真の隣に控えていた時のような人目を引く華やかさはまるっきり感じられなかった。
「……君に怪我は?」
「問題ありません」
そう言って、自分の手をさりげなく背後へ隠す。
だが、蓮は汐音の手に傷がある事を見逃さなかった。
「……後で、その手を必ず診てもらいなさい」
「! ……はい」
「他に、怪我は?」
「本当に、他には怪我をしていません」
「良かった」
蓮は心からそう告げた。
その瞬間、汐音が勢いよく顔を上げた。瞳に悔やむ気持ちが色濃く出ている。
「良くありません! 和真さんが負傷したのですから……」
蓮は汐音の震え出した肩にそっと手を置いた。
「和真を、息子を、強盗達から救ってくれたと聞いているよ。君が居なければ、和真はどうなっていたか分からない。それに、君には毒蛇に噛まれた時も助けてもらったと聞き及んでいる。遅くなってしまったが、礼を言う。ありがとう。……それに、和真の介護と身の回りの世話までしてくれているそうだね。本当にありがとう。感謝している」
「いえ、当然の事をしているだけです。……あの!」
突然、汐音が顔を上げた。その瞳の奥に先ほどまでなかった光が見える。
「お願いがあります! 引っ越しをされるのであれば、その引っ越した先で、私も一緒に住む事を許していただけませんか? 生活面だけでなく、これからも身の回りの危険から和真さんを守り続けたいのです!」
その熱に蓮は圧倒される。先ほどまで立っているのもやっとのようだったのに、今は汐音の体の奥から湧き上がるように熱意が溢れ出していた。
「……君のご両親も、私が和真を想うように、君の健康と幸せを願っておられる」
蓮が言葉を切った。却下されたと思ったのか、汐音の顔に一瞬にして絶望の色が広がっていく。
「……では、これは私からのお願いだ。君のご両親の許可が獲れ、和真の気持ちを確認して、和真も君と一緒に暮らす事を望んでいるのなら、これまでどおり和真と一緒に暮らしてくれないかい? もちろん、生活面で支えてくれるなら、報酬もこれまでと同じように出す。どうだろうか?」
どんよりとした雲間から日が射すように、汐音の顔が一気に輝きを帯びる。
「はい! お願いします‼ ありがとうございます!」
「ただし、どちらかが嫌だと感じたり、どちらかの成績が下がった時は、すぐに離れてもらう」
「肝に銘じて!」
汐音は深く頭を下げた。
再び顔を上げた汐音の瞳の奥には、決意の光が漲っていた。
「……和真さんのそばに居られるのであれば、私は何だってします」
その声はどこまでも真摯で、目の前にいる男からは高校生だとは奥底思えない貫禄のようなものを蓮は感じ取っていた。
「宮田」
緊張を孕んだ低い声が通路に響いた。宮田はハッとしたように立ち上がる。
「社長……」
「和真の容態は?」
一秒でも待てないとでもいうように、大股で歩み寄りながら問うてくる。場所が病院でなければ、きっと全力で駆け寄って来たに違いない。
「今、和真様は検査中ですが、腹腔内に出血があるそうです」
「出血……?」
蓮の顔が青ざめる。
その時、初療室の扉が開き、医師が姿を現した。
「先生、和真は……」
いつになく焦った様子で蓮が詰め寄る。
「腹腔内に出血が見られましたが、手術するほどではありません。安心してください。ですが、しばらくは安静にする必要があります。今、点滴に痛み止めも入れているので、眠っています」
「ありがとうございます」
蓮は担当医に向かって心からの感謝を述べ頭を下げる。その背後で、汐音が呼吸をすることを思い出したかのように深く息を吐いた。
医師が初療室に戻って行くと、蓮は宮田に向き合う。
「入院の手続きをしておいてくれ。部屋は最上階の個室だ。それから、今のマンションからすぐに転居させる。手配を」
「分かりました。すぐに手配致します」
宮田は一礼すると風のように立ち去った。
蓮は振り返る。
「三峰君、だったね?」
「……はい」
汐音は疲れ切った顔をして、うつむき気味に立っていた。その姿に生気は無く、まるで幽霊のようだった。先日のパーティーで和真の隣に控えていた時のような人目を引く華やかさはまるっきり感じられなかった。
「……君に怪我は?」
「問題ありません」
そう言って、自分の手をさりげなく背後へ隠す。
だが、蓮は汐音の手に傷がある事を見逃さなかった。
「……後で、その手を必ず診てもらいなさい」
「! ……はい」
「他に、怪我は?」
「本当に、他には怪我をしていません」
「良かった」
蓮は心からそう告げた。
その瞬間、汐音が勢いよく顔を上げた。瞳に悔やむ気持ちが色濃く出ている。
「良くありません! 和真さんが負傷したのですから……」
蓮は汐音の震え出した肩にそっと手を置いた。
「和真を、息子を、強盗達から救ってくれたと聞いているよ。君が居なければ、和真はどうなっていたか分からない。それに、君には毒蛇に噛まれた時も助けてもらったと聞き及んでいる。遅くなってしまったが、礼を言う。ありがとう。……それに、和真の介護と身の回りの世話までしてくれているそうだね。本当にありがとう。感謝している」
「いえ、当然の事をしているだけです。……あの!」
突然、汐音が顔を上げた。その瞳の奥に先ほどまでなかった光が見える。
「お願いがあります! 引っ越しをされるのであれば、その引っ越した先で、私も一緒に住む事を許していただけませんか? 生活面だけでなく、これからも身の回りの危険から和真さんを守り続けたいのです!」
その熱に蓮は圧倒される。先ほどまで立っているのもやっとのようだったのに、今は汐音の体の奥から湧き上がるように熱意が溢れ出していた。
「……君のご両親も、私が和真を想うように、君の健康と幸せを願っておられる」
蓮が言葉を切った。却下されたと思ったのか、汐音の顔に一瞬にして絶望の色が広がっていく。
「……では、これは私からのお願いだ。君のご両親の許可が獲れ、和真の気持ちを確認して、和真も君と一緒に暮らす事を望んでいるのなら、これまでどおり和真と一緒に暮らしてくれないかい? もちろん、生活面で支えてくれるなら、報酬もこれまでと同じように出す。どうだろうか?」
どんよりとした雲間から日が射すように、汐音の顔が一気に輝きを帯びる。
「はい! お願いします‼ ありがとうございます!」
「ただし、どちらかが嫌だと感じたり、どちらかの成績が下がった時は、すぐに離れてもらう」
「肝に銘じて!」
汐音は深く頭を下げた。
再び顔を上げた汐音の瞳の奥には、決意の光が漲っていた。
「……和真さんのそばに居られるのであれば、私は何だってします」
その声はどこまでも真摯で、目の前にいる男からは高校生だとは奥底思えない貫禄のようなものを蓮は感じ取っていた。
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