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第9話 「北への旅立ち」
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「さーてお嬢様?さっきのイケメン騎士はどこで引っかけたんですか?ってかやばくないですか何あれ顔綺麗すぎんだろ紹介しろ」
「...えー、だいぶ地が出ちゃっているようだけど」
準備ができたら迎えにくると言い残してガーデンを立ち去ったカイルを送り出すやいなや、興奮した様子でサキが早口でまくし立て手きた。
「おほほほたいへん失礼しましたお嬢様。それで、実際のところどなたなんです」
「本当にさっき知り合ったばかりよ。北の騎士団の団長さんで、魔獣に手を焼いているらしいの...それで、私の精霊術を頼らせて欲しいと」
「ちょっと待ってください、今さりげなく精霊術とか言いました?お嬢様いつの間に精霊術を?」
さすがにそこは突っ込んできたか。やはり、この信頼できる侍女には全てを話しておくのが良さそうだ。
そう思ってアキュラの方を見ると、アキュラも同意だと言わんばかりに頷いた。
「えーかくかくしかじかそんなわけで...」
アキュラとの出会いから先ほどの精霊術の発動までをかいつまんでサキに説明した。
我ながら突拍子もない話だとは思うが、この長年の友は微塵も疑うことなく聞いてくれたのだった。
「いやーやっぱりその辺に何かいると思ったんですよ!」
「どうも何かこと精霊王アキュラだ。よろしくな」
「言っときますけど、お嬢様に何かあったら私が許しませんから。しっかり頼みますよ」
精霊王の肩書きには一ミリも怯むことなくサキがアキュラを脅しつけた。なんだかんだ主人思いの付き人である。
「おお怖い。まぁお手柔らかに頼むよ」
などと早速楽しげに会話しているこの2人だが、これはサキにも精霊がはっきりと見えるよう精霊術を行使した結果である。
「精霊が見えるようになる精霊術...そんな都合のいい術があるなんて」
「精霊王だぞ?そして君という特別な存在。私らが組めばだいたいのことはできるのさ」
「それじゃああのイケメンを私にベタ惚れされることは」
「まぁそれもできなくはないが...それで嬉しいのかね?」
ぐっとサキが言葉に詰まり、私とアキュラは吹き出してしまう。
スレたようなことを言っておいて、実は結構純真らしかった。
「冗談はさておき、出立はいつになさいますか?一度ご自宅に戻られて、お父上にお許しをいただきますか?」
「いえ、一刻を争う事態のようだし...明朝には立ちます。父上にはサイラスから伝えてもらいましょう」
本音を言うと、父に会って決心が鈍るのが怖い気がしたのだ。時には、勢いに乗った決断が必要な時もある。
今がその時だと、なんとはなしに確信していた。
「では、すぐにでも?」
「ええ。荷造りをお願い。おそらく途中までは街道沿いでしょうから、そこまで大仰な準備は必要ないでしょう」
「かしこまりました」
ーそして迎えた翌朝。
すっかり旅の準備が整った馬車の馭者席にサキが得意げに座り、迎えにきたカイルに盛んに視線を送っていた。
もっとも、表情がいつものお澄ましモードなのもあってか、カイルはサキのアピールにてんで気づかない様子だ。
「エレナ嬢、本当に感謝申し上げる。我が騎士団までは私が責任を持ってお守りしますが、数日はかかるでしょう」
おそらくカイルのみなら馬を飛ばせばもっと早く着くのだろうが、馬車の私を気づかった旅程に違いなかった。
「わかりました。よろしくお願いします。...ではサイラス、父上にくれぐれもよろしくね」
「お嬢様...どうかお気をつけて...」
心配そうに見送ってくれるサイラスに別れを告げ、馬車に乗り込んだ。もちろんアキュラも共にだ。
「では、参りましょう」
カイルとサキが馬にそれぞれ軽く鞭を当てる。
ゴトゴトと馬車が動き出し、生気を取り戻して美しく咲き誇るガーデンが少しずつ遠ざかっていく。
そういえば、せっかく綺麗な状態に戻したのに、ろくに鑑賞する暇もないのだった。
次に帰ってくる時は、ゆっくりと散策をしようと決意する。
「いよいよだね」
馬車に同乗したアキュラがそう聞いてくれた。
「...ええ」
私は正直に頷いた。不安がないわけがない。
「心配かな?」
「精霊術のことよりも、私は世の中のことを何も知らないから、そこね」
「逆だよ逆、これから知ればいいのさ」
そう気楽に言ってのけるのは、アキュラなりに励まそうという気持ちなのだろう。
「そうね...」
ともすれば込み上げてくる不安を振り払うように、馬車の外の流れる景色へと視線を外した。
馬車のすぐ隣を、カイルが巧みに馬を駆って並走してくれていた。
その横顔は朝の陽光を受けて煌めいているように見えた。絵になるとはこういう人のことを言うのだろう。
私の視線を感じたのか、カイルが馬車のほうへ少し馬を寄せてくれた。
「調子はいかがか」
「だ...だいじょうぶです」
こっそり見つめていたのがバレていやしないかとドギマギして、少しどもってしまった。
カイルはほんのわずかに表情を緩めて(そんな気がしただけかもしれないが)励ますように言葉を継いだ。
「昼過ぎにはエルグランデの街に着きます。そこで一息入れましょう」
