1 / 56
prologue
prologue
「……本当にいいのか?」
さっきまで体が燃え上がりそうなキスを交わしていたあとだというのに、彼は淡々とした口調で尋ねる。
まだ余韻の残る唇を動かせず、ただその端正な顔を見つめていると、彼はその声色とは裏腹に熱を宿した瞳を私に向けささやいた。
「これ以上進んだら……もう止められない。逃げるなら今のうちだ」
低く艶のある声と熱い吐息が頬を撫でると、体の奥から電流のような感覚が駆け上がってきた。
初めて感じるそのしびれに戸惑いながら、ごくりとつばを飲み込むと、私は覚悟を決めて切り出す。
「……何事も経験、ですから」
そんな遠回しな肯定をしながら、彼をじっと見つめ返す。その言葉が彼に届くと、その瞳は愛おしげに緩み、唇から楽しげに笑い声が漏れた。
「僕は君の、ただの経験相手の一人になるつもりはないけど?」
挑むような言葉に胸の奥がひりつく。きっと私など、ただ通り過ぎるだけの相手のはずだ。これが、ずっと核心部分に触れさせてくれない彼の本心だなんて思えないのだから。
「それは……お互いさまじゃ?」
精一杯に強がって返してみる。私に可愛げがないなんて、はなから承知なのだろう。それを聞いた彼は口角を上げ、不敵とも言える笑みを浮かべた。
「……言うね。逃すつもりなんてないよ」
それ以上会話を続けることなく、彼はその距離を縮めてくる。
ゆっくり瞳を閉じると、彼の熱い唇が再び重なり、そのままゆっくりと、シーツの上に組み敷かれた。
優しいキスは、頑なだった私の心を溶かしていくようだ。けれどいつかまた、心に傷を負う予感もしていた。恋とも言えないこの関係の未来など想像できるはずもない。
もう恋なんてしないと、ずっと昔に決めた。念願だった、祖母が大切にしている会社に就職して、仕事のことだけ考えていこうと思っていた。
なのに、今それ以外のことに足を踏み出そうとしている。一度会うはずだっただけの、お見合い相手と。
彼の広い背中に腕を回す。危険な香りのする、秘密の多い彼の心に、少しでも近づいてみたくて。
たとえそれが、取り返しのつかない行為だったとしても――。
さっきまで体が燃え上がりそうなキスを交わしていたあとだというのに、彼は淡々とした口調で尋ねる。
まだ余韻の残る唇を動かせず、ただその端正な顔を見つめていると、彼はその声色とは裏腹に熱を宿した瞳を私に向けささやいた。
「これ以上進んだら……もう止められない。逃げるなら今のうちだ」
低く艶のある声と熱い吐息が頬を撫でると、体の奥から電流のような感覚が駆け上がってきた。
初めて感じるそのしびれに戸惑いながら、ごくりとつばを飲み込むと、私は覚悟を決めて切り出す。
「……何事も経験、ですから」
そんな遠回しな肯定をしながら、彼をじっと見つめ返す。その言葉が彼に届くと、その瞳は愛おしげに緩み、唇から楽しげに笑い声が漏れた。
「僕は君の、ただの経験相手の一人になるつもりはないけど?」
挑むような言葉に胸の奥がひりつく。きっと私など、ただ通り過ぎるだけの相手のはずだ。これが、ずっと核心部分に触れさせてくれない彼の本心だなんて思えないのだから。
「それは……お互いさまじゃ?」
精一杯に強がって返してみる。私に可愛げがないなんて、はなから承知なのだろう。それを聞いた彼は口角を上げ、不敵とも言える笑みを浮かべた。
「……言うね。逃すつもりなんてないよ」
それ以上会話を続けることなく、彼はその距離を縮めてくる。
ゆっくり瞳を閉じると、彼の熱い唇が再び重なり、そのままゆっくりと、シーツの上に組み敷かれた。
優しいキスは、頑なだった私の心を溶かしていくようだ。けれどいつかまた、心に傷を負う予感もしていた。恋とも言えないこの関係の未来など想像できるはずもない。
もう恋なんてしないと、ずっと昔に決めた。念願だった、祖母が大切にしている会社に就職して、仕事のことだけ考えていこうと思っていた。
なのに、今それ以外のことに足を踏み出そうとしている。一度会うはずだっただけの、お見合い相手と。
彼の広い背中に腕を回す。危険な香りのする、秘密の多い彼の心に、少しでも近づいてみたくて。
たとえそれが、取り返しのつかない行為だったとしても――。
あなたにおすすめの小説
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
半年間、俺の妻になれ〜幼馴染CEOのありえない求婚から始まる仮初の溺愛新婚生活〜 崖っぷち元社畜、会社が倒産したら玉の輿に乗りました!?
とろみ
恋愛
出勤したら会社が無くなっていた。
高瀬由衣(たかせゆい)二十七歳。金ナシ、職ナシ、彼氏ナシ。ついでに結婚願望も丸でナシ。
明日までに家賃を用意できなければ更に家も無くなってしまう。でも絶対田舎の実家には帰りたくない!!
そんな崖っぷちの由衣に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみで大企業CEOの宮坂直人(みやさかなおと)。
「なぁ、俺と結婚しないか?」
直人は縁談よけのため、由衣に仮初の花嫁役を打診する。その代わりその間の生活費は全て直人が持つという。
便利な仮初の妻が欲しい直人と、金は無いけど東京に居続けたい由衣。
利害の一致から始まった愛のない結婚生活のはずが、気付けばいつの間にか世話焼きで独占欲強めな幼なじみCEOに囲い込まれていて――。
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。