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22. 涙。
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『和真さんは自由ですよ。今までも、これからも』
(自由? おれが……?)
胸の奥で溜まりに溜まっていた何かが突如爆発した。相澤和真は三峰汐音を床に押し倒し、馬乗りになった。汐音の身体能力を考えれば、避ける事など造作も無いはずだ。
だが、ただ黙ってされるがままになっている。
「汐音。……おれの話を聞いていたか?」
「はい。聞かせていただきました。改めて、和真さんの生き方が素晴らしいと認識致しました」
「ふざけるな!」
汐音の胸倉を掴み上げ、和真は叫んだ。静かな瞳が激高する和真を映す。
「ふざけてなどいません」
感情を剥き出しにした和真に対して、汐音はどこまでも冷静だった。
「おれが自由? 生き方が素晴らしい? どこがだ? おれの前には、険しい道が一本しかないんだぞ! 親に愛されたことも無く、ゲームのコマのように扱われているおれのどこが……」
和真は言葉を詰まらせた。零れ落ちた涙が汐音を濡らす。和真は掴んでいる胸元に額を押し付けた。汐音の腕が和真の背にまわされるのを感じた。
「何の拠り所も無く、果敢に試練に挑まれ、よく今まで、今のあなたを保ってこられましたね」
まるであやす様な優しい声が荒れ狂う胸の内に流れ込んでくる。
「何度も言います。和真さんが今私の目の前に存在するだけで、私には至高の喜びなのです。あなたが生きてここに在るから、私も生きていける」
汐音以外の者が言ったなら、何を大げさな事を言っているのだと真剣に受け取らなかっただろう。
だが、前世とはいえ、フィーリアの魂が存在しないという理由だけで失望し、自ら13歳という若さで戦場へ向かっている。そして、この世でフィーリアの生まれ変わりのおれを見つけ出した。そんな汐音の言葉だったからこそ、傷付いてささくれた心に染み渡っていく。冷え切った心と体を温めるかのように和真の背に回された腕がさらにしっかりと抱き込んだ。改めて気付いたのは、汐音の体温は高い。
「……母君は一緒に住んではおられないのですね?」
汐音の温もりを感じながら、和真は素直に頷いた。
「……なぜ分かった?」
「見た限り、母君のものがあまりに何もなかったので……」
「……あの人は、仕事と派手な生活が好きなんだ。今は気に入っている男とハワイで暮らしながら、仕事でハワイと日本を行き来している」
「やはり和真さんは愛されておられますね」
「……」
和真は無言で身を起こした。先ほどのように汐音に対して感情のまま怒りをぶつけたりはしなかったが、不快さを隠そうともせず、剣呑な目を汐音に向ける。
「……なぜそう思う?」
怒りを秘めた声に、汐音はまったく怯みもしない。
「あなたの身を案じて、ハワイから飛んでこられたのではないのですか?」
「おれの身を案じる……?」
あまりに突拍子もない事を言われ、和真は口をポカンと開ける。
「母君に反抗したのは初めてだったのでは?」
「……反抗するもなにも一緒に暮らしていなかったからな」
(母親らしい愛情を向けられた記憶はない。気まぐれにこのくだらないゲームさえも突然止めたと言って、おれの存在ごと捨ててしまう可能性さえあった。ゲームだろうとなんだろうと、生きていく為にただ静かに課題をこなし続けるしかなかった)
汐音が僅かに目を細め、赤く腫れている和真の頬に触れる。
「あなたの頬を打ったことは、いくら和真さんの母君でも許せません。ですが、電話でもできる内容なのに、ここへわざわざ会いに来られている。仮に日本におられたのだとしても、直接あなたの顔を見たかったのではないでしょうか? 『元気そうね』と言っておられましたからね。あなたが元気だと確認出来た途端、心配していた分無性に腹が立ったのかもしれませんね。愛の形は人それぞれですから」
まっすぐな眼差しで見つめながら汐音は年下とは思えない達観した見解を口にする。
「お仕事では成功しておられるのかもしれませんが、人を愛する事には、かなり不器用な方なのですよ。和真さんの母君は」
本当の事は分からない。汐音の思い違いである可能性の方が高い。孤独だった過去が変わるわけでもない。
だが、思考がぐるりと回転したような不思議な感覚をおぼえた。
(もし、汐音が言うようにただ愛情を与えるのが下手なだけだったら? おれが勝手に冷血な女なのだと思い込んでいるだけなのなら? 確かに、今まで母親とちゃんと話をしたことはなかった……)
あれほど堂々として完璧に見えていた姿が、どこか滑稽にさえ思えてくる。
「ははは……」
思わず笑いが込み上げてきた。和真は涙を流しながら笑った。汐音は何も言わずただ静かに和真を見つめていた。
(自由? おれが……?)
