黒獅子の愛でる花

なこ

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第七章

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祝祭は夜中まで続く。

夕方になると、目に見えてルイはぐったりとし始めた。

これからは大人の時間だ。

ルイを部屋に戻して良いものか、サフィアは思案する。

離れた場所では多くの人々がライを取り囲んでいる。

ライに尋ねるのは無理そうだ。

王妃に尋ねても良いものか、だが肝心の王妃の姿が見当たらない。

ルイの瞼は何度も閉じそうになり、その度にぱちぱちと瞬きを繰り返す。

もう一度ライへと縋るような視線を向けると、その視線に気がついたのか、ライがこちらへ足を向けた。

ライが進めば、その先はさーっと道が開く。

艶々とした乳白色の大理石の上を、かつかつと音を響かせライが向かってくる。

長く伸びた黒髪を垂らし、正装に身を包んだライの姿に、サフィアも賓客同様見惚れてしまった。

「どうした?何かあったのか?」

不思議とライの声を聞くと、心が落ち着く。

目の前まで来たライに、サフィアはルイを部屋に戻していいか尋ねた。

くったりとサフィアに寄り添うルイを見て、ライは護衛を呼び寄せると、部屋に戻って良いと告げてくれた。

「どうだ?少しは楽しめたか?」

ライに尋ねられ、サフィアは曖昧に笑みを浮かべる。

ずっと気を張っていたし、楽しめるような余裕は正直なかった。

「とても素晴らしい祝祭です。何もかもが眩しくて、きらきらと見えます。」

代わりにサフィアはそう答えた。

実際、こんな規模で人が集まる場はサフィア自身も初めてのことだ。

「ルイを部屋に戻してから、もう一度戻って来るといい。夜は其方自身が愉しむのだな。」

そう言って、ライはまた人混みの中へ戻ってしまった。

立ち去るライからは、いつものライの香りがした。




部屋に戻ると、ルイはすぐに寝入ってしまった。

部屋まではなんとか堪えている様子だったが、寝台を前にして力尽きた。

着飾っていた服を脱がせ、楽な寝巻きにしてやると、ふうと息を吐いて、そのまま寝息を立てている。

本当に、こんな小さな身体でよく頑張ったと思う。

しばらくの間ルイに寄り添っていると、サフィアもそのまま寝入ってしまいそうになるのを堪え、重い腰を上げる。

ライからああ言われてしまった以上、一度は戻らなければならない。

朝から何も食べていなかったことに気がつくと、何かお腹に入れて、すぐに戻ればいいかと思い当たる。

静まり返る中庭の回廊を通り過ぎ、ざわざわとした喧騒が聞こえてきた所で、サフィアの足は止まった。

大きな柱の影から現れた人物が、サフィアの目の前に立ち塞がる。

「…サフィ、やっと会えた。ずっと会いたかったんだ。」

サフィアは息を呑んで、二、三歩後退りをする。

「…どうして、ここに、」

「二人で話せる機会を窺っていたんだ。このまま会えなかったらどうしようと、思案していたところだ。」

目の前のリヒトは、これまでのことが嘘のように、学生時代と変わらぬ眼差しでサフィアを見つめている。

「…な、どうして、」

突然の出来事に、サフィアは言葉を失った。

「あの日、待ち合わせ場所に行けなかったこと、謝っていなかっただろう。それに、突然結婚なんてしたせいで、サフィを悲しませた。ごめんな。本当にすまなかった。」

対するリヒトはとても饒舌だ。

サフィアは首を横に振るしかできない。

「早く肩をつけてに行く予定だったのに、レノアール家にはいないと言うから、ずっと探していたんだ。」
 
という言葉に、サフィアはぴくりと反応する。

「…迎え?何を言ってるんだ?」

この半年ほどの間で、リヒトからは学生の雰囲気はなくなり、一人前の見栄えよい貴族の男性に様変わりしている。

「言葉のままだよ。迎えに来た。一緒に帰ろう、サフィア。」

差し伸べられ手を、以前のサフィアなら何の疑いもなく取ったことだろう。

サフィアはまた数歩後退りする。

「…サフィア、どうしたんだ?やっぱり、まだ怒っているのか?」

「リヒト、」

サフィアがリヒトの名を呼ぶと、リヒトに満面の笑みが浮かぶ。

「サフィ、」

「君が何を言っているのか、理解できない。一緒に帰る場所なんて、もうどこにも…いや、初めからなかったんだ。」

差し伸べられた手を振り払うと、リヒトの笑みがすっと消える。

「サフィア、俺の気持ちは何一つ変わっていない。サフィアなら分かってくれるはずだろう?」

サフィアにはリヒトの言う事が、何一つ理解できない。

じりじりと距離を詰めようとするリヒトのことを、サフィアは初めて怖いと感じた。

















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