黒獅子の愛でる花

なこ

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第四章

13

もう何日もまともに眠れていない。

サフィアの様子は、王宮に来たばかりの頃と比べると、明らかに憔悴していた。

「ルイ王子、今日はいかがいたしましょう?何か読みたい本はありますか?それとも…」

尋ねるサフィアをじっと見つめていたかと思うと、おもむろにルイは立ち上がった。

「ルイ王子?」

首を傾げるサフィアの手を取ると、部屋の外へとその手を引く。

「…どこか行きたい所でもあるのですか?」

ルイは何も言わずに、サフィアの手をぐいぐいと引き寄せ、ゆっくりと進んでいく。

されるがままに後をついていくと、東宮を出て中央殿へ繋がる回廊まで辿り着いた。

「中庭を見たかったのですか?」

ルイが自ら此処を訪れるのは、初めてのことだ。

回廊で立ち止まると思いきや、ルイは立ち止まることなく、中庭まで足を進める。

「王子、この先は…」

この先では鮮やかに咲き誇る花から花へ、ひらひらと蝶が舞い踊る。

一度ぴたりと歩みを止めると、ルイは意を決したように、庭の奥へとサフィアを促した。

回廊からは見えなかった中庭の奥へ進むと、小さな噴水と東屋が見える。

隠れ家のようなその場所から臨む景色は、回廊から見ていた景色とはまるで違う。

「…ここは、ルイの庭です。」

小さな噴水も、小ぢんまりとした東屋も、よく見れば全てがルイの為に作られているようだ。

「王子の隠れ家なのですね。」

こくりとルイは頷く。

「こんな素敵な場所に連れて来て頂いて、とても嬉しいです。ルイ王子、ありがとうございます。」

ルイは満足そうに、また深く頷いた。

東屋に備え付けられた小さな椅子に腰を下ろすと、サフィアは時間を忘れて美しい眺めに見惚れた。

そんなサフィアに倣って、ルイも隣に腰を下ろす。

二人の周りをひらひらと蝶が舞う。

「…蝶は、ルイのことをきらいです。」

ふいに、ルイが呟く。

「王子?」

「ルイのせいで、しんだから。だから、ここには、あまり来れません。」

ルイは少しだけ顔を歪ませた。

「…何を仰っているのですか?そんなことありません。王子は決してそんなことをしません。サフィアには分かっています。だから、大丈夫ですよ。」

王子はきっと、本当は蝶のことが好きなのだろう。

何があったのか検討もつかないが、今にも泣き出しそうなルイのことを、サフィアはそっと抱き寄せる。

小さな肩はふるふると、暫くの間震えていた。




今晩は満月だ。

窓辺にぼんやりと佇みながら、サフィアは今日の出来事を振り返る。

自分だけが苦しいような気がしていた。

あんな小さな王子でさえ、抱えている何かがあったのだ。

それだけじゃない。

今になって思えば、ルイがサフィアを連れ出してくれたのは、きっとサフィアのためだろう。

月明かりに誘われ、サフィアはいつしか無意識の内に、ふらふらと彷徨い始めた。

気がつけば、そこは中庭だ。

ああ、風が気持ちいい。

ここでなら、このまま眠れるだろうか。

眠れる場所を求め、奥へ奥へと彷徨い続ける。


「…そこで、何をしている?」


低く艶のある声だ。

何をしている?

何をしていたのだろう?

振り返った先には、リヒトの憧れていた黒獅子がいる。

夢?

二度瞬きをして、サフィアははっと我に返った。

そこにいたのは、紛れもなく黒獅子だった。

その後ろには、側近のエリクと護衛が控えている。

さーっと血の気が引いていく。

月明かりに照らされたライ王が、悠然とサフィアのことを見下ろしていた。
















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