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第13話【完結】
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いや、もちろん、以前に比べたら、落ち着きが出て、成長したとは思うが、それでも、ダンストン先生が好きだった『大人しいエリザベラ』とは別人であることは、確かだろう。
私は、恐ろしかった。
事故に遭った後、行動的な性格が弱々しくなったことで、バーナルドが私のことを嫌いになったように、今また、大人しかった性格が、気の強いものになったことで、今度はダンストン先生が、私に違和感を覚えるのではないかと思うと、不安で不安でたまらなかった。
しかしダンストン先生は、私の不安など、すべて吹き飛ばすかのような力強い笑顔で、言う。
「エリザベラさん、性格が多少違っても、あなたの本質は、少しも変わっていませんよ。あなたは努力家で、周りの人たちへの感謝を忘れない、素晴らしい女性です」
「ダンストン先生……」
「それに、以前の穏やかさも、現在の快活さも、すべて、あなたの性格の一部です。そういう一部を全部含めた、『あなたの心そのもの』が、私は好きなんです。だいたい、どんなに気の強い人でも弱気になることはありますし、穏やかな人でも、時には怒ることがあります。そんな些細な変化で、人を嫌っていては、信頼関係なんて、築くことはできませんよ」
理論的な説明の中に、限りない愛情を感じ、私は安堵感から涙ぐむ。
この人となら、きっと素晴らしい未来を描くことができるだろう。
私は小さく頷き、そして、もう一度ダンストン先生と口づけた。
窓から差し込む光はさらに力を増し、私たちを温かく包み込む。
眩い陽光の中、私は大切な人の胸に顔を埋めながら、事故に遭った際、最初に運び込まれたのがこの病院であったという、不思議な奇跡に感謝した。
酷い事故だったし、もう一度暴れ馬に跳ね飛ばされたいとは思わないが、あの事故がなければ、ダンストン先生と出会うこともなく、まったく違う人生を送っていたことだろう。
そう思うと、この世の中で起こることには、すべて、なんらかの意味があるのかもしれない。……少なくとも私にとっては、その『意味』が、良い方向に働いた。
だって、上辺だけの性格ではなく、私自身の本質を見て、愛情を注いでくれる、賢く、優しく、そして誠実な男性――ダンストン先生と、出会うことができたのだから。
私は彼の広い背中に腕を回し、強く抱きしめる。
苦難の果て、手に入れた愛情を、離してしまわぬように……
もう二度と、何があったとしても、愛する人を、忘れてしまわぬように……
終わり
――――――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本日から新作『追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです』を投稿しております。
人里離れた森の奥で、魔法の研究をしていた主人公は、ある日突然、『邪悪な魔女』呼ばわりされて、国を追放されてしまいます。しかし主人公は、実際は魔女なんかではなく、本人も気づかぬうちに、国を災いから守っていた聖女でした。
そのため、聖女の加護を失った国は、とんでもないことに……
という感じのお話です!
よろしければ見てもらえると嬉しいです!
私は、恐ろしかった。
事故に遭った後、行動的な性格が弱々しくなったことで、バーナルドが私のことを嫌いになったように、今また、大人しかった性格が、気の強いものになったことで、今度はダンストン先生が、私に違和感を覚えるのではないかと思うと、不安で不安でたまらなかった。
しかしダンストン先生は、私の不安など、すべて吹き飛ばすかのような力強い笑顔で、言う。
「エリザベラさん、性格が多少違っても、あなたの本質は、少しも変わっていませんよ。あなたは努力家で、周りの人たちへの感謝を忘れない、素晴らしい女性です」
「ダンストン先生……」
「それに、以前の穏やかさも、現在の快活さも、すべて、あなたの性格の一部です。そういう一部を全部含めた、『あなたの心そのもの』が、私は好きなんです。だいたい、どんなに気の強い人でも弱気になることはありますし、穏やかな人でも、時には怒ることがあります。そんな些細な変化で、人を嫌っていては、信頼関係なんて、築くことはできませんよ」
理論的な説明の中に、限りない愛情を感じ、私は安堵感から涙ぐむ。
この人となら、きっと素晴らしい未来を描くことができるだろう。
私は小さく頷き、そして、もう一度ダンストン先生と口づけた。
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眩い陽光の中、私は大切な人の胸に顔を埋めながら、事故に遭った際、最初に運び込まれたのがこの病院であったという、不思議な奇跡に感謝した。
酷い事故だったし、もう一度暴れ馬に跳ね飛ばされたいとは思わないが、あの事故がなければ、ダンストン先生と出会うこともなく、まったく違う人生を送っていたことだろう。
そう思うと、この世の中で起こることには、すべて、なんらかの意味があるのかもしれない。……少なくとも私にとっては、その『意味』が、良い方向に働いた。
だって、上辺だけの性格ではなく、私自身の本質を見て、愛情を注いでくれる、賢く、優しく、そして誠実な男性――ダンストン先生と、出会うことができたのだから。
私は彼の広い背中に腕を回し、強く抱きしめる。
苦難の果て、手に入れた愛情を、離してしまわぬように……
もう二度と、何があったとしても、愛する人を、忘れてしまわぬように……
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――――――――――――――――――――――――――――――――
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そのため、聖女の加護を失った国は、とんでもないことに……
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