【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん

文字の大きさ
9 / 42

第9話 「北への旅立ち」

しおりを挟む
「さーてお嬢様?さっきのイケメン騎士はどこで引っかけたんですか?ってかやばくないですか何あれ顔綺麗すぎんだろ紹介しろ」

「...えー、だいぶ地が出ちゃっているようだけど」

準備ができたら迎えにくると言い残してガーデンを立ち去ったカイルを送り出すやいなや、興奮した様子でサキが早口でまくし立て手きた。

「おほほほたいへん失礼しましたお嬢様。それで、実際のところどなたなんです」

「本当にさっき知り合ったばかりよ。北の騎士団の団長さんで、魔獣に手を焼いているらしいの...それで、私の精霊術を頼らせて欲しいと」

「ちょっと待ってください、今さりげなく精霊術とか言いました?お嬢様いつの間に精霊術を?」

さすがにそこは突っ込んできたか。やはり、この信頼できる侍女には全てを話しておくのが良さそうだ。
そう思ってアキュラの方を見ると、アキュラも同意だと言わんばかりに頷いた。

「えーかくかくしかじかそんなわけで...」

アキュラとの出会いから先ほどの精霊術の発動までをかいつまんでサキに説明した。
我ながら突拍子もない話だとは思うが、この長年の友は微塵も疑うことなく聞いてくれたのだった。

「いやーやっぱりその辺に何かいると思ったんですよ!」

「どうも何かこと精霊王アキュラだ。よろしくな」

「言っときますけど、お嬢様に何かあったら私が許しませんから。しっかり頼みますよ」

精霊王の肩書きには一ミリも怯むことなくサキがアキュラを脅しつけた。なんだかんだ主人思いの付き人である。

「おお怖い。まぁお手柔らかに頼むよ」

などと早速楽しげに会話しているこの2人だが、これはサキにも精霊がはっきりと見えるよう精霊術を行使した結果である。

「精霊が見えるようになる精霊術...そんな都合のいい術があるなんて」

「精霊王だぞ?そして君という特別な存在。私らが組めばだいたいのことはできるのさ」

「それじゃああのイケメンを私にベタ惚れされることは」

「まぁそれもできなくはないが...それで嬉しいのかね?」

ぐっとサキが言葉に詰まり、私とアキュラは吹き出してしまう。
スレたようなことを言っておいて、実は結構純真らしかった。

「冗談はさておき、出立はいつになさいますか?一度ご自宅に戻られて、お父上にお許しをいただきますか?」

「いえ、一刻を争う事態のようだし...明朝には立ちます。父上にはサイラスから伝えてもらいましょう」

本音を言うと、父に会って決心が鈍るのが怖い気がしたのだ。時には、勢いに乗った決断が必要な時もある。
今がその時だと、なんとはなしに確信していた。

「では、すぐにでも?」

「ええ。荷造りをお願い。おそらく途中までは街道沿いでしょうから、そこまで大仰な準備は必要ないでしょう」

「かしこまりました」

ーそして迎えた翌朝。

すっかり旅の準備が整った馬車の馭者席にサキが得意げに座り、迎えにきたカイルに盛んに視線を送っていた。
もっとも、表情がいつものお澄ましモードなのもあってか、カイルはサキのアピールにてんで気づかない様子だ。

「エレナ嬢、本当に感謝申し上げる。我が騎士団までは私が責任を持ってお守りしますが、数日はかかるでしょう」

おそらくカイルのみなら馬を飛ばせばもっと早く着くのだろうが、馬車の私を気づかった旅程に違いなかった。

「わかりました。よろしくお願いします。...ではサイラス、父上にくれぐれもよろしくね」

「お嬢様...どうかお気をつけて...」

心配そうに見送ってくれるサイラスに別れを告げ、馬車に乗り込んだ。もちろんアキュラも共にだ。

「では、参りましょう」

カイルとサキが馬にそれぞれ軽く鞭を当てる。
ゴトゴトと馬車が動き出し、生気を取り戻して美しく咲き誇るガーデンが少しずつ遠ざかっていく。
そういえば、せっかく綺麗な状態に戻したのに、ろくに鑑賞する暇もないのだった。
次に帰ってくる時は、ゆっくりと散策をしようと決意する。

「いよいよだね」

馬車に同乗したアキュラがそう聞いてくれた。

「...ええ」

私は正直に頷いた。不安がないわけがない。

「心配かな?」

「精霊術のことよりも、私は世の中のことを何も知らないから、そこね」

「逆だよ逆、これから知ればいいのさ」

そう気楽に言ってのけるのは、アキュラなりに励まそうという気持ちなのだろう。

「そうね...」

ともすれば込み上げてくる不安を振り払うように、馬車の外の流れる景色へと視線を外した。
馬車のすぐ隣を、カイルが巧みに馬を駆って並走してくれていた。
その横顔は朝の陽光を受けて煌めいているように見えた。絵になるとはこういう人のことを言うのだろう。
私の視線を感じたのか、カイルが馬車のほうへ少し馬を寄せてくれた。

「調子はいかがか」

「だ...だいじょうぶです」

こっそり見つめていたのがバレていやしないかとドギマギして、少しどもってしまった。
カイルはほんのわずかに表情を緩めて(そんな気がしただけかもしれないが)励ますように言葉を継いだ。

「昼過ぎにはエルグランデの街に着きます。そこで一息入れましょう」

エルグランデは王都から北方に位置する衛星都市で、ここに行くぐらいは旅したうちには入らない。
しかし、カイルは私を気遣って早めに休憩地を設定してくれたようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。

さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。 聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。 だが、辺境の村で暮らす中で気づく。 私の力は奇跡を起こすものではなく、 壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。 一方、聖女として祭り上げられた彼女は、 人々の期待に応え続けるうち、 世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

『婚約もしていないのに婚約破棄ですか? 〜岩塩で殴れば目が覚めます?〜』

しおしお
恋愛
「岩を売る田舎娘と婚約?そんなもの破棄だ!」 ――そう言い放ったのは、まだ婚約すら成立していないのに“婚約破棄”を宣言した内陸王国の王太子。 塩は海から来るもの。 白く精製された粉こそ本物。 岩塩など不純物の塊に過ぎない。 そう思い込んだ彼は、ハライト公国公爵令嬢ヴィエリチカを侮辱し、交易を軽んじた。 だが―― 王都に届くその“白い粉”は、すべてハライト産の岩塩から精製されたものだった。 供給が止まった瞬間、王国は気づく。 塩は保存であり、兵站であり、治療であり、冬越しの生命線であったことを。 謝罪の席で提示された条件はただ一つ。 民への販売価格は据え置き。 だが国家は十倍で買い取ること。 誇りを守るために契約を受け入れた王太子。 守られたのは民。 削られたのは国家。 やがて赤字は膨らみ、担保は差し出され、王国は静かに編入されていく。 処刑はない。 復讐もない。 あるのは――帰結。 「塩は、穢れを流すためのものです」 笑顔で告げるヴィエリチカと、 王宮衛生管理局へ配属された元王太子。 これは、岩塩を侮った物語の、静かな終着点。 --- もしアルファポリス向けにもう少し軽くする版も欲しければ、作ります。 それとも、 ・タグもまとめる? ・もっと煽る版にする? ・文学寄りにする? どの方向で仕上げますか?

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

処理中です...