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第三章
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部屋の中には、天蓋に覆われた大きな寝台が一つだけ。
三人の女達が一糸纏わぬ姿でぐったりと横たわるその中心で、気怠げに煙管を燻らしているのはライだ。
一周ぐるりと首を回すと、来訪者に向かって笑みを浮かべる。
「何の用だ。随分と無粋ではないか。なあ、王妃。」
この部屋が何のための部屋なのか、王宮内で知らぬ者はいない。
東国の香と煙管の煙で充満した部屋には、むんとした情交の気配が未だ色濃く漂っている。
「いくらお待ちしましても、陛下が会いに来てくださらないので、わたくしから会いに参りました。」
にこりと微笑む王妃カリンの目には、ライ以外映らない。
王妃の来訪に、ぐったりとしたいた女たちがそそくさと起き上がり途方に暮れる。
「それで、わざわざこんな時間に此処を訪れたと言うのか?」
「ええ。陛下はいつもお忙しいではありませんか。」
流れるような金髪を半分だけまとめ上げ、薄い桃色の衣装を纏った王妃の姿は、この部屋の中で一人だけ明らかに浮いている。
ライが右手を軽く一振りすると、脱ぎ捨てられていた羽織りをさっとまとい、女達は慌てて部屋を出て行った。
「あら、そのままでも構いませんのに。」
「気を削いだのは其方であろう。」
華奢で可憐な愛らしい王妃の姿は、市井でも人気が高い。
「新しい世話係が決まったとお聞きしましたわ。」
「それがどうした。其方に興味があるとは思えないが?」
「ルイのことでしたら、陛下とわたくしの子ですもの、いつだって気にかけておりますのよ。」
「…若い男だ。ようやく決まったのだから、今度は大人しくしているんだな。」
心外だと大きな目を見開き、王妃はくすくすと笑い出す。
「あら陛下、あれはルイのちょっとした悪戯ではありませんか。あのように騒ぎ立てるなんて、元より世話係に向いていなかった証拠ですわ。」
あれは、ルイの悪戯なんかではない。
ライが気付かぬ訳がなかった。
「西宮で静養するよう、言いつけていたはずだ。こんな夜中に出歩いていては、また病が悪化する。早く西宮に戻るといい。」
外で控えている従者を呼び寄せ王妃を追い返すと、残りの煙管を燻らせ、ライは部屋を後にした。
「レノアール家への通達は?」
「はい。既に済んでおります。」
新しい側近の仕事ぶりをライは評価していた。
長年付き従っていた王妃の父ザギエラから、この若者を側近としたのはつい最近のことだ。
「これで漸く執拗な申し出も落ち着くだろうな。」
「はい。ですが、使者の話しではあまり納得いかない様子だったと。」
記憶に薄いレノアール前伯爵を思い出そうとするが、ライにはぼんやりとしか思い浮かべることができなかった。
爵位を引き継いだばかりだという長男についても、凡庸な男であったと、そのような記憶しかない。
男爵家から嫁いできたと言うサフィアの母についても、特に思い浮かぶ記憶はなかった。
「あの者は、本当にレノアール家の出で間違いはないのか?」
どうにも記憶に残らないレノアール家の人々と比べ、ルイと並んだサフィアの姿はライの記憶に深く残る。
「はい。サフィア様がお生まれになった当時も、その、伯爵夫人の不貞が疑われるなど、随分ともめたそうですが…。」
「結局、レノアール伯爵の息子で間違いないと?」
「色々調べたようですが、間違いなくレノアール伯爵の息子だったそうです。」
「…そうか。出自が明白ならば、特に問題はない。」
ライが新しい世話係に会いに行ったのは、本当にただの気まぐれでしかなかった。
あの日は、ちょうど退屈していたのだ。
三人の女達が一糸纏わぬ姿でぐったりと横たわるその中心で、気怠げに煙管を燻らしているのはライだ。
一周ぐるりと首を回すと、来訪者に向かって笑みを浮かべる。
「何の用だ。随分と無粋ではないか。なあ、王妃。」
この部屋が何のための部屋なのか、王宮内で知らぬ者はいない。
東国の香と煙管の煙で充満した部屋には、むんとした情交の気配が未だ色濃く漂っている。
「いくらお待ちしましても、陛下が会いに来てくださらないので、わたくしから会いに参りました。」
にこりと微笑む王妃カリンの目には、ライ以外映らない。
王妃の来訪に、ぐったりとしたいた女たちがそそくさと起き上がり途方に暮れる。
「それで、わざわざこんな時間に此処を訪れたと言うのか?」
「ええ。陛下はいつもお忙しいではありませんか。」
流れるような金髪を半分だけまとめ上げ、薄い桃色の衣装を纏った王妃の姿は、この部屋の中で一人だけ明らかに浮いている。
ライが右手を軽く一振りすると、脱ぎ捨てられていた羽織りをさっとまとい、女達は慌てて部屋を出て行った。
「あら、そのままでも構いませんのに。」
「気を削いだのは其方であろう。」
華奢で可憐な愛らしい王妃の姿は、市井でも人気が高い。
「新しい世話係が決まったとお聞きしましたわ。」
「それがどうした。其方に興味があるとは思えないが?」
「ルイのことでしたら、陛下とわたくしの子ですもの、いつだって気にかけておりますのよ。」
「…若い男だ。ようやく決まったのだから、今度は大人しくしているんだな。」
心外だと大きな目を見開き、王妃はくすくすと笑い出す。
「あら陛下、あれはルイのちょっとした悪戯ではありませんか。あのように騒ぎ立てるなんて、元より世話係に向いていなかった証拠ですわ。」
あれは、ルイの悪戯なんかではない。
ライが気付かぬ訳がなかった。
「西宮で静養するよう、言いつけていたはずだ。こんな夜中に出歩いていては、また病が悪化する。早く西宮に戻るといい。」
外で控えている従者を呼び寄せ王妃を追い返すと、残りの煙管を燻らせ、ライは部屋を後にした。
「レノアール家への通達は?」
「はい。既に済んでおります。」
新しい側近の仕事ぶりをライは評価していた。
長年付き従っていた王妃の父ザギエラから、この若者を側近としたのはつい最近のことだ。
「これで漸く執拗な申し出も落ち着くだろうな。」
「はい。ですが、使者の話しではあまり納得いかない様子だったと。」
記憶に薄いレノアール前伯爵を思い出そうとするが、ライにはぼんやりとしか思い浮かべることができなかった。
爵位を引き継いだばかりだという長男についても、凡庸な男であったと、そのような記憶しかない。
男爵家から嫁いできたと言うサフィアの母についても、特に思い浮かぶ記憶はなかった。
「あの者は、本当にレノアール家の出で間違いはないのか?」
どうにも記憶に残らないレノアール家の人々と比べ、ルイと並んだサフィアの姿はライの記憶に深く残る。
「はい。サフィア様がお生まれになった当時も、その、伯爵夫人の不貞が疑われるなど、随分ともめたそうですが…。」
「結局、レノアール伯爵の息子で間違いないと?」
「色々調べたようですが、間違いなくレノアール伯爵の息子だったそうです。」
「…そうか。出自が明白ならば、特に問題はない。」
ライが新しい世話係に会いに行ったのは、本当にただの気まぐれでしかなかった。
あの日は、ちょうど退屈していたのだ。
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