謎多きお見合い相手は、秘めた愛を彼女に注ぐ

玖羽 望月

文字の大きさ
2 / 7

しおりを挟む
私には、憧れる人がいる。その人は祖母だというと笑われるだろうか。

それは小学校高学年のころだ。当時祖母が社長を務めていた、医療機器メーカーの創立記念パーティーがあった。おしゃれをして、普段訪れることの少ない豪華なホテルにワクワクしていた。
祖母は大勢の人の前で、堂々と挨拶をしていた。普段とは違う経営者の顔。真っ直ぐ伸びた背中に凛とした佇まい。まるでドラマの登場人物みたいで、身内なのに目を奪われた。

(将来、お祖母ばあちゃんと一緒に働きたい!)

目標ができた私は、そこから勉強を頑張り始めた。まずできることといえば、それくらいだったから。
それとなく祖母や両親にリサーチしながら進路を考え、行きたい大学に入るための高校を選び、無事に合格した。
それまで勉強ばかりで恋愛なんて後回し。好きな人どころか気になる人すらいないまま高校生になった私は、すこし浮かれていたのかもしれない。

「よかったら、僕と付き合わない?」

二年生になり、告白されて付き合い始めたのは、同じ委員会に入っている同級生。委員の仕事もちゃんとしていて、真面目で好感が持てた。
それからは一緒に帰ったり、ファストフード店で勉強したり。手をつなぐのだって時間がかかった付き合い。それでもドキドキしながら彼氏との時間を楽しんでいた。
でも――

「知ってるか? 琴葉のやつ、この前のテスト、学年三位だと。生意気じゃない?」

まさか近くに私がいるとは思ってなかったのだろう。校舎の隅で友達同士でしゃべっている彼氏の声が聞こえてきた。

「えっ? おまえの彼女って、石田だっけ。そんなに頭良かったんだ」
「そうだよ。この前テストの結果教えられてさ。やっと中の上って感じの俺に嫌味かってのっ!」

私と話す時とは全く違う砕けた話し方。別人だと思いたいけれど、その声は紛れもなく今付き合っている彼氏だった。

(そんな風に……思われてたの?)

嫌味のつもりなんてもちろんなかった。聞かれたから答えただけだ。それなのに、嫌味で生意気だと思われていたなんて、ショックで足が震えた。
向こうから交際を申し込まれたけれど、優しい笑顔を向けてくれる彼のことを、付き合ううちに好きになっていた。
ファーストキスだって、嫌じゃなかった。けれどそれ以上を求められて、心の準備ができていないと断っていた。それがいけなかったのだろうか。それでも変わらない態度で付き合ってくれていると思っていた。いつかこの人に全てをささげる日が……なんて想像もしていた。
なのに、こんな裏の顔があったなんて愕然とした。
堪えきれず涙があふれる。それを拭うことなく、私はそっとその場を離れた。
俯きながら歩く道に、ぽたぽたと自分の涙がこぼれ落ちていく。それを見ながら、何がいけなかったのだろうと心の中で自分を責めた。
けれどふと、祖母の顔と自分の夢を思い出した。
帰宅して洗面所に駆け込むと、冷たい水で顔を洗い、鏡の中の自分を見つめて決意する。

(もう、だれも好きになったりしない! 勉強だけ、お祖母ちゃんの会社に入ることだけ目指す!)

彼には受験勉強が忙しいと理由を付けて別れると、いっそう必死に勉強して希望の大学に入学した。その後も恋愛を封印し、勉強だけに集中して、そして目指していた会社に就職した。

その会社『蒼波あおなみメディテック株式会社』は、国内シェア第三位の医療機器メーカーだ。
四十代で社長に就任した祖母には経営の才能があったのか、当時はほぼ知られていなかった会社を急成長させていた。そんなところも同じ女性として憧れている。
私は創業者の一族だと周りには秘密にしたまま、マーケティング・企画部の一員となり六年目。仕事だけに生きてきて、今年二十八才を迎える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

なぜ私?スパダリCEOに捕獲され推しの秘書になりました

あいすらん
恋愛
落ち込んでいた私が見つけた最高の趣味。 それは完璧スパダリCEOの「声」を集めること。 動画サイトで最高のイケボを見つけた私、倉田ひかりは、声を録音するためだけに烏丸商事の会社説明会へ。 失業中の元ピアノ講師には、お金のかからない最高のレクリエーションだったのに。 「君、採用」 え、なんで!? そんなつもりじゃなかったと逃げ出したのに、運命は再び私と彼を引き合わせる。 気づけば私は、推しの秘書に。 時短の鬼CEO×寄り道大好き迷子女。 正反対な2人が繰り広げる、イケボに溺れるドタバタラブコメ!

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

黄色い花

中谷ととこ
恋愛
酔って記憶を失くした日の翌朝、目が覚めると腕の中に女性がいた。 相手は見知らぬ女性ではなく、同じ課で二年以上一緒に働いてきた松島汐里(30)、直属の部下だった。 社内では、切れ者で有能な男として知られる営業二課課長、木藤雅人(36) 仕事に厳しく圧が強く独特なオーラがあり、鬼課長と恐れられる厳格な上司。その場にいるだけでピリッとする。でも実際のところ、中身はただのいい人。心根は優しく誠実で、責任感が強い。仕事を離れれば穏やかな面が多い。 仕事以外で関わることの一切なかった二人の関係性が、その日を境に変化していく。 「一人では行きにくい場所、何か所かあるんですよ。そういう場所につき合っていただく、とかどうでしょう?」 「それは、全然構わないけど」 「いいんですか!? 本当に? 休日とかにですよ?」 「……一体何をさせるつもりなんだ」 罪悪感から、松島からの「十回だけ、自分の我儘につき合って欲しい」という提案を、思わず承諾する雅人。素知らぬ顔をして複雑な思いを抱えている松島。どうなるんでしょうこの二人────というお話。 表紙画像は リタ様 https://www.pixiv.net/users/20868979 よりお借りしています。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

処理中です...