この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花

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07.秘密の場所

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「わわっ!」

 私は思わず声を上げた。振り返るとイズールが私の身体を持ち上げていた。
 彼は目を細めて笑う。

「ほら、中が見たいんだろ?」

 イズールが持ち上げてくれたおかげで、ぎりぎり中を覗くことができる。
 私は窓枠をつかみ、中を凝視した。
 教師が授業を続ける中、ルノーはまっすぐ教師を見つめていた。真剣な様子だ。

(『光の剣士』は勉強にも真面目なのね)

 声は聞こえない。これでは、偵察の意味がないようにも思えた。
 彼がほしいものはなんだろうか。

(窓、ちょっと開くかな……?)

 窓に手を伸ばした瞬間、ルノーと目があった。
 彼は驚きに目を見開く。その瞬間、私はバランスを崩した。

「わわわっ!」
「あっ!」

 私を支えていたイズールもバランスを崩す。
 一瞬にして、目の前に空が広がった。私はそのままゆっくりとイズールの上に落ちた。
 二人して地面に転がる。

「いたた……。レティシア姫、ごめんね」
「へーき。イズール、いたい?」
「平気だよ。レティシア姫はとっても軽いから」

 イズールは優しい笑みを浮かべた。
 幸い、二人とも怪我はないようだ。
 私たちは並んで腰を下ろす。

「どうしてルノーの部屋を覗きたかったの?」
「おにーたま、ほしいもの」
「ほしいもの?」
「ん」
「あ、もしかして、ルノーがほしいものが知りたいんだ?」

 私は頷いた。

「どうして?」
「あげたいの」
「ルノーに? ほしいものを?」

 私は再び頷く。

「どうして?」

(どうしてが多いな……)

 私はため息をつく。
 プレゼントは賄賂だ。生き抜くために必要なもの。そんなこと、王族であるイズールならば知っているだろう。
 しかも彼は第一王子。私のように賄賂を渡す側ではなく、たくさんの賄賂をもらう側だろう。

「……仲よくなる」
「ルノーと?」
「ん」
「仲よくなるために、ルノーのほしいものが知りたいんだね」
「ん。知ってる?」

 もしかしたら、イズールなら知っているかもしれない。
 二人は同じ年。しかも王族の長男だ。深い話もしているのではないか。

「んー……」

 イズールはしばらくのあいだ考えたあと、眉尻を下げて笑った。

「そんなの必要ないと思うな」
「なんで?」
「ルノーはレティシア姫からもうほしいものをもらってるからだよ」

(ほしいものをもらってる? 何もあげてないわ)

 まだ一つも何かをあげたことはない。
 私は首を傾げる。

「ふつうって言うから心配したけど、ちゃんと大好きなんだね。よかった」

 イズールは優しく微笑むと、私の頭を撫でる。意味がわからなくて、首の傾きが深くなった。

「ほら、来た」

 イズールが肩を揺らしながら笑う。そして、遠くを見た。その目線を追うと、走るルノーを見つける。

「レティ~!」

 大きな声で私の名を呼ぶ声。
 なぜ、あんなに必死なのだろうか。
 私が監視に来たと思って怒っている?
 それとも、またこっそりイズールと会ったことに感づいた?
 わからない。
 ルノーの気持ちがまったくわからない。
 ルノーは私のもとまでやってくると、膝を地につける。

「レティ。こんなところで何やってるんだ?」

 私は答えに窮した「偵察」とは言いにくい。しかし、こんなところで授業を覗いていたら、それ以外に理由などないのではないか。

「レティシア姫はルノーと仲よくなりたくて方法を探してるんだよ」

 イズールがカラカラと笑いながら言った。私はイズールをキッと睨む。
 狙いがバレてしまったら、ルノーに警戒されるではないか。

「さて、私は部屋に戻ろうかな。また遊ぼうね。レティシア姫」

 イズールは私の頭をポンポンと撫でて去って行った。
 残された私はひとりオロオロとするばかりだ。

「おにーたま、おべんきょ」
「終わったよ。だから、一緒に遊ぼう」

 ルノーは嬉しそうに笑う。
 これは、どういう感情だろうか?

