生まれる前から好きでした。

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23. 体温。

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 時が止まったような静寂の中、相澤和真は緩慢な動きで伏せていた顔を上げた。三峰汐音の大人びた目と合う。
と同時に、自分が汐音の上に跨っている事に気付いた。

「うわっ!」

 慌てて飛び退くと、汐音がどこか残念そうな表情を浮かべながらその場にきっちりと座り直した。和真もつられて汐音の前に向き合うように座る。

「……ごめん」

 和真はぼそりと呟くように謝る。
 だが、視線は汐音から逸らしたままだ。年下を相手に、感情を剥き出しにしてしまった事がどうにも居た堪れなかった。汐音の様子は見ていなくてもこちらを凝視しているのが分かる。

「私に、謝罪は不要です」

 落ち着いた声だった。呆れた響きが無かった事に和真は内心ほっとする。
 そして、そんなことにほっとしている自分に正直驚く。
 どうやら、和真は汐音の事をいつのまにか気に入ってしまっていたようだ。
 和真には前世の記憶が無いにも関わらず、汐音といると以前からずっと一緒にいるような感覚になる。そのせいなのか、まだ出会ってそれほど日が経っていないというのに、年下の汐音に身の上も感情も、何もかもぶちまけてしまった。

(……どうしよう。恥ずかしいんだけど……。おれは汐音に甘えている……よな?)

 出生の事もあり、人と深く関わる事を避けて生きていた。今までなら自分の事を他人にさらけ出すなどありえない事だった。ぐるぐると思い悩む和真の耳に汐音の声が届く。

「私は、嬉しいのです。和真さんが私の上に乗……和真さんが私に心の内を明かしてくださった事が」

 汐音は何か言いかけて、さりげなく言い換えた。顔を向ければ、汐音が先ほどとは違いどこか高揚した様子でこちらに熱い視線を送ってくる。

「……嬉しい?」

 汐音の事がさっぱり分からず、怪訝そうに首を傾げる。

「私はあなたの事が知りたかった。どんな些細な事でもです」

(俺の事が知りたい……?)

 和真の胸の奥に小さな灯が灯る。出会った当初から汐音は和真を通してかつてのあるじであったフィーリアを見ていた。目の前にいるのに、気づいて貰えない寂しさを感じていたのだ。

(だが、今は、おれ自身を見ている……)

 この瞬間、和真はやっと透明だった自分を汐音に見つけてもらえたような気がした。

「……変な奴」

 つんと顔を逸らした和真だったが、汐音を嫌ったわけではなかった。正直照れたのだ。

「これからも側に居させてください!」
「……勝手にすればいい」
「和真さん!」
「うおっ!」

 汐音が抱きついてきた。その勢いで今度は和真が床に押し倒される。衝撃はあったが、どこも痛みはない。和真の頭を汐音の右手が抱きかかえ、背には左手が巻き付いている。痛くはないが、正直苦しい。
 
「和真さん! 和真さん!」

 迷子だった子供が親の姿を見つけたかのように、汐音は和真の体を強く抱き締めたまま和真の名前を何度も呼んだ。

「何で、おまえが泣きそうになってんだよ」

(おれの言動や態度で、汐音も不安になっていたのかもしれないな……)

 自分よりも広い背に和真はそっと腕を回す。

(やっぱり、汐音の体温はほっとする。……おれは、ずっと寂しかったんだな)

 和真は汐音の存在を噛みしめながら目を閉じたのだった。
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