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第二章
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部屋の中は散々たる有様だ。
壁一面に敷き詰められた本棚、床には無造作に転がる書物の山。
物音の原因は、これらの書物が床に転がり落ちる音だったのだと気が付き、サフィアは卒倒しそうになるのを堪えた。
ざっと眺めただけでも、どれも価値ある代物だ。
転がる書物一冊の額で、平民ならば恐らく数年は何もせずに暮らしていけるだろう。
慣れた様子で転がる書物を避けながら、王太子は座り慣れた長椅子に腰を下ろすと、隣りに座るようサフィアを促した。
サフィアに似ているという挿絵が描かれた書物を、もう一度目の前に広げて指差す。
「…あの、王太子殿下?」
座ることを躊躇して、サフィアは途方に暮れる。
「サフィア殿に読んで欲しいのですな、王子?」
世話係の言葉に頷くと、期待する眼差しで見上げてくる。
「畏まりました。…ですが、その前に…宜しければ、少し整理して、それからでも宜しいですか?」
床に広がった書物の山が忍びなく、サフィアは思い切ってそう切り出した。
「それでしたらお願いいたしましょう、王子。じいはなんせ歳ですから、整理するのにも一苦労です。」
壁一面、天井まで届きそうな本棚だ。高いところは脚立を使わなければ届かない。年老いた世話係には、確かに堪える作業だろう。
「すぐに終わらせます。宜しいですか?」
王太子は少しだけ不服そうだったが、了承してくれた。
サフィアと世話係が整理し始めると、ただ黙って見ているだけだった王太子は、痺れを切らしたのか、ちょこちょこと手伝いを始めた。
三人とも何も話さず、黙々と片付けていく。
この時間は、サフィアにとって思いの外心地いいものだった。
夕餉の時間が訪れるまで時を忘れて読み聞かせに没頭すると、最後に漸く王太子が口を開いた。
「つぎは、あれがよい。」
本棚を指差し、違う書物を指差している。
次があるのだろうか?
「では、明日もサフィア殿においでいただきましょう。」
世話係の言葉に、王太子は深く頷いた。
中庭を望める回廊に、二人の人物が佇んでいる。
小さな王太子の手を引くのは、新しい世話係となった美しい青年だ。
東宮の使用人たちは、二人の仲睦まじい様子を静かに見守っている。
「ここからこうして眺めているだけで宜しいのですか?」
王太子は眺めるだけで、庭園に入ろうとはしない。
ルイ王子は蝶が苦手なのだと、勇退した前世話係が話していた。
きゅっとサフィアの手を握ったまま、ルイは何も語らない。
東宮に籠りぎみのルイを案じ、サフィアは時々こうして回廊までルイを連れ出す。
少しでも陽の光に当たらせたいからだ。
あれよあれよと、気がつけばルイ王子の世話係に任命されてしまった。
何を気に入られたのか、ルイに引き止められるまま東宮で過ごし、あの日から一度も生家に帰ることなく、もうすでに一月が過ぎようとしている。
「美しい庭園ですね。確かに、こうして眺めているだけでも、心が癒されます。」
いずれきちんと生家に報告しなければと思いつつ、サフィアはそれをできずにいた。
一度でも伯爵家に帰ってしまえば、恐らく居心地の良いこの場所へ戻ることは叶わないだろう。
ルイの小さな手を、サフィアはきゅっと握り返す。
さわさわと心地よい風を感じながら、二人は静かに庭園を眺め続けた。
「…父上。」
ルイの呟きで、サフィアがはっと我に返る。
中央殿から向かってくるのは、ルイの父、黒獅子と呼ばれ恐れられる、ライ王の姿だった。
壁一面に敷き詰められた本棚、床には無造作に転がる書物の山。
物音の原因は、これらの書物が床に転がり落ちる音だったのだと気が付き、サフィアは卒倒しそうになるのを堪えた。
ざっと眺めただけでも、どれも価値ある代物だ。
転がる書物一冊の額で、平民ならば恐らく数年は何もせずに暮らしていけるだろう。
慣れた様子で転がる書物を避けながら、王太子は座り慣れた長椅子に腰を下ろすと、隣りに座るようサフィアを促した。
サフィアに似ているという挿絵が描かれた書物を、もう一度目の前に広げて指差す。
「…あの、王太子殿下?」
座ることを躊躇して、サフィアは途方に暮れる。
「サフィア殿に読んで欲しいのですな、王子?」
世話係の言葉に頷くと、期待する眼差しで見上げてくる。
「畏まりました。…ですが、その前に…宜しければ、少し整理して、それからでも宜しいですか?」
床に広がった書物の山が忍びなく、サフィアは思い切ってそう切り出した。
「それでしたらお願いいたしましょう、王子。じいはなんせ歳ですから、整理するのにも一苦労です。」
壁一面、天井まで届きそうな本棚だ。高いところは脚立を使わなければ届かない。年老いた世話係には、確かに堪える作業だろう。
「すぐに終わらせます。宜しいですか?」
王太子は少しだけ不服そうだったが、了承してくれた。
サフィアと世話係が整理し始めると、ただ黙って見ているだけだった王太子は、痺れを切らしたのか、ちょこちょこと手伝いを始めた。
三人とも何も話さず、黙々と片付けていく。
この時間は、サフィアにとって思いの外心地いいものだった。
夕餉の時間が訪れるまで時を忘れて読み聞かせに没頭すると、最後に漸く王太子が口を開いた。
「つぎは、あれがよい。」
本棚を指差し、違う書物を指差している。
次があるのだろうか?
「では、明日もサフィア殿においでいただきましょう。」
世話係の言葉に、王太子は深く頷いた。
中庭を望める回廊に、二人の人物が佇んでいる。
小さな王太子の手を引くのは、新しい世話係となった美しい青年だ。
東宮の使用人たちは、二人の仲睦まじい様子を静かに見守っている。
「ここからこうして眺めているだけで宜しいのですか?」
王太子は眺めるだけで、庭園に入ろうとはしない。
ルイ王子は蝶が苦手なのだと、勇退した前世話係が話していた。
きゅっとサフィアの手を握ったまま、ルイは何も語らない。
東宮に籠りぎみのルイを案じ、サフィアは時々こうして回廊までルイを連れ出す。
少しでも陽の光に当たらせたいからだ。
あれよあれよと、気がつけばルイ王子の世話係に任命されてしまった。
何を気に入られたのか、ルイに引き止められるまま東宮で過ごし、あの日から一度も生家に帰ることなく、もうすでに一月が過ぎようとしている。
「美しい庭園ですね。確かに、こうして眺めているだけでも、心が癒されます。」
いずれきちんと生家に報告しなければと思いつつ、サフィアはそれをできずにいた。
一度でも伯爵家に帰ってしまえば、恐らく居心地の良いこの場所へ戻ることは叶わないだろう。
ルイの小さな手を、サフィアはきゅっと握り返す。
さわさわと心地よい風を感じながら、二人は静かに庭園を眺め続けた。
「…父上。」
ルイの呟きで、サフィアがはっと我に返る。
中央殿から向かってくるのは、ルイの父、黒獅子と呼ばれ恐れられる、ライ王の姿だった。
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