エルグランデは王都から北方に位置する衛星都市で、ここに行くぐらいは旅したうちには入らない。
しかし、カイルは私を気遣って早めに休憩地を設定してくれたようだった。
「...えー、だいぶ地が出ちゃっているようだけど」
準備ができたら迎えにくると言い残してガーデンを立ち去ったカイルを送り出すやいなや、興奮した様子でサキが早口でまくし立て手きた。
「おほほほたいへん失礼しましたお嬢様。それで、実際のところどなたなんです」
「本当にさっき知り合ったばかりよ。北の騎士団の団長さんで、魔獣に手を焼いているらしいの...それで、私の精霊術を頼らせて欲しいと」
「ちょっと待ってください、今さりげなく精霊術とか言いました?お嬢様いつの間に精霊術を?」
さすがにそこは突っ込んできたか。やはり、この信頼できる侍女には全てを話しておくのが良さそうだ。
そう思ってアキュラの方を見ると、アキュラも同意だと言わんばかりに頷いた。
「えーかくかくしかじかそんなわけで...」
アキュラとの出会いから先ほどの精霊術の発動までをかいつまんでサキに説明した。
我ながら突拍子もない話だとは思うが、この長年の友は微塵も疑うことなく聞いてくれたのだった。
「いやーやっぱりその辺に何かいると思ったんですよ!」
「どうも何かこと精霊王アキュラだ。よろしくな」
「言っときますけど、お嬢様に何かあったら私が許しませんから。しっかり頼みますよ」
精霊王の肩書きには一ミリも怯むことなくサキがアキュラを脅しつけた。なんだかんだ主人思いの付き人である。
「おお怖い。まぁお手柔らかに頼むよ」
などと早速楽しげに会話しているこの2人だが、これはサキにも精霊がはっきりと見えるよう精霊術を行使した結果である。
「精霊が見えるようになる精霊術...そんな都合のいい術があるなんて」
「精霊王だぞ?そして君という特別な存在。私らが組めばだいたいのことはできるのさ」
「それじゃああのイケメンを私にベタ惚れされることは」
「まぁそれもできなくはないが...それで嬉しいのかね?」
ぐっとサキが言葉に詰まり、私とアキュラは吹き出してしまう。
スレたようなことを言っておいて、実は結構純真らしかった。
「冗談はさておき、出立はいつになさいますか?一度ご自宅に戻られて、お父上にお許しをいただきますか?」
「いえ、一刻を争う事態のようだし...明朝には立ちます。父上にはサイラスから伝えてもらいましょう」
本音を言うと、父に会って決心が鈍るのが怖い気がしたのだ。時には、勢いに乗った決断が必要な時もある。
今がその時だと、なんとはなしに確信していた。
「では、すぐにでも?」
「ええ。荷造りをお願い。おそらく途中までは街道沿いでしょうから、そこまで大仰な準備は必要ないでしょう」
「かしこまりました」
ーそして迎えた翌朝。
すっかり旅の準備が整った馬車の馭者席にサキが得意げに座り、迎えにきたカイルに盛んに視線を送っていた。
もっとも、表情がいつものお澄ましモードなのもあってか、カイルはサキのアピールにてんで気づかない様子だ。
「エレナ嬢、本当に感謝申し上げる。我が騎士団までは私が責任を持ってお守りしますが、数日はかかるでしょう」
おそらくカイルのみなら馬を飛ばせばもっと早く着くのだろうが、馬車の私を気づかった旅程に違いなかった。
「わかりました。よろしくお願いします。...ではサイラス、父上にくれぐれもよろしくね」
「お嬢様...どうかお気をつけて...」
心配そうに見送ってくれるサイラスに別れを告げ、馬車に乗り込んだ。もちろんアキュラも共にだ。
「では、参りましょう」
カイルとサキが馬にそれぞれ軽く鞭を当てる。
ゴトゴトと馬車が動き出し、生気を取り戻して美しく咲き誇るガーデンが少しずつ遠ざかっていく。
そういえば、せっかく綺麗な状態に戻したのに、ろくに鑑賞する暇もないのだった。
次に帰ってくる時は、ゆっくりと散策をしようと決意する。
「いよいよだね」
馬車に同乗したアキュラがそう聞いてくれた。
「...ええ」
私は正直に頷いた。不安がないわけがない。
「心配かな?」
「精霊術のことよりも、私は世の中のことを何も知らないから、そこね」
「逆だよ逆、これから知ればいいのさ」
そう気楽に言ってのけるのは、アキュラなりに励まそうという気持ちなのだろう。
「そうね...」
ともすれば込み上げてくる不安を振り払うように、馬車の外の流れる景色へと視線を外した。
馬車のすぐ隣を、カイルが巧みに馬を駆って並走してくれていた。
その横顔は朝の陽光を受けて煌めいているように見えた。絵になるとはこういう人のことを言うのだろう。
私の視線を感じたのか、カイルが馬車のほうへ少し馬を寄せてくれた。
「調子はいかがか」
「だ...だいじょうぶです」
こっそり見つめていたのがバレていやしないかとドギマギして、少しどもってしまった。
カイルはほんのわずかに表情を緩めて(そんな気がしただけかもしれないが)励ますように言葉を継いだ。
「昼過ぎにはエルグランデの街に着きます。そこで一息入れましょう」
エルグランデは王都から北方に位置する衛星都市で、ここに行くぐらいは旅したうちには入らない。
しかし、カイルは私を気遣って早めに休憩地を設定してくれたようだった。
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