黒獅子の愛でる花

なこ

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第二章

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王宮は王が住まう中央殿と、王太子の住まう東宮、西宮の三棟を中心に成り立つ。

東宮から中央殿へ続く回廊の中程で、年老いた世話係に手を引かれた王太子はふいに立ち止まった。

「どうなされました、ルイ王子?」

「なぜじいでは、だめなのだ?じいのままでよい。」

王とよく似た金の瞳が、真っ直ぐに世話係を見上げる。

差し込む陽の光できらきらと瞬くその瞳を、じいと呼ばれた世話係は愛おしそうに見下ろした。

「…ルイ王子は、これからのお方なのです。王子を支えるのは、じいよりも、もっともっと長くお仕えできる方でないと…。さあ、陛下の所へ参りましょう。」

不服そうに下を向く王子の手を引き、世話係は中央殿へと進んでいく。

回廊の両脇では、丁寧に手入れされた庭園の花から花へと、数羽の蝶がひらひらと飛び交っていた。




「相変わらず、小さなままだな。」

朱と金で彩られた執務室の中央には、国王であるルイの父が悠然と鎮座していた。

黙り込むルイのことなど気にする様子もない。

「いつになったら決まるのだ?」

黙り込んだままのルイの横から、世話係が助け船を出す。

「恐れながら陛下、王子には王子のお考えが…。もう少しだけ時間を頂けませんでしょうか。」

「その小さな頭で一体何を考えると言うのだ?」

ルイは同じ色の瞳をした父のことをじっと見つめたまま、微動だにしない。

「お前はその者が死ぬまで、永遠に働かせるつもりか?」

「死」という言葉に、びくりと反応し、ルイはぶんぶんと首を横に振った。

「ならば世話係など誰でもいいであろう。今日も一人来ると聞いている。今日の者を断ると言うのなら、次は余が決める。よいな。」

「…はい、父上。」

しゅんと項垂れた様子で、ルイはとぼとぼと執務室を出ていった。

「…今日来る者は、どの様な者だ?」

ルイと世話係が出て行くと、物憂げに手元の書簡に目を通しながら、控える従者に王が尋ねる。

「レノアール伯爵家次男、サフィア様でございます。」

「…どのような者だ?」

「理由は分かりかねますが、文官の採用試験に及第した後、辞退されたお方です。学園から推薦状が届きましたので、召集した次第でございます。」

「学園が推薦状を出すぐらいなのだから、余程優秀な者なのだろうな。」

「それが、成績の方は…」

言い淀む従者へと王の視線が移る。

「せ、成績は中の下でして、決して優秀とは…」

「ならば何故推薦状を?」

「必ず王太子のお役に立てると、強く推薦されていたのです…。」

成績の悪い者を、学園側から強く推薦してくるとはどういうことだろうか。

「その者は、何か他に特筆するような能力を持ち合わせているのか?」

「申し訳ありません、陛下。そこまでは何も存じません。ですが、レノアール伯爵家の次男と言えば…整った容姿でとても有名な方でございます。」

王は興味がないといった様子で、また手元の書簡に目を落とした。

「他の候補を用意しておけ。余が選ぶ。」

「畏まりました。」

従者が部屋を出て行く。

執務室から庭園を望めば、数羽の蝶が飛び交う様子が見て取れる。

「あれしきのことで。」




箱の中は、美しい蝶の羽で埋め尽くされていた。

固唾を飲んで佇む王太子。

大袈裟に喚く女の姿。




王太子が人を選ぶようになったのは、恐らくあの日の出来事がきっかけだ。

「あれしきのことで…」

もう一度繰り返し、東国から取り寄せた煙管に火を灯す。

ひらひらと舞い踊る蝶を目にしながら、王はゆっくりと異国の煙を吐き出した。







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