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私には、憧れる人がいる。その人は祖母だというと笑われるだろうか。
それは小学校高学年のころだ。当時祖母が社長を務めていた、医療機器メーカーの創立記念パーティーがあった。おしゃれをして、普段訪れることの少ない豪華なホテルにワクワクしていた。
祖母は大勢の人の前で、堂々と挨拶をしていた。普段とは違う経営者の顔。真っ直ぐ伸びた背中に凛とした佇まい。まるでドラマの登場人物みたいで、身内なのに目を奪われた。
(将来、お祖母ちゃんと一緒に働きたい!)
目標ができた私は、そこから勉強を頑張り始めた。まずできることといえば、それくらいだったから。
それとなく祖母や両親にリサーチしながら進路を考え、行きたい大学に入るための高校を選び、無事に合格した。
それまで勉強ばかりで恋愛なんて後回し。好きな人どころか気になる人すらいないまま高校生になった私は、すこし浮かれていたのかもしれない。
「よかったら、僕と付き合わない?」
二年生になり、告白されて付き合い始めたのは、同じ委員会に入っている同級生。委員の仕事もちゃんとしていて、真面目で好感が持てた。
それからは一緒に帰ったり、ファストフード店で勉強したり。手をつなぐのだって時間がかかった付き合い。それでもドキドキしながら彼氏との時間を楽しんでいた。
でも――
「知ってるか? 琴葉のやつ、この前のテスト、学年三位だと。生意気じゃない?」
まさか近くに私がいるとは思ってなかったのだろう。校舎の隅で友達同士でしゃべっている彼氏の声が聞こえてきた。
「えっ? おまえの彼女って、石田だっけ。そんなに頭良かったんだ」
「そうだよ。この前テストの結果教えられてさ。やっと中の上って感じの俺に嫌味かってのっ!」
私と話す時とは全く違う砕けた話し方。別人だと思いたいけれど、その声は紛れもなく今付き合っている彼氏だった。
(そんな風に……思われてたの?)
嫌味のつもりなんてもちろんなかった。聞かれたから答えただけだ。それなのに、嫌味で生意気だと思われていたなんて、ショックで足が震えた。
向こうから交際を申し込まれたけれど、優しい笑顔を向けてくれる彼のことを、付き合ううちに好きになっていた。
ファーストキスだって、嫌じゃなかった。けれどそれ以上を求められて、心の準備ができていないと断っていた。それがいけなかったのだろうか。それでも変わらない態度で付き合ってくれていると思っていた。いつかこの人に全てをささげる日が……なんて想像もしていた。
なのに、こんな裏の顔があったなんて愕然とした。
堪えきれず涙があふれる。それを拭うことなく、私はそっとその場を離れた。
俯きながら歩く道に、ぽたぽたと自分の涙がこぼれ落ちていく。それを見ながら、何がいけなかったのだろうと心の中で自分を責めた。
けれどふと、祖母の顔と自分の夢を思い出した。
帰宅して洗面所に駆け込むと、冷たい水で顔を洗い、鏡の中の自分を見つめて決意する。
(もう、だれも好きになったりしない! 勉強だけ、お祖母ちゃんの会社に入ることだけ目指す!)
彼には受験勉強が忙しいと理由を付けて別れると、いっそう必死に勉強して希望の大学に入学した。その後も恋愛を封印し、勉強だけに集中して、そして目指していた会社に就職した。
その会社『蒼波メディテック株式会社』は、国内シェア第三位の医療機器メーカーだ。
四十代で社長に就任した祖母には経営の才能があったのか、当時はほぼ知られていなかった会社を急成長させていた。そんなところも同じ女性として憧れている。
私は創業者の一族だと周りには秘密にしたまま、マーケティング・企画部の一員となり六年目。仕事だけに生きてきて、今年二十八才を迎える。
それは小学校高学年のころだ。当時祖母が社長を務めていた、医療機器メーカーの創立記念パーティーがあった。おしゃれをして、普段訪れることの少ない豪華なホテルにワクワクしていた。
祖母は大勢の人の前で、堂々と挨拶をしていた。普段とは違う経営者の顔。真っ直ぐ伸びた背中に凛とした佇まい。まるでドラマの登場人物みたいで、身内なのに目を奪われた。
(将来、お祖母ちゃんと一緒に働きたい!)
目標ができた私は、そこから勉強を頑張り始めた。まずできることといえば、それくらいだったから。
それとなく祖母や両親にリサーチしながら進路を考え、行きたい大学に入るための高校を選び、無事に合格した。
それまで勉強ばかりで恋愛なんて後回し。好きな人どころか気になる人すらいないまま高校生になった私は、すこし浮かれていたのかもしれない。
「よかったら、僕と付き合わない?」
二年生になり、告白されて付き合い始めたのは、同じ委員会に入っている同級生。委員の仕事もちゃんとしていて、真面目で好感が持てた。
それからは一緒に帰ったり、ファストフード店で勉強したり。手をつなぐのだって時間がかかった付き合い。それでもドキドキしながら彼氏との時間を楽しんでいた。
でも――
「知ってるか? 琴葉のやつ、この前のテスト、学年三位だと。生意気じゃない?」
まさか近くに私がいるとは思ってなかったのだろう。校舎の隅で友達同士でしゃべっている彼氏の声が聞こえてきた。
「えっ? おまえの彼女って、石田だっけ。そんなに頭良かったんだ」
「そうだよ。この前テストの結果教えられてさ。やっと中の上って感じの俺に嫌味かってのっ!」
私と話す時とは全く違う砕けた話し方。別人だと思いたいけれど、その声は紛れもなく今付き合っている彼氏だった。
(そんな風に……思われてたの?)
嫌味のつもりなんてもちろんなかった。聞かれたから答えただけだ。それなのに、嫌味で生意気だと思われていたなんて、ショックで足が震えた。
向こうから交際を申し込まれたけれど、優しい笑顔を向けてくれる彼のことを、付き合ううちに好きになっていた。
ファーストキスだって、嫌じゃなかった。けれどそれ以上を求められて、心の準備ができていないと断っていた。それがいけなかったのだろうか。それでも変わらない態度で付き合ってくれていると思っていた。いつかこの人に全てをささげる日が……なんて想像もしていた。
なのに、こんな裏の顔があったなんて愕然とした。
堪えきれず涙があふれる。それを拭うことなく、私はそっとその場を離れた。
俯きながら歩く道に、ぽたぽたと自分の涙がこぼれ落ちていく。それを見ながら、何がいけなかったのだろうと心の中で自分を責めた。
けれどふと、祖母の顔と自分の夢を思い出した。
帰宅して洗面所に駆け込むと、冷たい水で顔を洗い、鏡の中の自分を見つめて決意する。
(もう、だれも好きになったりしない! 勉強だけ、お祖母ちゃんの会社に入ることだけ目指す!)
彼には受験勉強が忙しいと理由を付けて別れると、いっそう必死に勉強して希望の大学に入学した。その後も恋愛を封印し、勉強だけに集中して、そして目指していた会社に就職した。
その会社『蒼波メディテック株式会社』は、国内シェア第三位の医療機器メーカーだ。
四十代で社長に就任した祖母には経営の才能があったのか、当時はほぼ知られていなかった会社を急成長させていた。そんなところも同じ女性として憧れている。
私は創業者の一族だと周りには秘密にしたまま、マーケティング・企画部の一員となり六年目。仕事だけに生きてきて、今年二十八才を迎える。
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