8 / 42
第8話「辺境の危機」
しおりを挟む
カイルは私たちに深々と頭を下げながら言った。
「無理を承知で...我らにご助力願えないだろうか。先ほどの精霊術を見ましたが、素晴らしいものだった。聞くところによれば、精霊術は結界構築にも優れているとか。辺境の防備構築に力を貸していただきたいのです」
「そ、それは...私は精霊術なんて全然使えなくて...その、たった今はじめて使ったんです...」
「なんと、はじめて?」
恐縮する私を見て、カイルはひどく驚いたようだった。
するとアキュラがうんうん、と頷きながらとんでもないことを言い出した。
「そうなんだよ、彼女には才能があってね。私と彼女がいれば防御結界の構築もできると思うよ」
「なんと...」
息を呑んだのは、カイルだけではなく私もだ。
魔法がからっきしの私が、防御結界の構築?
「で、でも私は魔法も使えないし...」
「そりゃそうだ。魔法と精霊術は別物だからね。むしろ、精霊術の簡易版が魔法なのだから」
とんでもないこと精霊王が言い出した。
「か、簡易版...?」
「そうだとも。本来自然に満ちている魔力を引き出す、という意味ではどちらも根っこは同じだがね。魔力との親和性は我ら精霊の方が圧倒的に高い。なぜなら、高濃度の魔力が凝集したものに魂が宿った存在こそが我ら精霊だからな。ゆえに、精霊を通じて魔力を行使する精霊術の方が高性能なのさ」
さも当然のことのようにアキュラが説明した。意外なことに、カイルも違和感なく受け止めているようだ。
「然り。魔法はあくまでも精霊術が使えぬ人間が、詠唱と魔具を通じて無理やり魔力を引き出すもの...我らの祖先に伝わる書物にもそう書いてありました」
「で、でも魔法学院ではそんな話は...」
「それはわざわざ言わないだろう。魔法が実は精霊術の下位互換でしかない、なんて魔法使いたちが認めると思うかね?かつてのように力ある精霊使いたちがいるならばともかく、もういないのだから」
「仰る通りです。精霊使いたちがこの国...いや、この地上から消えて数百年と言われています。我が祖先も精霊使いだったと言いましたが、私自身もかろうじて精霊は見えるものの、力を引き出すことはできませぬ」
「しかし、このエレナは違うんだな~」
呑気に私を指差してアキュラはにこにこと微笑んだ。
「多少の訓練は必要だと思うが、すぐにあらゆる精霊術を使いこなせるようになるだろうね」
「ほ、本当にそんなことが?」
いきなりそんなことを言われても信じられないが、アキュラはぽんぽんと私の肩を叩いた。
「ま、大事なことはそこじゃないだろう。要するに、できるかできないかの問題ではない。君がそれを望むかどうか、じゃないかな?」
そういって、アキュラは真剣な表情になった。それを見たカイルも、はっとしたように私を見た。
「...おっしゃる通り。私のお願いは身勝手なものと承知しております。ですが、辺境を突破されればその先にいるのは無辜の民たちです。力なき彼らを何としても守りたい。...ですが、無理強いはできません。ただ伏してお願い申し上げるのみ」
そういって再びカイルは深々と頭を下げた。どこまでも真摯なその思いに、私の心はどうしようもなく動かされていることを自覚する。もし、私にできることがあるなら...私を求めてくれる人々がいるならば。それを知ってなお何もしないでいるのは、ひどく卑怯なことに思えた。
この誠実そうな騎士が、今日出会ったばかりの小娘に頭を下げるというのが、どれほどの異常事態かはさすがに私にもわかる。王都を取り巻く政情や貴族たちの思惑は、騎士団長とはいえ、辺境の一部隊を率いるにすぎない彼にどうにかできるほど単純ではないのだろう。また、ことの重大性が理解できる人材が中央にいないか、いても力を持っていないということでもある。それがどれほど恐ろしいことかはなんとなく理解できた。
「ちなみに私は、君がどういう選択をしても応援するよ。実を言うと...前も言ったけれど、しゃしゃり出るつもりはなかったんだ。私としては、君が幸せに生きてくれればいいんだからね。ただ、君を励ましたいと思った結果が...まぁこういう事態になってしまった。だから責任はきちんと取って、私にできることは全部やるよ」
アキュラはそう言ってふたたび優しく微笑んだ。その微笑みが、わずかに私の胸にわだかまっていた躊躇いを、春光が雪を溶かすように消し去ってくれた。
「わたしにできることがあるなら...お役に立ちたいです。父上もきっと理解してくださるでしょう」
後から思えば、カイルにそう答えた瞬間、私の新たな人生がはじまっていたのだった。
「無理を承知で...我らにご助力願えないだろうか。先ほどの精霊術を見ましたが、素晴らしいものだった。聞くところによれば、精霊術は結界構築にも優れているとか。辺境の防備構築に力を貸していただきたいのです」
「そ、それは...私は精霊術なんて全然使えなくて...その、たった今はじめて使ったんです...」
「なんと、はじめて?」
恐縮する私を見て、カイルはひどく驚いたようだった。
