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第四章
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「…も、申し訳ございません!」
ぼんやりとしていたサフィアの意識が、次第に鮮明になっていく。
「そこで何をしていたのかと問うている。」
何をと問われても、明確な理由など思いつかない。
気がついたら此処にいたのだ。
「…月が、今夜の月が、とても美しかったので、」
曖昧な返答しかできないサフィアへと、ライの鋭い視線が突き刺さる。
「それで、そのような姿で彷徨い歩いていたのか?」
そう言われ、自分が寝巻き姿のままであったことに、サフィアは初めて気が付いた。
「申し訳ございません!このような見苦しい姿を…」
自分のしでかした失態に、サフィアは慄いた。
父や兄の言う通り、やはり自分は…
サフィアの青白い顔から、さらに血の気が引いていく。
「何をそんなに萎縮している。ただ尋ねただけであろう?」
さらりと解いた銀糸の髪が、時折夜風に靡く。
生成りの薄い寝巻き一枚から覗かせる手足や首筋の白さは、月明かり中で一際浮き立っていた。
幻想的なその姿に、控えるエリクや護衛の誰かがごくりと息を飲み込む。
「…サフィアと言ったか?」
名を呼ばれ、サフィアはびくりと肩を震わせた。
「…はい。」
「付いて来い。」
長い黒髪を靡かせ、ライはその先へ進んで行く。
エリクから従うようにと視線を送られ、サフィアはライの後に従った。
前を行くライの黒髪からは、嗅ぎ慣れない異国の香りが漂う。
どこへ向かっているのかサフィアには全く検討もつかないが、黙って付き従うしかない。
木々で囲まれた暗闇を抜けると、目の前には大きな池が広がっていた。
池の中央に架けられた真紅の橋を、ライは振り返ることなく渡っていく。
橋の手前でぴたりと歩みを止めたエリクや護衛に倣い、サフィアも歩みを止めると、異国情緒漂うその景色に息を呑んだ。
王宮内にこのような場所があるとは、想像もしていなかった。
橋の中程で、ライの足が止まる。
「何をしている?付いて来いと言っただろう。」
エリクから背中を押され、サフィアは静かに橋を渡り始めた。
池の水面に映る月の光がゆらゆらと揺らめく。
一歩一歩歩みを進める度、サフィアはどこか知らない異国へと迷い込んだような錯覚に陥った。
橋の先には、四方が望めるよう造られた大きな東屋があり、ゆったりとした台座が設けられている。
慣れた様子で台座に座り込むと、ライは離れた所で佇むサフィアを呼び寄せた。
これだけの器量を持ちながら驕る様子もなく、どこか自信なさげなサフィアのことを不思議に思う。
気まぐれに一夜を共にする女たちは、従順に従う素振りを見せながらも、その美しさへの自信を垣間見せていた。
王の寵愛を得ようと彼女たちは必死だったが、ライが興味をもったものは、これまで誰一人としていない。
彼女らの必死さとは真逆で、サフィアの様子はどこか怯えているようにも見えた。
よく見れば、目元には薄らとくまが浮かび上がり、初めて目にした時よりやつれた様子だ。
「ルイの世話は難儀なものか?」
伏せていた顔を上げると、サフィアはとんでもないと、首を振る。
「そのようなことは御座いません。ルイ王子にお仕えできることは、とても光栄で、難儀だなどと思ったことは一度も御座いません。」
「ならば、何故そのようにやつれているのだ?」
「…ずっと、考えていたのです。やはり、わたくしのような者では、ルイ王子の世話係に相応しくないのではないかと。」
鋭い金の瞳に凝視され、サフィアはずっと考えて結論の出ないままでいた想いを打ち明けた。
寝巻き姿で王の目前に控えている。これだけでもう十分な失態だ。
なぜ此処に連れてこられたのかは分からないが、これでもう世話係の役目は終わったも同然だろう。
既に準備されていた琥珀色のとろりとした古酒を口に含むと、ライはつまらなそうに口を開いた。
