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第三章
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「あら、今日も陛下はお愉しみなの?」
背後から声をかけられ、エリクはぞくりとした。
「カリン王妃…」
「そんな顔をしないでちょうだい。驚かせるつもりはなかったのよ。」
コロコロと笑うカリンの姿は、側から見れば可憐で愛らしい王妃の姿だ。
カリンと向き合うエリクは、仕えるライ王以上に、この王妃の腹の底が見えない。
「陛下の元へいらしたのでしたら…」
今日の王は機嫌が良かった。
王妃の来訪は、せっかくの王の機嫌を損ねるだろう。
なんと言ってお引取りして頂くか、エリクは思案した。
「いいのよ、今日はあなたに会いに来たの。ルイの新しい世話係は、上手くやっているのかしら?」
「…はい。王妃の心配なさる様なことはございません。」
「あらそう。それは良かった。でもね、またルイを利用して陛下に近付こうとされては困るわ。」
「そのようなことは…」
「またルイが変な悪戯を仕出かすかもしれないでしょう?あなたもちゃんと目を光らせていて頂戴。」
もう一度ニコリと微笑むと、数人の侍女を引き連れ、王妃は西宮へ帰って行った。
エリクは大きくふぅと息を吐き出すと天を仰いだ。
王子の悪戯?
自分のしたことを、我が子である王子の悪戯だと言い切り、愕然とする王子の前でコロコロと笑っていた王妃の姿が思い浮かぶ。
幼い王子はあまりの出来事に、声を発することすらできなかった。
本来ならルイ王子の次の世話係は、とうに
決められていた。
侯爵家出の優秀だと言われていた女性に、ルイ王子は少しずつ心を開いていたのだ。
いつも穏やかで、ニコニコと笑顔を絶やさない、裏表のないような朗らかな女性だった。
もう少しで本決まりだと言う頃、その女は本性を表し始めた。
王子のことで陛下にお伝えしたいことがあると、何度も懇願されエリクはその場を設けた。
結論から言えば、女はルイ王子の世話係を口実に、王の側室の座を狙っていたのだ。
王は全く興味がなさそうだった。
側室を娶る気がないのは、王妃を寵愛しているからではなく、王の興味を掻き立てる様な者が誰もいないからだ。
適当に女をあしらっていた王の元へ、カリン王妃がルイ王子を引き連れて現れた。
ルイ王子が女のことを気に入っているので贈り物をしたいそうだと、王妃は確かそう言っていた気がする。
女は王子にも王妃にも、自分は認められたのだと勘違いしたに違いない。
ルイ王子が差し出す真っ白な箱を受け取り、その場で箱を開けた。
「…まあ、綺麗な、、、、っ!」
それは、美しい花びらのように見えて、花びらではなかった。
中庭でルイ王子が楽しそうに戯れていた蝶の羽が、箱の中にはびっしりと敷き詰められていた。
ルイ王子にできることではない。
それを王妃は、ルイ王子の悪戯だと言って、困った子だとくすくすと笑い続けた。
それ以来、エリクは王妃の笑い声を聞くと、背中がぞわりとする。
「…カリンが来ていたのか?」
香と煙の匂いを漂わせ、ライが部屋から出て来てしまった。
「カリン王妃はすでに西宮にお戻りになられました。陛下はどうかお気になさらず…」
「あの声を聴くと、気を削がれる。」
「申し訳ございません、陛下。」
「なぜお前が謝る?其方の所為ではない。」
裸の上半身にぱさりと上着を羽織っただけで、長い黒髪をおろしているライ王の姿は、エリクから見ても魅惑的だ。
「…何か、飲み物でも用意いたしましょうか。陛下のお好きな東国の古酒でも。」
「…そうだな。今晩は月夜か。せっかくだから外で嗜むとしよう。」
「は、はい。すぐに準備させます。」
近くにいた使用人に目配せをすると、エリクは王の後に従った。
中庭の奥には、王だけのために作られた王専用の庭園がある。
ライは時折、この庭で静かな夜を過ごす。
王の言う通り、エリクが空を見上げると、今晩は美しい満月だった。
ふいに中庭の奥から、かさりと、葉音がする。
ライとエリクの後方で、護衛の騎士が警戒するのを、右手をかざしてライは制した。
何事かと、ライの後ろからエリクが覗き込むと、そこには月の光に照らされたルイの世話係、サフィアの姿があった。
「…そこで、何をしている?」
そう問う王の声が、エリクにはどこか楽しげに聞こえた。
背後から声をかけられ、エリクはぞくりとした。
「カリン王妃…」
「そんな顔をしないでちょうだい。驚かせるつもりはなかったのよ。」
コロコロと笑うカリンの姿は、側から見れば可憐で愛らしい王妃の姿だ。
カリンと向き合うエリクは、仕えるライ王以上に、この王妃の腹の底が見えない。
「陛下の元へいらしたのでしたら…」
今日の王は機嫌が良かった。
王妃の来訪は、せっかくの王の機嫌を損ねるだろう。
なんと言ってお引取りして頂くか、エリクは思案した。
「いいのよ、今日はあなたに会いに来たの。ルイの新しい世話係は、上手くやっているのかしら?」
「…はい。王妃の心配なさる様なことはございません。」
「あらそう。それは良かった。でもね、またルイを利用して陛下に近付こうとされては困るわ。」
「そのようなことは…」
「またルイが変な悪戯を仕出かすかもしれないでしょう?あなたもちゃんと目を光らせていて頂戴。」
もう一度ニコリと微笑むと、数人の侍女を引き連れ、王妃は西宮へ帰って行った。
エリクは大きくふぅと息を吐き出すと天を仰いだ。
王子の悪戯?