するとアキュラがうんうん、と頷きながらとんでもないことを言い出した。
「そうなんだよ、彼女には才能があってね。私と彼女がいれば防御結界の構築もできると思うよ」
「なんと...」
息を呑んだのは、カイルだけではなく私もだ。
魔法がからっきしの私が、防御結界の構築?
「で、でも私は魔法も使えないし...」
「そりゃそうだ。魔法と精霊術は別物だからね。むしろ、精霊術の簡易版が魔法なのだから」
とんでもないこと精霊王が言い出した。
「か、簡易版...?」
「そうだとも。本来自然に満ちている魔力を引き出す、という意味ではどちらも根っこは同じだがね。魔力との親和性は我ら精霊の方が圧倒的に高い。なぜなら、高濃度の魔力が凝集したものに魂が宿った存在こそが我ら精霊だからな。ゆえに、精霊を通じて魔力を行使する精霊術の方が高性能なのさ」
さも当然のことのようにアキュラが説明した。意外なことに、カイルも違和感なく受け止めているようだ。
「然り。魔法はあくまでも精霊術が使えぬ人間が、詠唱と魔具を通じて無理やり魔力を引き出すもの...我らの祖先に伝わる書物にもそう書いてありました」
「で、でも魔法学院ではそんな話は...」
「それはわざわざ言わないだろう。魔法が実は精霊術の下位互換でしかない、なんて魔法使いたちが認めると思うかね?かつてのように力ある精霊使いたちがいるならばともかく、もういないのだから」
「仰る通りです。精霊使いたちがこの国...いや、この地上から消えて数百年と言われています。我が祖先も精霊使いだったと言いましたが、私自身もかろうじて精霊は見えるものの、力を引き出すことはできませぬ」
「しかし、このエレナは違うんだな~」
呑気に私を指差してアキュラはにこにこと微笑んだ。
「多少の訓練は必要だと思うが、すぐにあらゆる精霊術を使いこなせるようになるだろうね」
「ほ、本当にそんなことが?」
いきなりそんなことを言われても信じられないが、アキュラはぽんぽんと私の肩を叩いた。
「ま、大事なことはそこじゃないだろう。要するに、できるかできないかの問題ではない。君がそれを望むかどうか、じゃないかな?」
そういって、アキュラは真剣な表情になった。それを見たカイルも、はっとしたように私を見た。
「...おっしゃる通り。私のお願いは身勝手なものと承知しております。ですが、辺境を突破されればその先にいるのは無辜の民たちです。力なき彼らを何としても守りたい。...ですが、無理強いはできません。ただ伏してお願い申し上げるのみ」
そういって再びカイルは深々と頭を下げた。どこまでも真摯なその思いに、私の心はどうしようもなく動かされていることを自覚する。もし、私にできることがあるなら...私を求めてくれる人々がいるならば。それを知ってなお何もしないでいるのは、ひどく卑怯なことに思えた。
この誠実そうな騎士が、今日出会ったばかりの小娘に頭を下げるというのが、どれほどの異常事態かはさすがに私にもわかる。王都を取り巻く政情や貴族たちの思惑は、騎士団長とはいえ、辺境の一部隊を率いるにすぎない彼にどうにかできるほど単純ではないのだろう。また、ことの重大性が理解できる人材が中央にいないか、いても力を持っていないということでもある。それがどれほど恐ろしいことかはなんとなく理解できた。
「ちなみに私は、君がどういう選択をしても応援するよ。実を言うと...前も言ったけれど、しゃしゃり出るつもりはなかったんだ。私としては、君が幸せに生きてくれればいいんだからね。ただ、君を励ましたいと思った結果が...まぁこういう事態になってしまった。だから責任はきちんと取って、私にできることは全部やるよ」
アキュラはそう言ってふたたび優しく微笑んだ。その微笑みが、わずかに私の胸にわだかまっていた躊躇いを、春光が雪を溶かすように消し去ってくれた。
「わたしにできることがあるなら...お役に立ちたいです。父上もきっと理解してくださるでしょう」
後から思えば、カイルにそう答えた瞬間、私の新たな人生がはじまっていたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの
鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」
そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。
ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。
誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。
周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」
――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。
そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、
