【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん

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幕間 「ローズウッド伯爵家の受難2」

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「では...いくとしようか、シャーロット」

ヘンリーは独りそう優しく呟くと、机の片隅に大切に終われていた髪飾りを取り出すと、服の隠しにしまった。
それは彼が初めてシャーロットに贈った思い出の品だった。
それから愛剣を腰に帯びると、ゆっくりと書斎を出て階段を降りて玄関へと向かう。
ちょうどそのタイミングで、外から大音声で呼びかける声があった。

「ヘンリー・ローズウッド伯爵に申し上げる!私はアイアンメイデン第一中隊隊長、レオン・エルトリアです」

レオンのその呼びかけに応えるように、ローズウッド家の玄関がゆっくりと開いた。

「ほう...女を見る目もない男が何をしにきたか。今頃婚約破棄の挨拶かな?」

玄関から出てきたヘンリーの、まずは痛烈な揶揄がレオンの出鼻を挫いた。
ヘンリーにしてみれば、愛娘との婚約を一方的に破棄した目の前の男に嫌悪感しかなかった。
エルトリア公爵本人からは丁寧な詫びがあったが、息子の方は軍務の多忙を嵩に来て挨拶にも来なかったのだった。

「そ、それとこれとは...」

憮然として反駁しようとするレオンをすっ...と遮って前に出てきた別の影がある。
すらりとした身体に、燃えるような赤い髪と、対照的な冷たい美貌ー炎の天才ことミリア・サンフラワーだった。

「ローズウッド伯、ご無礼はお許しいただけますか?実はご令嬢、エレナ・ローズウッド様が北の騎士団を誑かし恐れ多くも王国に叛旗を翻したとの報告が入りました」

ミリアが告げた来意は、もちろんヘンリーにとっては青天の霹靂以外の何ものでもなかった。
虫も殺せないような大人しいエレナが王国に反乱を起こすなど、言いがかりもいいところだ。

「エレナが反乱?馬鹿なことを」

「申し上げにくい儀ながら、婚約破棄に悩まれて...ご乱心なさったのでは?それについて責任の一端のある者としてもたいへん心苦しく思いますわ。ですが、既に辺境では大勢の死傷者が出ています。申し訳ございませんが、王命により伯爵のお身柄を拘束させていただきます」

ミリアの口調は丁寧ながら、有無を言わせない高圧的なものだった。

「そのようなこと、断じてあるはずがない!」

ヘンリーは憤怒の表情で抗議するが、ミリアは涼しい顔でとりつく島もない。
むしろ、レオンの方がかつては義父になるかもしれなかった男を前に気まずそうに沈黙していた。

「いずれにせよ、申し開きは王の前で」

そう言うと、大勢の騎士たちがずらりとヘンリーを取り囲んだ。
どうやら有無を言わせず身柄を拘束するつもりらしかった。
が、ヘンリーはエレナに関わる不当な嫌疑を耳にした瞬間から既に己の身を捨てる覚悟を決めていた。
状況はまったくわからないが、ここで身柄を拘束されてしまえばエレナにとって必ず障害になるに違いない。

「それは承服しかねるな」

ヘンリーは静かに剣を抜いて構えた。それを見て周囲の騎士たちも各々の獲物を構える。
一瞬で場に緊張が走るが、レオンだけは焦った様子でミリアを宥めようとした。

「あまりことを荒立てては...ヘンリー卿もどうか剣を納めてください。きっと何かの誤解があるだけで、おとなしく我らに同行していただければ決して悪いようには...」

「そのような段階なら、まずは私を内々で召喚すれば済むこと。それがこのように物々しい包囲なら...既にに駒を進めた者がいるのだろう」

そしてその者こそは、この冷然とこちらを見据えるミリア・サンフラワーに違いないとヘンリーは看破していた。

「...ご明察ね、昼行燈の二つ名は返上された方が良いのではなくて?」

とりすましていたミリアの表情に、いまや隠すことなく爛々と剣呑な光が宿っていた。
やはり、この美しい娘が背後で全てを操っているに違いない。
レオンもアイアンメイデンの騎士たちも、この娘の傀儡に過ぎない。
ミリアもまた自身の剣を抜くと、ヘンリーに向かって突きつけた。

「伯爵は娘と共謀しており、いまや王国への叛意は明らか。今ここで成敗せよ」

「ミリア...」

「レオン様、ことここに至っては是非に及びません。やりなさい!」

ミリアがそう命じると、取り囲んでいた騎士たちの殺意が突如として増幅した。
明らかに人為的な何かが彼らの戦意を異常なまでに高揚させているようだった。

「これは...」

ミリアから騎士たちになんらかの魔術的干渉が働いているようだった。
その対象にはレオンも含まれているようで、その瞳からは先ほどのためらいは消し飛んでいる。
たちまち3人ほどの騎士たちがヘンリーに切り掛かってきた。
どうにか防いだものの、いずれも鍛え抜かれた猛者揃い。
しかも多勢に無勢で長くは持ちそうにない。
おまけに剣戟を交えた騎士たちとは別の騎士たちが、攻撃魔法の詠唱に入る姿が見えた。

「くっ...」

ヘンリーは咄嗟にそちらを牽制しようと剣を向けるが、たちまち先ほどの騎士たちに行手を阻まれる。
そこへ、魔法を詠唱する騎士たちに踊りかかる影があった。

「伯爵様!私もお供仕りますぞ!」

ただ一人クレイトンが槍を構えて突撃してきたのだった。

「クレイトン!なぜ落ち延びなかった!」

思わず叫んだヘンリーに、クレイトンはニヤリと微笑みを返す。

「伯爵様お一人にいい格好はさせませんぞ」

「馬鹿者め...」

「...エレナお嬢様の花嫁姿が見られぬのだけが、心残りですなぁ」

そうぼやいたクレイトンに、ヘンリーは首を振った。

「言うな」

それからヘンリーとクレイトンは長年友誼を結んだ者たちの間にだけ生まれる微笑みを静かに交わし、各々の獲物を構え直した。そして、勝ち目のない戦いに、ただ己の誇りと忠心を賭けて身を投じるのだった。
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