胸の奥で溜まりに溜まっていた何かが突如爆発した。相澤和真は三峰汐音を床に押し倒し、馬乗りになった。汐音の身体能力を考えれば、避ける事など造作も無いはずだ。
だが、ただ黙ってされるがままになっている。
「汐音。……おれの話を聞いていたか?」
「はい。聞かせていただきました。改めて、和真さんの生き方が素晴らしいと認識致しました」
「ふざけるな!」
汐音の胸倉を掴み上げ、和真は叫んだ。静かな瞳が激高する和真を映す。
「ふざけてなどいません」
感情を剥き出しにした和真に対して、汐音はどこまでも冷静だった。
「おれが自由? 生き方が素晴らしい? どこがだ? おれの前には、険しい道が一本しかないんだぞ! 親に愛されたことも無く、ゲームのコマのように扱われているおれのどこが……」
和真は言葉を詰まらせた。零れ落ちた涙が汐音を濡らす。和真は掴んでいる胸元に額を押し付けた。汐音の腕が和真の背にまわされるのを感じた。
「何の拠り所も無く、果敢に試練に挑まれ、よく今まで、今のあなたを保ってこられましたね」
まるであやす様な優しい声が荒れ狂う胸の内に流れ込んでくる。
「何度も言います。和真さんが今私の目の前に存在するだけで、私には至高の喜びなのです。あなたが生きてここに在るから、私も生きていける」
汐音以外の者が言ったなら、何を大げさな事を言っているのだと真剣に受け取らなかっただろう。
だが、前世とはいえ、フィーリアの魂が存在しないという理由だけで失望し、自ら13歳という若さで戦場へ向かっている。そして、この世でフィーリアの生まれ変わりのおれを見つけ出した。そんな汐音の言葉だったからこそ、傷付いてささくれた心に染み渡っていく。冷え切った心と体を温めるかのように和真の背に回された腕がさらにしっかりと抱き込んだ。改めて気付いたのは、汐音の体温は高い。
「……母君は一緒に住んではおられないのですね?」
汐音の温もりを感じながら、和真は素直に頷いた。
「……なぜ分かった?」
「見た限り、母君のものがあまりに何もなかったので……」
「……あの人は、仕事と派手な生活が好きなんだ。今は気に入っている男とハワイで暮らしながら、仕事でハワイと日本を行き来している」
「やはり和真さんは愛されておられますね」
「……」
和真は無言で身を起こした。先ほどのように汐音に対して感情のまま怒りをぶつけたりはしなかったが、不快さを隠そうともせず、剣呑な目を汐音に向ける。
「……なぜそう思う?」
怒りを秘めた声に、汐音はまったく怯みもしない。
「あなたの身を案じて、ハワイから飛んでこられたのではないのですか?」
「おれの身を案じる……?」
あまりに突拍子もない事を言われ、和真は口をポカンと開ける。
「母君に反抗したのは初めてだったのでは?」
「……反抗するもなにも一緒に暮らしていなかったからな」
(母親らしい愛情を向けられた記憶はない。気まぐれにこのくだらないゲームさえも突然止めたと言って、おれの存在ごと捨ててしまう可能性さえあった。ゲームだろうとなんだろうと、生きていく為にただ静かに課題をこなし続けるしかなかった)
汐音が僅かに目を細め、赤く腫れている和真の頬に触れる。
「あなたの頬を打ったことは、いくら和真さんの母君でも許せません。ですが、電話でもできる内容なのに、ここへわざわざ会いに来られている。仮に日本におられたのだとしても、直接あなたの顔を見たかったのではないでしょうか? 『元気そうね』と言っておられましたからね。あなたが元気だと確認出来た途端、心配していた分無性に腹が立ったのかもしれませんね。愛の形は人それぞれですから」
まっすぐな眼差しで見つめながら汐音は年下とは思えない達観した見解を口にする。
「お仕事では成功しておられるのかもしれませんが、人を愛する事には、かなり不器用な方なのですよ。和真さんの母君は」
本当の事は分からない。汐音の思い違いである可能性の方が高い。孤独だった過去が変わるわけでもない。
だが、思考がぐるりと回転したような不思議な感覚をおぼえた。
(もし、汐音が言うようにただ愛情を与えるのが下手なだけだったら? おれが勝手に冷血な女なのだと思い込んでいるだけなのなら? 確かに、今まで母親とちゃんと話をしたことはなかった……)
あれほど堂々として完璧に見えていた姿が、どこか滑稽にさえ思えてくる。
「ははは……」
思わず笑いが込み上げてきた。和真は涙を流しながら笑った。汐音は何も言わずただ静かに和真を見つめていた。
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