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第8話「辺境の危機」
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カイルは私たちに深々と頭を下げながら言った。
「無理を承知で...我らにご助力願えないだろうか。先ほどの精霊術を見ましたが、素晴らしいものだった。聞くところによれば、精霊術は結界構築にも優れているとか。辺境の防備構築に力を貸していただきたいのです」
「そ、それは...私は精霊術なんて全然使えなくて...その、たった今はじめて使ったんです...」
「なんと、はじめて?」
恐縮する私を見て、カイルはひどく驚いたようだった。
するとアキュラがうんうん、と頷きながらとんでもないことを言い出した。
「そうなんだよ、彼女には才能があってね。私と彼女がいれば防御結界の構築もできると思うよ」
「なんと...」
息を呑んだのは、カイルだけではなく私もだ。
魔法がからっきしの私が、防御結界の構築?
「で、でも私は魔法も使えないし...」
「そりゃそうだ。魔法と精霊術は別物だからね。むしろ、精霊術の簡易版が魔法なのだから」
とんでもないこと精霊王が言い出した。
「か、簡易版...?」
「そうだとも。本来自然に満ちている魔力を引き出す、という意味ではどちらも根っこは同じだがね。魔力との親和性は我ら精霊の方が圧倒的に高い。なぜなら、高濃度の魔力が凝集したものに魂が宿った存在こそが我ら精霊だからな。ゆえに、精霊を通じて魔力を行使する精霊術の方が高性能なのさ」
さも当然のことのようにアキュラが説明した。意外なことに、カイルも違和感なく受け止めているようだ。
「然り。魔法はあくまでも精霊術が使えぬ人間が、詠唱と魔具を通じて無理やり魔力を引き出すもの...我らの祖先に伝わる書物にもそう書いてありました」
「で、でも魔法学院ではそんな話は...」
「それはわざわざ言わないだろう。魔法が実は精霊術の下位互換でしかない、なんて魔法使いたちが認めると思うかね?かつてのように力ある精霊使いたちがいるならばともかく、もういないのだから」
「仰る通りです。精霊使いたちがこの国...いや、この地上から消えて数百年と言われています。我が祖先も精霊使いだったと言いましたが、私自身もかろうじて精霊は見えるものの、力を引き出すことはできませぬ」
「しかし、このエレナは違うんだな~」
呑気に私を指差してアキュラはにこにこと微笑んだ。
「多少の訓練は必要だと思うが、すぐにあらゆる精霊術を使いこなせるようになるだろうね」
「ほ、本当にそんなことが?」
いきなりそんなことを言われても信じられないが、アキュラはぽんぽんと私の肩を叩いた。
「ま、大事なことはそこじゃないだろう。要するに、できるかできないかの問題ではない。君がそれを望むかどうか、じゃないかな?」
そういって、アキュラは真剣な表情になった。それを見たカイルも、はっとしたように私を見た。
「...おっしゃる通り。私のお願いは身勝手なものと承知しております。ですが、辺境を突破されればその先にいるのは無辜の民たちです。力なき彼らを何としても守りたい。...ですが、無理強いはできません。ただ伏してお願い申し上げるのみ」
そういって再びカイルは深々と頭を下げた。どこまでも真摯なその思いに、私の心はどうしようもなく動かされていることを自覚する。もし、私にできることがあるなら...私を求めてくれる人々がいるならば。それを知ってなお何もしないでいるのは、ひどく卑怯なことに思えた。
この誠実そうな騎士が、今日出会ったばかりの小娘に頭を下げるというのが、どれほどの異常事態かはさすがに私にもわかる。王都を取り巻く政情や貴族たちの思惑は、騎士団長とはいえ、辺境の一部隊を率いるにすぎない彼にどうにかできるほど単純ではないのだろう。また、ことの重大性が理解できる人材が中央にいないか、いても力を持っていないということでもある。それがどれほど恐ろしいことかはなんとなく理解できた。
「ちなみに私は、君がどういう選択をしても応援するよ。実を言うと...前も言ったけれど、しゃしゃり出るつもりはなかったんだ。私としては、君が幸せに生きてくれればいいんだからね。ただ、君を励ましたいと思った結果が...まぁこういう事態になってしまった。だから責任はきちんと取って、私にできることは全部やるよ」
アキュラはそう言ってふたたび優しく微笑んだ。その微笑みが、わずかに私の胸にわだかまっていた躊躇いを、春光が雪を溶かすように消し去ってくれた。
「わたしにできることがあるなら...お役に立ちたいです。父上もきっと理解してくださるでしょう」
後から思えば、カイルにそう答えた瞬間、私の新たな人生がはじまっていたのだった。
「無理を承知で...我らにご助力願えないだろうか。先ほどの精霊術を見ましたが、素晴らしいものだった。聞くところによれば、精霊術は結界構築にも優れているとか。辺境の防備構築に力を貸していただきたいのです」
「そ、それは...私は精霊術なんて全然使えなくて...その、たった今はじめて使ったんです...」
「なんと、はじめて?」
恐縮する私を見て、カイルはひどく驚いたようだった。
するとアキュラがうんうん、と頷きながらとんでもないことを言い出した。
「そうなんだよ、彼女には才能があってね。私と彼女がいれば防御結界の構築もできると思うよ」
「なんと...」
息を呑んだのは、カイルだけではなく私もだ。
魔法がからっきしの私が、防御結界の構築?
