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第11話

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「ええっ、それで、バーナルドさんとの婚約、解消してしまったんですか?」

 数日後の病院にて。バーナルドとの婚約破棄騒動の顛末を聞いたダンストン先生が、素っ頓狂な声を上げる。……驚いた様子とは裏腹に、その態度は、どことなく嬉しそうだった。

 私はカルテの整理をしながら、ダンストン先生を見上げ、ちょっとだけからかうように、言う。

「先生、なんだか嬉しそうですね」

「そ、そんなことありませんよ。……いえ、そうですね。正直に言えば、嬉しいというか、ホッとしています。入院中のあなたに対するバーナルドさんの態度を見ていて、『この人にエリザベラさんを任せて、本当に大丈夫だろうか』と、多少なりとも心配はしていましたから」

「それって、お医者さんとして、患者である私のことを心配してくれていたってことですか? それとも私を、一人の女として認識して、問題のある男とくっつかなかったことに、ホッとしてくれたんですか? ……先生は私のこと、どう思っていますか?」

 私の質問を受け、ダンストン先生は黙り込んだ。
 ……自分でも、驚くほど大胆なことを聞いたと思う。

 でも、聞かずにはいられなかった。

 ダンストン先生は、どんな患者さんにも優しい。
 当然、私にも優しかった。

 その、私に向けられていた優しさが、所詮、一患者に対する博愛的なものにすぎなかったのか、それとも、私をちゃんと異性と認識して、特別な想いを注いでくれていたのか、知りたくて知りたくてたまらなかった。

 だって私は、記憶を失ってから今までの間、誰よりも親身に接してくれたダンストン先生のことを、好きになっていたから。

 自惚れかもしれないが、ダンストン先生も、私に対し、好意を持ってくれていると思う。少なくとも、嫌われてはいないはずだ。いくら親切なダンストン先生でも、好きでもない相手のために、勤務時間外に、長々と記憶を取り戻すセラピーをしてくれたりはしないだろう。

 ……いや、しかし、誰にでも優しいダンストン先生なら、嫌いな相手にでも、親身に接するかもしれない。そう思うと、どんどん自信がなくなってくる。

 しばらくして、ダンストン先生は閉じていた唇をゆっくり開いた。
 その瞳は、いつも通り、どこまでも柔和で、限りなく優しい。

「……もう何ヶ月前になるでしょうか。覚えていますか? エリザベラさん。あなたが、『記憶を取り戻すためのセラピーをやめたい』と言った日のことを」

 いきなり、何の話だろう。
 そう思ったが、私は特に口を挟まず、小さく「はい」とだけ頷いた。
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