生まれる前から好きでした。

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19. 甘い物。

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 三峰汐音が目に涙を浮かべ、感激に打ち震えながらカレーを食べている。
 そのカレーは有名シェフが作った物でも、五つ星のレストランで出されたものでもない。料理初心者がスマホで見て、味も分からないのに美味そうだと感じたものをただ見たまま作っただけのカレーだ。もちろん味付けは、市販のルーだ。

「……嬉しいです。和馬さんが私のために、手ずから料理を作ってくださるなんて……。生まれてきて良かった……」
「……そ、そうか。それは良かった……な」

 笑顔が見たい。その一心で作った相澤和真にとっては、喜んでもらえた事は正直に言って嬉しかった。
 だが、目の前で感涙する汐音の姿に若干引き気味だ。汐音は気持ちのいいほど綺麗に食べ終わると手を合わせた。

「ご馳走様でした。大変美味しゅうございました。和真さんが作ってくださったこのカレーの味を生涯忘れる事はないでしょう」

 和真の目を真っ直ぐに見つめながらそう告げてくる。
 大袈裟だと一瞬思ったが、汐音にとっては大袈裟ではなく、本当にそう感じてくれているのだと思い直す。

「お粗末様でした」

 既に食べ終えていた和真も手を合わせ応じる。

「では、僭越ながら、後片付けは私にさせてください」
「助かるよ。ありがとう。じゃあ、おれは食後の飲み物を用意をするとしよう。汐音がケーキを買ってきてくれたしな。汐音、コーヒーと紅茶ならどっちが好きなんだ?」
「どちらも好きですよ。おすすめは何ですか?」
「紅茶だな。いいのがあるんだ。飲んでみるか?」
「はい!」

 汐音が皿を洗う横で、和真は湯を沸かし、ティーカップを並べる。紅茶の缶の蓋を開けると、汐音の鼻先に近づけた。

「どうだ? いい香りがするだろ?」
「はい! ……とても甘い香りがしますね。フルーツが入っているんですか?」
「当たりだ」

 和真が笑えば、汐音は柔らかな笑みを浮かべたまま見つめ返してくる。こんな表情をする時は、汐音がひどく大人びて見えた。和真は落ち着かない気分になり、汐音から離れる。

「汐音! ケーキの箱を開けるぞ!」
「はい。どうぞ好きなものを選んでください」
「あれ? 4個も入ってるぞ」
「はい。甘い物がお好きだと言っておられたので」

 少し照れた様子で答える汐音の姿を見て、和真は心の中で『この可愛い奴め』と呟いた。

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて先に選ばせてもらうぞ。おれは……フルーツタルト」
「後二つ選んでくださいね。私は一個あれば十分です」
「え?」

 驚く和真に対し、汐音は包み込むように笑って頷いた。信じられないほど汐音は和真の事を甘やかす。過保護に感じるほどだ。

(あいつの手に落ちない女はいるんだろか? おれが女なら、すでに恋が始まっていたんだろうな……)

「……汐音は、何か好きなんだ?」
「和真さんです!」

 即答で返事が返ってきた。

(ケーキの種類を聞いたんだが、どうしよう……)

 頬が熱くなるのを感じ、和真は掌で顔を仰ぐ。

(汐音が席に戻ってからもう一度聞くことにしよう)

 これ程爽やかに好きだと言われるのは、悪くはない気分だった。
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