「で、でも私は魔法も使えないし...」
「そりゃそうだ。魔法と精霊術は別物だからね。むしろ、精霊術の簡易版が魔法なのだから」
とんでもないこと精霊王が言い出した。
「か、簡易版...?」
「そうだとも。本来自然に満ちている魔力を引き出す、という意味ではどちらも根っこは同じだがね。魔力との親和性は我ら精霊の方が圧倒的に高い。なぜなら、高濃度の魔力が凝集したものに魂が宿った存在こそが我ら精霊だからな。ゆえに、精霊を通じて魔力を行使する精霊術の方が高性能なのさ」
さも当然のことのようにアキュラが説明した。意外なことに、カイルも違和感なく受け止めているようだ。
「然り。魔法はあくまでも精霊術が使えぬ人間が、詠唱と魔具を通じて無理やり魔力を引き出すもの...我らの祖先に伝わる書物にもそう書いてありました」
「で、でも魔法学院ではそんな話は...」
「それはわざわざ言わないだろう。魔法が実は精霊術の下位互換でしかない、なんて魔法使いたちが認めると思うかね?かつてのように力ある精霊使いたちがいるならばともかく、もういないのだから」
「仰る通りです。精霊使いたちがこの国...いや、この地上から消えて数百年と言われています。我が祖先も精霊使いだったと言いましたが、私自身もかろうじて精霊は見えるものの、力を引き出すことはできませぬ」
「しかし、このエレナは違うんだな~」
呑気に私を指差してアキュラはにこにこと微笑んだ。
「多少の訓練は必要だと思うが、すぐにあらゆる精霊術を使いこなせるようになるだろうね」
「ほ、本当にそんなことが?」
いきなりそんなことを言われても信じられないが、アキュラはぽんぽんと私の肩を叩いた。
「ま、大事なことはそこじゃないだろう。要するに、できるかできないかの問題ではない。君がそれを望むかどうか、じゃないかな?」
そういって、アキュラは真剣な表情になった。それを見たカイルも、はっとしたように私を見た。
「...おっしゃる通り。私のお願いは身勝手なものと承知しております。ですが、辺境を突破されればその先にいるのは無辜の民たちです。力なき彼らを何としても守りたい。...ですが、無理強いはできません。ただ伏してお願い申し上げるのみ」
そういって再びカイルは深々と頭を下げた。どこまでも真摯なその思いに、私の心はどうしようもなく動かされていることを自覚する。もし、私にできることがあるなら...私を求めてくれる人々がいるならば。それを知ってなお何もしないでいるのは、ひどく卑怯なことに思えた。
この誠実そうな騎士が、今日出会ったばかりの小娘に頭を下げるというのが、どれほどの異常事態かはさすがに私にもわかる。王都を取り巻く政情や貴族たちの思惑は、騎士団長とはいえ、辺境の一部隊を率いるにすぎない彼にどうにかできるほど単純ではないのだろう。また、ことの重大性が理解できる人材が中央にいないか、いても力を持っていないということでもある。それがどれほど恐ろしいことかはなんとなく理解できた。
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アキュラはそう言ってふたたび優しく微笑んだ。その微笑みが、わずかに私の胸にわだかまっていた躊躇いを、春光が雪を溶かすように消し去ってくれた。
「わたしにできることがあるなら...お役に立ちたいです。父上もきっと理解してくださるでしょう」
後から思えば、カイルにそう答えた瞬間、私の新たな人生がはじまっていたのだった。
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