追放された元・最強魔導士、辺境でスローライフを始めたらなぜか国ができました

黒川ねこ

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1章

第58話:精霊の暴走、そして最初の犠牲

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空が割れた。構造を模倣して生み出された“機械精霊”――再構成体の一体が、アルティナの術式を外れ、暴走を始めた。

「術式反応に歪みが……!?」

ユリウスが即座に感知した異常を告げる。

「動きがおかしい。制御術式が……“自壊ルート”に入ってる……!」

エルフィアの目が鋭くなる。

「構成が壊れかけてる。中の魔力が不安定になってるわ! あれが爆発したら……!」

リリアが空を見上げ、即座に判断する。

「――ヴァレムの住民たちを先に避難させて! セラ、頼める!?」

「任せて!」

セラが飛び出す。炎と風の加護をまとい、魔導通信を使って避難指示を広域に拡散させる。

その間にも、暴走した再構成体は街の南区へと向かい、まるで“意志”でもあるかのようにエネルギーを集中させていく。

「間に合わない……この速度じゃ、南の広場が……!」

リリアが詠唱を開始し、風の盾を構築する。

「風の結界《リーヴァ・シェル》! 半径八十メルト、出力最大!」

けれど、再構成体の魔力密度はその想定をはるかに上回っていた。

――そして。

光が弾けた。結界が砕け、爆風が街を包む。

その瞬間、地鳴りが響き、広場の一角が――崩れた。

「……うそ」

リリアが目を見開く。倒壊した建物の下、助け出された数人のうち、一人の精霊士が――そのまま、動かなかった。

若い女性だった。リリアが村で魔法の基礎を教えていた、フェンリースから来た転住者の一人。リリアは、彼女の名を知っていた。

「リアナさん……」

彼女の手を握ったとき、もう魔力の流れは残っていなかった。

精霊たちのさざめきが、悲しみに変わる。風も、水も、そっと沈黙した。

「……守れなかった」

リリアの声が震える。

「私が、“間に合わなかった”から……」

エルフィアが隣で立ち尽くす。アルティナもまた、遠くからその光景を見つめていた。

「こうなることは、ある程度、計算に入れてた。でも、これは――想定外」

アルティナが初めて、その表情にわずかな陰りを見せる。

「秩序のための犠牲。それが割り切れなくなったら、私は“正しく”いられなくなる」

誰の理想も、誰の戦いも、完全ではなかった。現実は、確実に痛みを伴って進んでいく。

その夜。リリアは墓標を前に、手を合わせていた。

「……私は、あの日を忘れません。必ず“この犠牲”を最後にします」

空の星が、ひとつだけ流れていった。
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