家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。
だが、彼女の予言は本物だった――
数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。
国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、
あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。
「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」
皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、
滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。
信じてもらえなかった過去。
それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。
そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。
――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!
satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。
私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。
私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。
お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。
眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!
私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね?
みこと。
恋愛
鉛色の髪と目を持つクローディアは"鉱石姫"と呼ばれ、婚約者ランバートからおざなりに扱われていた。
「俺には"宝石姫"であるタバサのほうが相応しい」そう言ってランバートは、新年祭のパートナーに、クローディアではなくタバサを伴う。
(あんなヤツ、こっちから婚約破棄してやりたいのに!)
現代日本にはなかった身分差のせいで、伯爵令嬢クローディアは、侯爵家のランバートに逆らえない。
そう、クローディアは転生者だった。現代知識で鉱石を扱い、カイロはじめ防寒具をドレス下に仕込む彼女は、冷えに苦しむ他国の王女リアナを助けるが──。
なんとリアナ王女の正体は、王子リアンで?
この出会いが、クローディアに新しい道を拓く!
※小説家になろう様でも「私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね? 〜不実な婚約者を見限って。冷え性令嬢は、熱愛を希望します」というタイトルで掲載しています。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした
みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。
会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。
そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。
『殺されたはずの公爵令嬢は、幽霊として王太子を断罪します』
鍛高譚
恋愛
死んだはずの公爵令嬢――いえ、死んでませんけど、幽霊始めました。
婚約者である王太子アルファルドに突然、婚約破棄を言い渡されたユウナ・アストラル。
しかも彼は、次の婚約者セレスティナとの未来のために、ユウナの両親を「事故」に見せかけて殺害し、ユウナ自身まで――。
けれどユウナは死ななかった。瀕死の彼女が目覚めたのは、幽体化というスキルを得た“不完全な死”の状態。
それならば、生きているとは言えない。でも、死んでもいない。
ならば今の私は――幽霊になって復讐しても、いいでしょう?
正体不明の「亡霊」として、王太子と新しい婚約者をじわじわと恐怖に落とすユウナ。
しかし、真の目的は“復讐”では終わらない――。
王宮で、社交界で、玉座の間で。
すべての罪を暴き、偽りの王子を地獄に突き落とす“ざまぁ”の舞台は整った!
これは、「死んでないけど幽霊になった」令嬢が、人生を取り戻しに行く痛快・逆転ラブファンタジー。
彼女の本当の人生は、“幽霊”になってから始まった――!
-
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる