生まれる前から好きでした。

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73.兄。

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 誰もが綺麗だと称賛する三峰汐音の顔が歪んでいる。歪んだところでその美が損なう事はなく、ただ肝を冷やすような迫力が出ているだけなのだが。
 相澤和真と汐音は自分たちの学校である私立高校白羽学園の校門前にいた。彼らの目の前には、汐音とはまた一味違った眉目秀麗な男が立っている。
 和真の異母兄弟の兄、鳳蓮弥おおとりれんやだ。和真とは違って、真宮蓮の息子だと言わなくても顔だけでなく、背格好までどこか似ている気がした。

「俺の弟くん! 約束どおりに会いに来たよ~」

 違っているところは、このどこか軽い雰囲気だ。
 和真を庇う様に仁王立ちになっている汐音のことなどまったく眼中にない様子で、両手を広げて和真に声を掛けてくる。こんな蓮弥の姿には慣れているのか、彼の背後では同じ年頃の男が二人、生暖かい目で見守っている。

「何故、鳳蓮弥おおとりれんやさんがここにいるのですか?」

 鋭い汐音の声に、初めて汐音がいる事に気付いたかのように、蓮弥が汐音を見る。その視線はまるで蔑むようだ。

「君は馬鹿なのか? 俺の弟に会いに来たと言っているだろ?」
「……っ」

 汐音のこめかみがぴくりと動く。蔑むような視線を向けられたことより、和真に向けている馴れ馴れしい笑顔にどやら嫌悪を感じているようだ。
 そんな汐音の警戒心をよそに、和真が一歩前へ出た。

「……。おれも馬鹿なので教えてください」

 蓮弥は『おや?』と僅かに瞠目すると、クスッと笑いながら肩をすくめる。

「俺の弟くんは、優しいね~」

 再び陽気な笑みを浮かべた蓮弥は腰に手を置いた。そして当然のように語り始めた。

「どうしてって? だからね。弟の心配をしたからに決まっているだろ? 病院は面会謝絶だったしね。それに引っ越しまでされてしまえば、弟くんに会うには学校へ突撃するしかないだろ?」

 汐音の気配が鋭くなった。
 和真の情報を蓮弥もかなり知っていると分かったからだろう。
 まだ強盗達の後ろにいる者が誰なのか特定されていない。この目の前にいる男では無い、とは言い切れない状態だったからだ。

「兄……?」

 和真は目を瞬かせる。
 その表情に、蓮弥の目元が和らぐ。

「……そう! 兄だ! 俺達の中には半分とはいえ同じ血が流れている。それに、お互い大人達の勝手な都合を押し付けられている者同士だ。分かり合えるのは、この世界広しといえども俺達だけだ。その極めて稀有な存在である弟が強盗に襲われたと聞いて、心配ぜずにいられるわけがない」

 後継者争いの相手と認識している割には、和真を見つめる蓮弥の目は優しかった。

「君には元々少し興味があったんだ。でも、パーティーで会った時に、もっと君の事を知りたいと思った」

 汐音は気付く。蓮弥の瞳に執着の色が混じっていることに。

「……怪我の具合はどう? どこを怪我した? 見せて欲……」

 蓮弥が和真に向かって手を伸ばす。その指が触れるより早く、汐音の手が蓮弥の手首を掴んだ。

「和真さんに触れないでください」
「……痛ッ。おまえ、握力やばいな?」
「警戒して当然でしょう? 貴方がどれほど和真さんに『好意』を語っても、本心は分かりませんから」

 蓮弥は一瞬だけ目を細めた。
 不思議な事に、その眼差しに怒りは感じなかった。

「へえ、君やっぱりいいね。俺に対して全然ビビらないんだ。俺の弟をしっかりと守れているし。でも、あんまり俺の弟に近づき過ぎないでね。ね? 弟くん……、う~ん。和真って呼んでいいかな? 俺の事は、お兄ちゃんでいいよ!」

、おれが負傷したのは腹腔内です。それももう良くなりました。心配していただき、ありがとうございます」

 平坦な口調でそれだけ告げると、すぐにこの場を立ち去ろうとする和真の肩を蓮弥は慌てて引き留める。

「おいおい! お兄ちゃんに対して、ちょっとそれは塩対応過ぎじゃないかい? 和真、俺、これからも時々会いにくるからね!」
「……は?」

 汐音と和真が同時に声を漏らす。

「じゃあ、またね! 今度は俺の家に招待するよ。ゆっくり話そう。三峰くん! これからも和真を宜しく!」 

 そう言うと、蓮弥は二人の連れを引きつれて、学校前に横付けにしていた黒塗りの高級車に向かう。
 だが、数歩進んだところで、ふいに振り返った。

「そうだ三峰くん。君の『こだわり』は嫌いじゃない。でも――」

 一拍置いて、蓮弥はにやりと笑う。

「和真の側にいたいなら、俺は強敵だよ?」

 それだけ言い残すと、車に乗り込み、風のように去って行った。
 
 残された和真達はあっけに取られる。
 一方で、胸の奥がざわざわとざわめいている事に気付かないふりをする。
 和真は静かに息を吐いた。

「……やっぱり、あの人は、周りの人間を振り回すタイプだな……」
「油断しないでください」

 汐音の固い声に和真は目線を上げた。珍しく汐音が和真を見下ろし、告げる。

「……あなたが、心を許しそうなのが、心配です」

 和真は苦笑した。

「なんの心配だよ。心を許すって、何? あれは、どう転んでも兄なわけで……」
「兄かどうかはともかく。あなたを奪われるのは……嫌です」
「汐音……?」
「なんでもありません。行きましょう、和真さん」

 汐音が和真の手を掴んで歩き出した。自分達の家へと。
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