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第12話

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 ダンストン先生も頷き、静かに話は続く。

「あなたにそう言われた時、私は平静を装っていましたが、実はかなりショックを受けていました。……それまでも、患者さんに治療の継続を拒否され、困ったことはあります。しかし、その時私が感じたショックは、困惑や焦りといった類のものではなく、胸を刺すような、切ない痛みでした」

「切ない痛み……」

「医師として恥ずべきことかもしれませんが、勤務時間後に、あなたと二人きりで過ごすセラピーの時間を、私は楽しんでいました。物静かで穏やかなあなたと、少しずつ言葉を交わす時間は、仕事に追われ、同年代の異性と出会う機会もない私にとって、鮮やかで美しく、幸福な時間でした」

 そこで一度言葉を切ると、ダンストン先生は窓際に行き、閉じられていたカーテンを開けながら、語り続ける。

「だから、『セラピーをやめたい』と言われた時は、もう私と二人きりで話すのが嫌になったのかと思ったんです。私の、あなたに対する好意を悟られ、公私を混同する、俗な医者だと嫌悪された……そう思うと、本当に、胸が張り裂けそうでした」

 私は、思わず大きな声を上げた。

「嫌悪だなんて、そんな……! 私、ダンストン先生には本当に感謝しています。……いえ、私のこの気持ちは、治療をしてくれたお医者様に対する、単純な感謝とは違う……私は、一人の男性として、あなたのことが……」

 そこから先は、もう言葉は必要なかった。

 開かれたカーテンの間から差し込む、神々しい朝日に照らされながら、私とダンストン先生は抱きしめ合い、口づけをかわす。

 ……『抱きしめ合い』と言ったが、抱きしめたのも、口づけをしたのも、私からだ。互いに想いあっていたことが明確に分かった以上、私はもう、一秒だって、彼に対する熱情をこらえることができなかったのだ。

 貪るような口づけの後、ダンストン先生は、少しだけ気恥ずかしそうに微笑し、弱々しく目を逸らせた。いきなり進展した二人の関係を、喜ばしく思いながらも、少々戸惑っているのだろう。

 そんなダンストン先生を、逃がさないと言うように強く抱きしめ、私は言う。

「ふふ、先生。こんな、ちょっと強引で、グイグイ来るタイプの女は嫌ですか? ……もしかしたら、記憶を失っている間の、大人しい私の方が、先生の好みでしたか?」

 私は、内心の不安をごまかすため、あえて冗談めかした言い方をした。

 ……ダンストン先生は先程、『物静かで穏やかなあなたと言葉を交わす時間が幸福だった』と述べた。記憶が戻った、本来の私は、ハッキリ言って、物静かな女でも、穏やかな女でもない。
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