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第1話
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「何よ、これくらい、私にだってできるんだから」
それが、私の妹――シャノーラの口癖だった。
シャノーラは、何かにつけて、私と張り合いたがる。
いつも、私が面倒になってギブアップするまで、勝負を挑んでくるのだ。
シャノーラの私に対する競争心は、単に『負けず嫌い』というレベルを超えて、妄執に近かった。自分が勝つまで、指にかじりついたスッポンのように、食いついて離れないのだから。
一度だけ、なぜそんなに私と競争したがるのか尋ねたことがある。
シャノーラはギラギラした目つきで、こう答えた。
『ふん、そんなの決まってるじゃない。お姉様より私の方が優れてるってことを、証明したいからよ。私よりちょっと背が高いからって、いい気にならないでよね。身長以外は、私の方が、全部優秀なんだから!』
私は別に、いい気になどなっていないが、背が低いことがコンプレックスであるシャノーラにとっては、長身の私に見下ろされるのが、我慢ならないのだろう。
困った妹ではあったが、適当なところでこっちが折れてやれば、酷い喧嘩になることもなかったし、まあ一応、姉妹仲は良好だった。……私が、国王陛下から、国を守る『聖女』に任命されるまでは。
わが国では、十年に一度、国内で最も魔力の高い女性が聖女に任命され、魔物たちから国を守るための、魔法の結界を張る役目が与えられる。
この国で生きる女にとって、聖女に任命されるというのは、究極の栄誉だ。役目を果たした後は、王族と婚姻関係を結んで、王家の一員になり、特別な暮らしをすることができる。
だから、聖女に任命されることを夢見て、幼いころから、魔力を高めるための修行を続けている女性は多い。……シャノーラも、その一人だった。いつも、野心に溢れた目で、『私、絶対に聖女になって、王子様と結婚するわ』って言ってたっけ。
そんな妹を差し置いて、大して修行もしていない私が聖女に選ばれてしまった。なんだか申し訳ない気持ちである。だいたい私、聖女なんて、やりたくないのよね。王族との結婚だって、別に興味ないし。それに、十年も結界を張り続けるのって、なんか凄く疲れそうじゃないの。
しかしまあ、聖女に選ばれてしまったものは仕方ない。
私は毎日、神殿で祈りを捧げ、結界を張り、聖女として退屈な日々を過ごしていた。……そこに、ある日突然、シャノーラが現れた。シャノーラは血走った目で私を睨み、憎々しげに言う。
「本当なら、私が聖女になるはずだったのに……! そして、王子様と結婚するはずだったのに……! お姉様……よくも、私から夢を奪ってくれたわね……絶対に許さないんだから……!」
それが、私の妹――シャノーラの口癖だった。
シャノーラは、何かにつけて、私と張り合いたがる。
いつも、私が面倒になってギブアップするまで、勝負を挑んでくるのだ。
シャノーラの私に対する競争心は、単に『負けず嫌い』というレベルを超えて、妄執に近かった。自分が勝つまで、指にかじりついたスッポンのように、食いついて離れないのだから。
一度だけ、なぜそんなに私と競争したがるのか尋ねたことがある。
シャノーラはギラギラした目つきで、こう答えた。
『ふん、そんなの決まってるじゃない。お姉様より私の方が優れてるってことを、証明したいからよ。私よりちょっと背が高いからって、いい気にならないでよね。身長以外は、私の方が、全部優秀なんだから!』
私は別に、いい気になどなっていないが、背が低いことがコンプレックスであるシャノーラにとっては、長身の私に見下ろされるのが、我慢ならないのだろう。
困った妹ではあったが、適当なところでこっちが折れてやれば、酷い喧嘩になることもなかったし、まあ一応、姉妹仲は良好だった。……私が、国王陛下から、国を守る『聖女』に任命されるまでは。
わが国では、十年に一度、国内で最も魔力の高い女性が聖女に任命され、魔物たちから国を守るための、魔法の結界を張る役目が与えられる。
この国で生きる女にとって、聖女に任命されるというのは、究極の栄誉だ。役目を果たした後は、王族と婚姻関係を結んで、王家の一員になり、特別な暮らしをすることができる。
だから、聖女に任命されることを夢見て、幼いころから、魔力を高めるための修行を続けている女性は多い。……シャノーラも、その一人だった。いつも、野心に溢れた目で、『私、絶対に聖女になって、王子様と結婚するわ』って言ってたっけ。
そんな妹を差し置いて、大して修行もしていない私が聖女に選ばれてしまった。なんだか申し訳ない気持ちである。だいたい私、聖女なんて、やりたくないのよね。王族との結婚だって、別に興味ないし。それに、十年も結界を張り続けるのって、なんか凄く疲れそうじゃないの。
しかしまあ、聖女に選ばれてしまったものは仕方ない。
私は毎日、神殿で祈りを捧げ、結界を張り、聖女として退屈な日々を過ごしていた。……そこに、ある日突然、シャノーラが現れた。シャノーラは血走った目で私を睨み、憎々しげに言う。
「本当なら、私が聖女になるはずだったのに……! そして、王子様と結婚するはずだったのに……! お姉様……よくも、私から夢を奪ってくれたわね……絶対に許さないんだから……!」
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