謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

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「……本当にいいのか?」

さっきまで体が燃え上がりそうなキスを交わしていたあとだというのに、彼は淡々とした口調で尋ねる。
まだ余韻の残る唇を動かせず、ただその端正な顔を見つめていると、彼はその声色とは裏腹に熱を宿した瞳を私に向けささやいた。

「これ以上進んだら……もう止められない。逃げるなら今のうちだ」

低く艶のある声と熱い吐息が頬を撫でると、体の奥から電流のような感覚が駆け上がってきた。
初めて感じるそのしびれに戸惑いながら、ごくりとつばを飲み込むと、私は覚悟を決めて切り出す。

「……何事も経験、ですから」

そんな遠回しな肯定をしながら、彼をじっと見つめ返す。その言葉が彼に届くと、その瞳は愛おしげに緩み、唇から楽しげに笑い声が漏れた。

「僕は君の、ただの経験相手の一人になるつもりはないけど?」

挑むような言葉に胸の奥がひりつく。きっと私など、ただ通り過ぎるだけの相手のはずだ。これが、ずっと核心部分に触れさせてくれない彼の本心だなんて思えないのだから。

「それは……お互いさまじゃ?」

精一杯に強がって返してみる。私に可愛げがないなんて、はなから承知なのだろう。それを聞いた彼は口角を上げ、不敵とも言える笑みを浮かべた。

「……言うね。逃すつもりなんてないよ」

それ以上会話を続けることなく、彼はその距離を縮めてくる。
ゆっくり瞳を閉じると、彼の熱い唇が再び重なり、そのままゆっくりと、シーツの上に組み敷かれた。
優しいキスは、頑なだった私の心を溶かしていくようだ。けれどいつかまた、心に傷を負う予感もしていた。恋とも言えないこの関係の未来など想像できるはずもない。
もう恋なんてしないと、ずっと昔に決めた。念願だった、祖母が大切にしている会社に就職して、仕事のことだけ考えていこうと思っていた。
なのに、今それ以外のことに足を踏み出そうとしている。一度会うはずだっただけの、お見合い相手と。
彼の広い背中に腕を回す。危険な香りのする、秘密の多い彼の心に、少しでも近づいてみたくて。

たとえそれが、取り返しのつかない行為だったとしても――。
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