【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん

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第13話 「黒い森」

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フローズンレイクを出て更に北へ向かうこと2時間ほどだろうか。
黒々とした森が目の前に広がり始めた。

「ここが黒の森...」

「そうです。この辺りに魔獣が出没し始めたのですが、あっという間にその頻度と数が...」

そういってカイルが険しい顔をした。

「もう少しいけば騎士団の拠点があります。まずはそこへ」

魔獣の影を恐れてか、辺りには人影もなく寂しいものだった。

(聞こえるかい?)

(ええ...この辺りの精霊たちの不安、恐れの声が聞こえるような気がするわ)

先ほどから心がざわざわと波立つような感覚があった。
黒い森が孕む不穏な空気とあいまって、私は背筋に寒気を覚えていた。

(精霊たちの声に耳を傾けてみてくれ、何かを伝えようとしているようだ)

アキュラの言う通り、先ほどからこの地に住まう精霊たちの声のようなものは感じていた。
しかし力が衰えているのか、彼らははっきりと姿を見せない。
それでも意識を統一し、精霊たちの声に必死で耳を傾ける。

(...ヴェルガルド...ニヴェル...ド...)

どうやら精霊たちの声は、「ニヴェルガルド」という地名のようなものを私たちに伝えたいようだった。

(ニヴェルガルド...と言っているようね)

(ああ...聞き覚えがあるような気もするが...)

(アキュラも知らないことがあるの?)

(実を言うと、はっきり記憶があるのはこの数十年ぐらいなんだよ。ちょうど君のおばあさんと出会った頃あたりからかな...)

(...なるほど。では、カイルに聞いてみましょう)

馬車のすぐ横にいたカイルに少し目配せをする。

「どうかされたか?」

「あの、ニヴェルガルドという言葉に何か聞き覚えは?」

「ニヴェルガルド...たしか、いつのものともわからぬ古い遺跡がこの近くにありますが、そこがニヴェルガルドと呼ばれていたような気がします。その遺跡が何か?」

「この地の精霊たちが、その名を繰り返すのです。まるでそこへゆけ...とでも言っているかのように」

「なるほど...あるいは近頃の異変の原因がそこにあるかもしれない、ということですか」

「そこまではわかりません...しかし何か手がかりが掴めるかもしれません」

「わかりました。要所への防御結界の構築が済んだらになるが、遺跡へご案内しましょう」

「よろしくお願いします」

ーそうして、騎士たちの拠点や防備の要所に防御結界を展開し終えた私たちは、ひとまずフローズンレイクへ戻ろうとしていた。

先ほまでは人の気配がなかった森を、7~8歳だろうか、幼い少年が元気に駆け回っていた。
騎士団の命令で、国境付近への出入りは禁じられているはずだから、無断侵入に違いなかった。

「カイル様、あれは...」

カイルも既に気づいていて、困ったように眉を寄せた。

「おそらく、この辺りの子どもが親の目を盗んで入り込んだかと...危ないので騎士に送らせます」

そういってカイルが供周りの騎士に声をかけようとした瞬間だった。

「魔獣が!」

鋭い叫び声が上がり、周囲を警戒していた騎士たちの間に緊張が走った。

(これはまずいぞ...)

いつもは飄々としたアキュラの声にも緊張感が漂っていた。

「こ、この数は...」

いつの間にか赤い瞳を持つ、黒い狼にも似た魔獣たちの大群に包囲されている。
グルル... と低く獰猛な唸り声をあげるや否や、私たちへと襲い掛かろうとしていた。

「エレナ嬢、馬車へ!」

「でも!」

咄嗟に子どもの方を見ると、魔獣の姿に腰が抜けたのか、地面に座り込んで泣きじゃくっていた。

「あの子は私が...くっ!」

子どもを気に掛けたカイルがそちらに馬を走らせようとするが、すぐ近くに迫った魔獣がカイルに飛びかかり、応戦を余儀なくされてしまう。御者兼護衛のサキも既に剣を抜いて魔獣2頭をなんとか凌いでいる有様だった。護衛の騎士たちもそれなりにいるはずだが、魔獣の数もかなりのもので、既にあちこちで剣と牙や爪がぶつかり合う鋭い音が鳴り響いている。

「...わたしがっ!」

(無理はするな!)

アキュラがそう言うが、しかし今の状況で子どもを助けられそうなのは私しかいない。
ともすればすくみそうになる足を叱咤し、子どもの方へと駆け寄った。

「早くこちらへ!」

怯えたように私を見つめる子どもをなんとか馬車の方へ連れていこうと手を引っ張る。
その瞬間だった、子どもと私の動きに気づいた魔獣が、こちらへ飛びかかってくる。

「伏せて!」

咄嗟に子どもを地面に押し倒し、その上に覆い被さる。ただ子どもを守らねばと思っての行動だった。
次の瞬間、背中に焼け付くような痛みが走ったかと思うと同時に、ものすごい魔獣の咆哮と、それからどさりという重い音がした。

「全く無茶をする!」

髪を振り乱したカイルが駆けつけ、私を襲った魔獣を決死の一撃で葬ってくれたのだった。

「あ...ありがとう...」

「お嬢様、お怪我を...!」

魔獣を撃退したサキが、いつもの鉄仮面をかなぐり捨てて涙ぐんだ様子で駆け寄ってくる。
気がつけば、背中が燃えるように熱いままだ。その熱い部分から、ぬらぬらと何かが流れてくる感覚があった。
魔獣の爪に背中を裂かれ、そこから血が出ているようだった。
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