この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花

文字の大きさ
6 / 41

06.おにーたま

 私とイズールは二人で目を瞬かせた。

「おにーたま」

 ルノーは勢いよく私に抱き着く。頬をこすり合わせるのも忘れない。

「レティ! ひとりでイズールのところに行ったって聞いたから心配したよ」
「へーき」
「そんなことない。階段でこけたらどうするんだ? 次は僕も一緒に行くから言うんだよ?」

 ルノーは心配なのだろう。
 私がイズールと結託して、ルノーの足をすくわないか。だから、勝手な真似はするなと言いたいのだろう。
 ルノーに立てつく気はない。私はけっしてこの国の女王になりたいわけではないからだ。
 だから、私は彼の言葉に素直に頷いた。

「イズール、妹の相手をしてくれてありがとう」
「いいや。私も楽しく過ごせたよ。ね? レティシア姫」
「ん」
「なら、よかった」

 ルノーは安堵のため息をつく。

(もしかして、ルノーは私が粗相をしてサシュエント王国との関係が悪くなることを心配してる?)

 イズールは第一王子。順当にいけば王位を継承する。そして、ルノーもこのリオーク王国の王太子だ。
 心配するのも頷ける。
 私はふわっとあくびをした。
 いつもなら昼寝の時間だ。この身体は融通が利かない。
 何度目をこすっても眠気は消えなかった。

「レティシア姫、もしかして眠い?」
「この時間はいつもお昼寝だから」
「船漕いでる。かわいいなぁ」

 遠くで二人の声が聞こえる。
 何か言いたいことがあったのだが、私はそのまま夢の世界に引きずられた。

 **

 ルノーは傾いたレティシアの身体を支えた。
 幼い妹は規則正しく、この時間に昼寝をする。いつも会いに行っているからわかるのだ。
 会話ができないのは寂しいが、寝顔を見るだけでも癒された。
 ルノーはレティシアに上着をかけてやる。

「本当に妹が好きなんだね」

 イズールが目を細めて笑った。

「僕はずっと、きょうだいがほしかったから」

 ルノーはレティシアの前髪を撫でる。ルノーにとって、悲願の妹だった。
 ルノーには友人が数人いる。けれど、彼らはルノーのことを王太子として扱った。
 特別な存在。
 友人のようでいてそうではない。そんな関係だ。どうしてか、すごく孤独を感じた。
 もし、きょうだいが生まれたら、ルノーはひとりではなくなる。だから、母がレティシアを産んだとき、とても嬉しかった。そして、自分が全力で守ろうと決めたのだ。
 自分のように寂しくないように。

「レティシア姫は不思議な子だね」
「かわいいだろ?」
「ああ、とても」
「やらないからな」

 ルノーはイズールをキッと睨む。レティシアはまだ三歳。結婚相手を見つけるには早い。
 それにイズールと結婚ともなれば、レティシアは海の向こう側に行くことになるのだ。しかも王妃にでもなったら、気軽には会えなくなる。

(それは絶対にだめだ!)

 イズールは肩を揺らして笑った。

 **

 どういうわけか目を覚ますと、部屋に戻っていた。
 私は何度も目をこする。やはり、ここは私の部屋だ。
 さきほどまでイズールの部屋にいたというのに。

(帰ってきた?)

「おはようございます。レティシア様」
「おはよ。あたち、帰ってきた?」
「陛下がここまで連れてきてくださいましたよ」
「おとーたま?」

 私は首を傾げる。
 なぜ、アランがそこで現れるのかわからなかった。

(ルノーが来たのは覚えているけど……)

 アランは執務の時間たったのではないのか。しかし、八歳の子どもが眠っている三歳の子どもを担いで移動するのは難しいだろう。

「陛下は遠くまでお出かけに行ったレティシア様が心配だったのですよ」

 ルノーのみならず、アランにまで心配されてしまった。
 まだ私は彼らの信頼を勝ち取れていないらしい。

(もっとしっかりしないと!)

 私は両手で両頬をペチンと叩く。
 信頼を勝ち取るのは難しい。アランやルノーが望んでいることがわかればいいのだが、それすら彼らは教えてくれないのだ。
「なにほしい?」と聞いても、「なんでもいい」と返されることが多い。

(そうだ! 待っていても始まらない。調査をしよう)

 私は立ち上がった。

「あら? レティシア様、どうされました?」
「にーたまのとこ」
「ルノー様のところですか?」
「ん」
「でも、ルノー様はお勉強中ですから、遊ぶのは難しいかと」
「へーき。みゆだけ」

 そう、見るだけ。偵察するだけだ。
 私がいない日常生活の中に、彼のほしいもののヒントが隠されているかもしれない。
 二人のメイドは顔を見合わせる。しかし、私が歩き出せば、しかたないとばかりについてきた。
 魔法を使えばほんの少しの時間、彼の様子を見ることはできる。しかし、長い時間見るにはマナが足りない。
 長時間観察するのであれば、直接行くほうが手っ取り早い。

 ルノーの授業は王族の住居の一階で行われているらしい。
 二階よりも上は王族のプライベート空間のため、使用人の他は客人でも入るのが難しいようだ。
 ルノーがどの部屋にいるのかはメイドが教えてくれた。
 大きな扉の先で授業が行われているらしい。
 しかし、この扉を開けてしまえば見つかってしまうだろう。

「これ以上はルノー様のお勉強の邪魔になってしまいますから、戻りましょう」
「だめ」

 それでは来た意味がなくなってしまう。
 しかし、扉を堂々と開ければ偵察ではなくなってしまうだろう。
 私は眉根を寄せた。

「そうだ!」

(いいことを思いついた!)

 私は走り出す。

「レティシア様っ! お待ちください!」
「ここで待ってて」

 私はにこりと笑って言うと、メイドたちのことなど気にせず外に出てぐるりと庭園に向かった。ちょうどルノーの授業に使われている部屋は庭園に面している。
 窓の外から見れば、いいではないか。
 しかし、私は窓を呆然と見上げた。

(見えない……)

 三歳の子供の身長は、窓枠よりも下。
 手を伸ばしてギリギリ窓枠を触ることができる。しかし、私の筋力では自身の身体を持ち上げることは難しいだろう。
 すると、突然身体がふわりと浮いた。
感想 11

あなたにおすすめの小説

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

弟に前世を告白され、モブの私は悪役になると決めました

珂里
ファンタジー
第二王子である弟に、ある日突然告白されました。 「自分には前世の記憶がある」と。 弟が言うには、この世界は自分が大好きだったゲームの話にそっくりだとか。 腹違いの王太子の兄。側室の子である第二王子の弟と王女の私。 側室である母が王太子を失脚させようと企み、あの手この手で計画を実行しようとするらしい。ーーって、そんなの駄目に決まってるでしょ!! ……決めました。大好きな兄弟達を守る為、私は悪役になります!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

過保護すぎる家族に囲まれて育ったら、外の世界が危険すぎました 〜冷酷公爵の父と最強兄たちに溺愛される日々〜

由香
恋愛
過保護な父と兄たちに囲まれて育った少女。 初めての外は危険だらけ——のはずが、全部“秒で解決”。 溺愛×コメディ×ほんのり成長の、ほっこり家族物語。