自分のしたことを、我が子である王子の悪戯だと言い切り、愕然とする王子の前でコロコロと笑っていた王妃の姿が思い浮かぶ。
幼い王子はあまりの出来事に、声を発することすらできなかった。
本来ならルイ王子の次の世話係は、とうに
決められていた。
侯爵家出の優秀だと言われていた女性に、ルイ王子は少しずつ心を開いていたのだ。
いつも穏やかで、ニコニコと笑顔を絶やさない、裏表のないような朗らかな女性だった。
もう少しで本決まりだと言う頃、その女は本性を表し始めた。
王子のことで陛下にお伝えしたいことがあると、何度も懇願されエリクはその場を設けた。
結論から言えば、女はルイ王子の世話係を口実に、王の側室の座を狙っていたのだ。
王は全く興味がなさそうだった。
側室を娶る気がないのは、王妃を寵愛しているからではなく、王の興味を掻き立てる様な者が誰もいないからだ。
適当に女をあしらっていた王の元へ、カリン王妃がルイ王子を引き連れて現れた。
ルイ王子が女のことを気に入っているので贈り物をしたいそうだと、王妃は確かそう言っていた気がする。
女は王子にも王妃にも、自分は認められたのだと勘違いしたに違いない。
ルイ王子が差し出す真っ白な箱を受け取り、その場で箱を開けた。
「…まあ、綺麗な、、、、っ!」
それは、美しい花びらのように見えて、花びらではなかった。
中庭でルイ王子が楽しそうに戯れていた蝶の羽が、箱の中にはびっしりと敷き詰められていた。
ルイ王子にできることではない。
それを王妃は、ルイ王子の悪戯だと言って、困った子だとくすくすと笑い続けた。
それ以来、エリクは王妃の笑い声を聞くと、背中がぞわりとする。
「…カリンが来ていたのか?」
香と煙の匂いを漂わせ、ライが部屋から出て来てしまった。
「カリン王妃はすでに西宮にお戻りになられました。陛下はどうかお気になさらず…」
「あの声を聴くと、気を削がれる。」
「申し訳ございません、陛下。」
「なぜお前が謝る?其方の所為ではない。」
裸の上半身にぱさりと上着を羽織っただけで、長い黒髪をおろしているライ王の姿は、エリクから見ても魅惑的だ。
「…何か、飲み物でも用意いたしましょうか。陛下のお好きな東国の古酒でも。」
「…そうだな。今晩は月夜か。せっかくだから外で嗜むとしよう。」
「は、はい。すぐに準備させます。」
近くにいた使用人に目配せをすると、エリクは王の後に従った。
中庭の奥には、王だけのために作られた王専用の庭園がある。
ライは時折、この庭で静かな夜を過ごす。
王の言う通り、エリクが空を見上げると、今晩は美しい満月だった。
ふいに中庭の奥から、かさりと、葉音がする。
ライとエリクの後方で、護衛の騎士が警戒するのを、右手をかざしてライは制した。
何事かと、ライの後ろからエリクが覗き込むと、そこには月の光に照らされたルイの世話係、サフィアの姿があった。
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そう問う王の声が、エリクにはどこか楽しげに聞こえた。
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