黒獅子の愛でる花

なこ

文字の大きさ
14 / 31
第四章

13

しおりを挟む
もう何日もまともに眠れていない。

サフィアの様子は、王宮に来たばかりの頃と比べると、明らかに憔悴していた。

「ルイ王子、今日はいかがいたしましょう?何か読みたい本はありますか?それとも…」

尋ねるサフィアをじっと見つめていたかと思うと、おもむろにルイは立ち上がった。

「ルイ王子?」

首を傾げるサフィアの手を取ると、部屋の外へとその手を引く。

「…どこか行きたい所でもあるのですか?」

ルイは何も言わずに、サフィアの手をぐいぐいと引き寄せ、ゆっくりと進んでいく。

されるがままに後をついていくと、東宮を出て中央殿へ繋がる回廊まで辿り着いた。

「中庭を見たかったのですか?」

ルイが自ら此処を訪れるのは、初めてのことだ。

回廊で立ち止まると思いきや、ルイは立ち止まることなく、中庭まで足を進める。

「王子、この先は…」

この先では鮮やかに咲き誇る花から花へ、ひらひらと蝶が舞い踊る。

一度ぴたりと歩みを止めると、ルイは意を決したように、庭の奥へとサフィアを促した。

回廊からは見えなかった中庭の奥へ進むと、小さな噴水と東屋が見える。

隠れ家のようなその場所から臨む景色は、回廊から見ていた景色とはまるで違う。

「…ここは、ルイの庭です。」

小さな噴水も、小ぢんまりとした東屋も、よく見れば全てがルイの為に作られているようだ。

「王子の隠れ家なのですね。」

こくりとルイは頷く。

「こんな素敵な場所に連れて来て頂いて、とても嬉しいです。ルイ王子、ありがとうございます。」

ルイは満足そうに、また深く頷いた。

東屋に備え付けられた小さな椅子に腰を下ろすと、サフィアは時間を忘れて美しい眺めに見惚れた。

そんなサフィアに倣って、ルイも隣に腰を下ろす。

二人の周りをひらひらと蝶が舞う。

「…蝶は、ルイのことをきらいです。」

ふいに、ルイが呟く。

「王子?」

「ルイのせいで、しんだから。だから、ここには、あまり来れません。」

ルイは少しだけ顔を歪ませた。

「…何を仰っているのですか?そんなことありません。王子は決してそんなことをしません。サフィアには分かっています。だから、大丈夫ですよ。」

王子はきっと、本当は蝶のことが好きなのだろう。

何があったのか検討もつかないが、今にも泣き出しそうなルイのことを、サフィアはそっと抱き寄せる。

小さな肩はふるふると、暫くの間震えていた。




今晩は満月だ。

窓辺にぼんやりと佇みながら、サフィアは今日の出来事を振り返る。

自分だけが苦しいような気がしていた。

あんな小さな王子でさえ、抱えている何かがあったのだ。

それだけじゃない。

今になって思えば、ルイがサフィアを連れ出してくれたのは、きっとサフィアのためだろう。

月明かりに誘われ、サフィアはいつしか無意識の内に、ふらふらと彷徨い始めた。

気がつけば、そこは中庭だ。

ああ、風が気持ちいい。

ここでなら、このまま眠れるだろうか。

眠れる場所を求め、奥へ奥へと彷徨い続ける。


「…そこで、何をしている?」


低く艶のある声だ。

何をしている?

何をしていたのだろう?

振り返った先には、リヒトの憧れていた黒獅子がいる。

夢?

二度瞬きをして、サフィアははっと我に返った。

そこにいたのは、紛れもなく黒獅子だった。

その後ろには、側近のエリクと護衛が控えている。

さーっと血の気が引いていく。

月明かりに照らされたライ王が、悠然とサフィアのことを見下ろしていた。
















しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

君に捧げる紅の衣

高穂もか
BL
ずっと好きだった人に嫁ぐことが決まった、オメガの羅華。 でも、その婚姻はまやかしだった。 辰は家に仕える武人。家への恩義と、主である兄の命令で仕方なく自分に求婚したのだ。 ひとはりひとはり、婚儀の為に刺繡を施した紅の絹を抱き、羅華は泣く。 「辰を解放してあげなければ……」 しかし、婚姻を破棄しようとした羅華に辰は……?

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

子持ちオメガが運命の番と出会ったら

ゆう
BL
オメガバースのblです。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...