「相応しいかどうかは、余が決めることだ。無駄に其方が考えることではない。」
ぼんやりとしていたサフィアの意識が、次第に鮮明になっていく。
「そこで何をしていたのかと問うている。」
何をと問われても、明確な理由など思いつかない。
気がついたら此処にいたのだ。
「…月が、今夜の月が、とても美しかったので、」
曖昧な返答しかできないサフィアへと、ライの鋭い視線が突き刺さる。
「それで、そのような姿で彷徨い歩いていたのか?」
そう言われ、自分が寝巻き姿のままであったことに、サフィアは初めて気が付いた。
「申し訳ございません!このような見苦しい姿を…」
自分のしでかした失態に、サフィアは慄いた。
父や兄の言う通り、やはり自分は…
サフィアの青白い顔から、さらに血の気が引いていく。
「何をそんなに萎縮している。ただ尋ねただけであろう?」
さらりと解いた銀糸の髪が、時折夜風に靡く。
生成りの薄い寝巻き一枚から覗かせる手足や首筋の白さは、月明かり中で一際浮き立っていた。
幻想的なその姿に、控えるエリクや護衛の誰かがごくりと息を飲み込む。
「…サフィアと言ったか?」
名を呼ばれ、サフィアはびくりと肩を震わせた。
「…はい。」
「付いて来い。」
長い黒髪を靡かせ、ライはその先へ進んで行く。
エリクから従うようにと視線を送られ、サフィアはライの後に従った。
前を行くライの黒髪からは、嗅ぎ慣れない異国の香りが漂う。
どこへ向かっているのかサフィアには全く検討もつかないが、黙って付き従うしかない。
木々で囲まれた暗闇を抜けると、目の前には大きな池が広がっていた。
池の中央に架けられた真紅の橋を、ライは振り返ることなく渡っていく。
橋の手前でぴたりと歩みを止めたエリクや護衛に倣い、サフィアも歩みを止めると、異国情緒漂うその景色に息を呑んだ。
王宮内にこのような場所があるとは、想像もしていなかった。
橋の中程で、ライの足が止まる。
「何をしている?付いて来いと言っただろう。」
エリクから背中を押され、サフィアは静かに橋を渡り始めた。
池の水面に映る月の光がゆらゆらと揺らめく。
一歩一歩歩みを進める度、サフィアはどこか知らない異国へと迷い込んだような錯覚に陥った。
橋の先には、四方が望めるよう造られた大きな東屋があり、ゆったりとした台座が設けられている。
慣れた様子で台座に座り込むと、ライは離れた所で佇むサフィアを呼び寄せた。
これだけの器量を持ちながら驕る様子もなく、どこか自信なさげなサフィアのことを不思議に思う。
気まぐれに一夜を共にする女たちは、従順に従う素振りを見せながらも、その美しさへの自信を垣間見せていた。
王の寵愛を得ようと彼女たちは必死だったが、ライが興味をもったものは、これまで誰一人としていない。
彼女らの必死さとは真逆で、サフィアの様子はどこか怯えているようにも見えた。
よく見れば、目元には薄らとくまが浮かび上がり、初めて目にした時よりやつれた様子だ。
「ルイの世話は難儀なものか?」
伏せていた顔を上げると、サフィアはとんでもないと、首を振る。
「そのようなことは御座いません。ルイ王子にお仕えできることは、とても光栄で、難儀だなどと思ったことは一度も御座いません。」
「ならば、何故そのようにやつれているのだ?」
「…ずっと、考えていたのです。やはり、わたくしのような者では、ルイ王子の世話係に相応しくないのではないかと。」
鋭い金の瞳に凝視され、サフィアはずっと考えて結論の出ないままでいた想いを打ち明けた。
寝巻き姿で王の目前に控えている。これだけでもう十分な失態だ。
なぜ此処に連れてこられたのかは分からないが、これでもう世話係の役目は終わったも同然だろう。
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「相応しいかどうかは、余が決めることだ。無駄に其方が考えることではない。」
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