お母さんに捨てられました~私の価値は焼き豚以下だそうです~【完結】

小平ニコ

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第16話

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 それはそうなのですが、自分でもそれなりの腕になったと思っていた私は、完全に私を侮っている侯爵様の発言に、少々ムッとしました。そして、そんな自分に驚きました。私にも、知らず知らずのうちに、自尊心というものが芽生えていたのです。

 かくして、私と侯爵様のマブド対決が始まりました。

 私は、これまでで最高の集中状態で対局に臨むことができました。

 侯爵様に領民とじかに対話してもらい、皆が侯爵様を蔑んでいるわけではないことを知ってもらいたい気持ちと、私もいっぱしのマブドの打ち手になったことを侯爵様に認めてもらいたい気持ちが合わさり、それが良い方向に作用しているようでした。

 しかしそれでも、私と侯爵様の実力差は歴然としており、かなり良い勝負にはなったものの、私は負けてしまいました。私は無意識のうちに、唇を噛みしめていました。悔しさをこらえきれずに唇を噛むなんて、人生で初めての経験でした。

 侯爵様は「ふぅっ」と息を吐き、短く言います。

「俺の勝ちだな」

「……はい」

「いや、恐れ入ったぞ。リネット、お前、何かを賭けていた方が、駒に気迫が乗るタイプなんだな。特に終盤の攻めには、思わず冷や汗をかかせられた」

「でも、結局は負けてしまいました。まだまだ未熟者です」

「自分でそれが分かるだけ大したものだ」

 そう言って、侯爵様はマブドの盤を片付け始めます。そのさなか、私の方には視線を向けず、侯爵様は淡々と言葉を発していきました。

「勝負は俺の勝ちだが、お前の言っていることも、まあ一理ある。領地すべての視察はおこなわないが、お前の言っていた『俺のことを尊敬する領民』とやらのところくらいは、見て回ってもいい」

「えっ?」

「どうした、何を驚いている。まさか、さっきのは嘘で、本当は『俺のことを尊敬する領民』などいないのではないだろうな?」

「そ、そんなことありません、ちゃんといます。明日、ご案内いたします」

「ああ、頼むぞ」





 そして翌日。
 私の案内で、侯爵様は私の住んでいた村を訪れました。

 突然の侯爵様の訪問に、みんな驚きましたが、私の村の人々は、侯爵様を敬愛する人たちばかりでしたから、中には涙を流して喜ぶ人もいました。これには侯爵様もいたく感激され、冷たく閉ざされていたお心にも、いくばくかの変化があったように、私は思えました。

 ……ひさしぶりの里帰りでしたが、私は実家に顔を出したりはしませんでした。お母さんが私を娘と思っていなかったように、私もまた、あの人のことを母親とは思わなくなっていたのでしょう。
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