この村の悪霊を封印してたのは、実は私でした。その私がいけにえに選ばれたので、村はもうおしまいです【完結】

小平ニコ

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第13話

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 代わりにあちこちに生えているのが、クォール様もおっしゃっていた『黒色の植物』だ。針金を束ねたものに、黒い塗料をかけたような、異質な植物。近寄って香りを嗅ぐと、腐った布のような匂いがした。

 一時間ほどの散策を終え、祠の前に戻ると、私と同じように山を見回っていたクォール様とバッタリ再開する。私の姿を見て、クォール様は少しはにかんだ。

「おかえり、カレン」

 おかえり――

 初めての言葉だった。

 どこにも外出を許されない私は、どこかに行って、帰ってくることはない。それに、私に『おかえり』と優しい声をかけてくれるような優しい家族はいない。

 胸が、かすかに高鳴るのを感じる。

 あたたかい。
 この気持ちは何だろう。

 なんだかわからないが、嬉しかった。
 誰かに『おかえり』といってもらえたのが、とても嬉しかった。

 こういう時は、『ただいま戻りました』と返すのが普通なのだろうが、緊張のせいか、あるいは気恥ずかしさのせいか、私は何も言えず、馬鹿みたいに二回頭を下げ、山で見たことをそのままクォール様に報告した。

「そうか。僕の見回って来たあたりも、ほとんど同じだよ。鳥も動物もこの山を離れ、黒色の植物だけが、どんどん増えている」

 はにかんでいたクォール様の顔が、明らかに沈んでいくのがわかった。クォール様は瞳を閉じ、小さくため息を漏らす。

「たぶん、この山――いや、この土地はもう長くない」

「長くないとは、どういうことですか?」

 おそらく、簡単な比喩表現なのだろうが、真っ当な教育を受けていない私には、その意味を完全に推し量ることは難しかった。

 クォール様は優しく微笑み、私にも分かるよう、かみ砕いて話を続けてくれた。

「人間に例えるなら、死が迫っているということだよ。この土地は、そう遠くない将来、死んでしまうんだ。あの黒い植物は死黒草。終わりの近い土地によく生える草で、少なければまだ土地が治癒する見込みがあるんだけど、あれだけ多いと、もうどうしようもない……」

「そうですか」

 我ながら、そっけない返事だった。私はハッキリ言って、この辺りの土地に何の愛着もない。というより、現実の山も森も村も人にも、何の愛着もない。私にとって現実とは、ただひたすら、私に苦痛を与えるためだけに存在するものだからだ。

 しかし、次にクォール様が発した言葉は、無感情で無感動な私にも、少なからず衝撃を与えた。

「そして、土地の守護精霊である僕自身の命も、あとわずかだ。土地の死とともに、僕も死ぬことになるだろう」
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