黒獅子の愛でる花

なこ

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第四章

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生家からサフィア宛に届く書簡には、いつも同じことが書かれている。

ジェラルドの書き殴る様な筆跡からは、サフィアへの強い怒りが感じられた。

家族から疎まれていることは、幼い頃から感じていた。

理由も分からないまま、サフィアだけがいつも家族の輪から外される。

ならばいっそのこと、放っておいてくれればいいのに…

積み重なる書簡の束を目にすると、サフィアは諦めの気持ちに支配されていく。

やはり自分は、あの家から逃れることはできないのだろうか。

「…サフィア?」

物思いに耽ることが増えたサフィアを、ルイが心配そうに覗き込む。

ルイの無条件にサフィアを慕う姿は、サフィアの心を癒してくれる。

さらさらとした黒髪をそっと撫でやると、嬉しそうに笑って、描きかけの絵にまた夢中になる。

「何を描いているのですか?」

「…サフィア。」

「わたし、ですか?」

うんうんと頷きながら、ルイは描く手を止めようとはしない。

誰かにお仕えするのなら、レノアール家でもジェラルドでもなく、サフィアはずっとルイに仕えていたい。

それでもやはり、こんな自分はルイにとって相応しくないのではないか。

両親やジェラルドの言っていることが、本当は正しい事なのではないだろうか。

ぐるぐると思考ばかりが巡り巡って、それでも結論が出ることはない。

サフィアは疲弊していた。

いつまでも生家と向き合うことを避けてはいられないのに、向き合うことが恐ろしかった。




「サフィア様、こちらを。」

ライ王の側近であるエリクが、心配そうな顔をして書簡を差し出す。

「陛下からレノアール伯爵家への正式な通達は済んでおります。レノアール家の皆様が何と仰ろうと、サフィア様は引き続きルイ王子にお仕え下さい。」

尋常ではない数の書簡が毎日サフィアへと届けられる。

「ありがとうございます、エリク様。」

受け取るサフィアの顔は、いつも浮かない表情だ。

流石にレノアール家の所業は異常だと、エリクは感じていた。

エリクから受け取った書簡はジェラルドからではなく、父からのものだ。

神経質そうな父の字で綴られた書簡は、サフィアの気持ちをさらに憂鬱にする。

ルイとの穏やかな一日を過ごした後、あてがわれた東宮の一室で、サフィアは封を切った。

父から書簡を受け取るのは初めてのことだ。

「……グレファム、?」

その内容に理解が追いつかず、二度、三度と、書簡を読み直す。

息子への書簡だと言うのに、労いも心配する言葉も何もない、唐突な書き出しでそれは始まった。

『グレファム公爵家の使者が尋ねて来た。』

サフィアとグレファム公爵家との間には、何の繋がりもない。

あるとすれば…

「…リヒト?」

リヒトの婿入りした先が、グレファム公爵家だ。

サフィアに用があるため、取り急ぎ連絡を取りたいと申し出があったらしい。

お前のいるべき場所はそこではない、早々に家に戻れと言う最後の一文は、もはや目に入らない。

今更何の用があると言うのだろう。

リヒトのことは、あえてずっと考えないよう過ごしていた。

このまま会うことがなければ、いずれ痛みは薄らぎ、綺麗な想い出だけが残るはずだから。

リヒトのサフィアを呼ぶ声が聞こえたような気がして、サフィアは思わず耳を塞ぐ。

そんな訳ないのに。

どうしたらいいのか、分からない。

何から考えればいいのか。

いや、もう何も考えたくない。

開け放ったままの窓からは、涼しい夜風が
入り込む。

ほんのりと香るのは、庭に咲き誇る花々の香りだろうか。

月明かりに照らされた夜の庭を眺めながら、サフィアは今日も眠れぬ夜をやり過ごす。










































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