(んん……わからない。怒りを押し殺してる?)

 前世のきょうだいにそういう男がいた。
 いつもニコニコと笑っているが、その笑顔は怒りを隠すものだったのだ。
 ルノーは私の手を取る。
 私はしかたなく立ち上がった。

(ルノーのことを知るにはちょうどいいのかも)

 いつもルノーに会うのは私の部屋だった。
 あとは食事の席。
 もう少し幼いころに何度かアランとシェリルも一緒に出かけた記憶はあるが、私はいつもシェリルの腕の中だったのだ。

「レティに秘密の場所、教えてあげる」

 ルノーがニカッと歯を見せて笑う。
 私は目を瞬かせた。
 秘密の場所。それはとても大切な場所ではないのか。
 それを妹なんかに教えていいのだろうか。いつ足をすくわれかねないこの時代に。

(私はそんなことしないけど)

 女王の座に興味はない。私の願いは長く生きること。そのために地盤を固めたいだけ。
 前世はそれに失敗して若くして処刑されてしまった。

 ルノーと私は手を繋ぎながら、庭園を歩いた。私の歩幅に合わせてか、ルノーの歩みはゆっくりだ。

「レティ、花は好き?」
「ふつう」
「そっか。ふつうか」

 ルノーが笑う。
 花は好きでも嫌いでもない。だって食べられないから。飢えを凌げないものに興味はない。
 みんな綺麗だと言うけれど、綺麗だからといって何になるのか。

「おにーたま、すき?」
「好きだよ」
「どーちて?」
「みんなが笑顔になるから」

 私は首を傾げた。笑顔になるから、好き。そんなものだろうか。私は風に揺れる花を見る。
 黄色い花だ。これは苦くて食べられたものじゃない。昔、三日食事にありつけず、後宮の端っこに咲いていたこれを食べたことがある。
 その花をルノーが一輪引き抜いた。
 そして、私の頭に飾る。

「ほら、かわいい」

 彼はいつもの笑顔で笑った。
 私は、花が飾られた辺りを小さな手で触る。

「見えない」
「そっか。そうだね。あとで鏡を見に行こう。今はこっち!」

 ルノーの足が少しだけ早くなる。どこか期待に満ちた目をしていた。
 だから、私は気づかなかったのだ。
 私たちを見つめる人影に。

 **

 三十分くらい歩いた。王宮の敷地は広い。
 三歳の足では端から端まで歩くのに一日かかってしまうかもしれない。

「よし、ついた。レティ、大丈夫?」
「ん」

 日々の鍛錬の賜物だろう。
 遊んでいるふりをして部屋中を歩き、身体を鍛え続けていたのだ。

「レティ。目をつぶって」
「ん」

 私は素直に瞼を閉じる。その様子を見て、満足したのか、ルノーは私の手を引いた。
 数歩歩く。暗闇の中を歩いているようで、少し不安だ。

「もういいよ、目を開けて」

 私はルノーの言葉通り目を開けた。
 思わず目を見開く。
 ここは王宮の庭園が一望できるようだ。

「綺麗だろ?」
「ん」

 花々が咲き乱れる庭園は美しいと言わざるを得ない。
 こんな綺麗な景色を見るのは初めてだった。
 庭園の奥には煉瓦造りの王宮が建っている。

「あれが僕たちが暮らしている王宮」

 ルノーが指を差して説明する。しかし、あまりの美しさに返事ができなかった。

「で、あっちにある建物がイズールがいるところ」

 王宮は夕日を浴び、赤く染まる。
 私の部屋からも庭園を見下ろすことはできた。けれど、ここまでの感動を覚えたことはない。
 なぜだろうか。

「ここを見つけたとき、ずっとレティに教えなきゃって思ってたんだ」

 ルノーがわずかに頬を染めてはにかむ。
 不思議だ。その笑顔は疑いようがない優しさに感じる。
 なぜ、私にここまでしてくれるのだろうか。
 兄妹なのに。
 いつか、裏切るかもしれないのに。
 この優しさの形はなんなのだろうか。
 私は知らない。

 すると、後ろから唸り声が聞こえた。
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